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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
第一章 ブイヤ領のゴブリン達。
23/37

襲来!悪の冒険者。

ここからやっとこさ第一章です!(^▽^)/

というかもうGW終わるんだが?(絶望)


 俺はタロー。先代魔王の難聴が過ぎるグノーのオッサンからタロントンなんてけったいな名前を付けられてしまったが、タローでいいぞ? イヤ、タローと呼べ!頼むから!! なんだタロントンって!? そんな名前の奴この世の中広どそうそういないんじゃないの? …多分だが。


 そして、イキナリこのゲームみたいな異世界で魔王をやらされるハメになった男だ。…だが、魔王になった俺にはゴブリンの配下マットがひとりだけ。しかも、俺が魔王となったブイヤ領はグノーのオッサンのさらに先代あたりがやらかした魔力の大枯渇とやらで見事な不毛の大地が大部分を占めていた。味方のゴブリン達も既に百年単位で既に干上がってしまっており、どこぞの世紀末のような明日生きられるかレベルの生活を強いられていた有様である。


 無理ゲー。そう思ったが、マットが俺の下に来てから娘のティア。マットの身内であるアーボ達と…どんどんゴブリン達が集まって賑やかになってくると俺も楽しくなったきた。もうゴブリン達は俺の家族同然だ。


 …しかし、こんなモンスターが当然のようにいるからにはそれに敵対する存在。例えばモンスターを狩る冒険者、つまり人間サイドの敵対者がいるかもしれないと思った矢先にだ…懸念は直ぐに現実となって現れた。

 ここブイヤ領にはもうゴブリンくらいしか亜人(仲間になってくれるモンスター?言葉がわかるモンスター?)が居ないらしいのだが。ドク、ザッカ、ジェンシの3つの部族の内、人間の町インペスに近い場所で暮らしていたザッカの一族が人間の冒険者達に襲われたのだ。その被害で死んだゴブリンも出てしまった…。


 そして、逃げ延びたザッカのゴブリン達、そしてハイ・ゴブリンであるマットとは義兄弟のハンスが俺の仲間に加わった。


 それだけならまだしも、なんとティア達がハイ・ゴブリンという強い(っぽい)ゴブリンに進化したのだ!やったぜ!


 と、思ったらアクシデントは続くものなのだと実感する。件の冒険者達がゴブリン達を追って俺達の本拠地まで攻め込んできやがったのだ!



 …………。


 

「………と、なんかそれらしいエピローグを考えていたんだがなあ~」

『相変わらず呑気ね、アンタ…』


 俺の頭上に座り込む自称アドバイザーの王精とかいう謎存在のヴェスが溜め息を吐いてらっしゃる。黙ってりゃ割と人気が出そうな見た目なんだが…。


「ううっ…!」

「痛えよ…痛えよぅ…」

「…………(完全に気絶)」

「クソが!なんで俺様達がこうも一方的に…!?」


 そこには無残な姿で転がされる冒険者然とした姿の人間…まあこの世界じゃ人間族だとか種族的にはヒューマンだったか? そのヒューマン4匹の姿があった。 …なによこれ~?


「…えっ! うちのゴブリン達、強過ぎ!?」

『……アンタが言いたかっただけでしょ? そのネタ』

「アッシもコイツらには呆れてものが言えねえでやすがね。魔王の旦那…どうしやす?」


 俺の前には自慢気に胸を逸らすティア、アーグ、アーボの3人と後ろで俺に向って平伏するゴブリン達。そして横を伺えば笑顔で膝まづいて俺を見上げるマットとドガとエマ…あ。ハンスだけ表情が疲れているというか白けてるけど。


「ま、いいや。取り敢えずさあ…腹空かない? 朝飯にしようよ。その後にルッチとヨスクとセブの葬儀だな。アーキン、頼むぞ」

「はい!タロー様」


 俺達は冒険者(笑)達を放置して朝食をとりに笑いながらテント群の方へと向かっていくのだった。金髪碧眼のザコがまだ減らず口を叩いてやがるが、無視だ。無視。



 ※



「クソッタレめ!もう来やがったのかよ。いくぜ!マット!」

「応っ!魔王様、失礼します…ティア。他のゴブリンの女と子供だけでも逃げる準備をしておけ」

「マット殿!ザッカの戦士も共に戦いたい!」

「「そうだ!そうだ! 仇を討たせてくれ!」」


 武器を手に取り駆けだそうとするマット達の足元に縋る3人のゴブリン達。ハンスが助太刀する最後まで懸命に冒険者達と戦ったザッカの戦士達だ。


「…ミファ!それにトルマにロソ!お前達はまだ怪我が完治していなだろう。悪いが若いのを無駄死にさせる訳にはいかんな」

「そうだぜ。頼まれなくてもルッチ達の仇はアッシらが討ってやりやすからよぅ、病み上がりはすっこんでなよ! さっきのマットの岩撃ちを見たでやしょう? 楽勝でさあ」


 ハンスがミファ達にウインクして見せるとマット共に駆けていく。


「無念だ…!」


 歯ぎしりしながらミファ達が涙を流しながら蹲る。俺はその肩を優しく叩いてやることしかできなかった。



 ※※



「おいおい…!なんだよコリャ…? とんだ大発見だぜ!」


 大斧を担いだ金属鎧の男が感嘆の声を漏らす。クライスのパーティの壁役であるモービックだ。


「驚いた…こりゃあゴブリンベリーの畑で小銭稼ぎしてる場合じゃなくね?」


 両手で湾曲刀(シミター)をヒラヒラと泳がし、鳶色のザンバラ髪を後ろに伸ばした女戦士キストラが残忍な顔を歪ませる。


「私にあの糞みたいな矢を撃ってくれた馬鹿ゴブリンを狩りに来たんだけどね…思った以上の拾い物じゃない、クライス? 使った治癒のポーションの補充くらいわできそうね」


 枯草色のローブを靡かせる女魔術師リュカが肩の傷を摩りながら先頭を歩いていた男に尋ねる。


「ハハハ…まさかこんな寂れた領にこんな隠し畑があったとはなあ~!俺様達はマジで女神に愛されてるらしいな。 ポーションの補充? 馬鹿を言えよ。下手したら聖王領の中央で屋敷が買えちまうかもしれないぞ!」


 瞳に映る青々としたこの世界では大変貴重な作物を既に自分のものであると信じてやまない金髪碧眼の男、何も知らない者が見れば典型的な勇者像をした青年であったがその眼は欲で濁りきっていた。


 この男、クライスとその一行は元々はブイヤと隣接するアメア領のギルドに所属する冒険者だったが、自他領での亜人に対する目に余る恐喝や暴行などの所業からとっくにギルドからは排斥されていたのだが、闇商人の伝手で聖王領の人間族が独自に展開しているギルドから偽造ライセンスを手に入れており、未だにのらりくらりと隠れながら悪行を繰り返す冒険者くずれの悪党だった。


「まあ、どっち道ゴブリン共には生きていられちゃ困るだろ? インペスの奴らにチクられると流石に聖王領から出られなくなっちまう。そも亜人だけじゃ飽き足らずモンスターまで追い出してる始末の聖王領じゃ冒険者の仕事なんてないしあ~」

「言うなよ、キストラ。だからこうやってブイヤ領にまで出ばるハメになったんじゃねェーか」

「まあ、そのお陰でこんな場所を見つけられんたんだから良かったじゃない? ねえ、クライス。できれば何匹かゴブリンを残してくれない? ギルドに高く売りつけるにしたって流石にこの量を運ぶのは無理でしょ。 あ。あの矢を撃ってきた奴は駄目よ。アタシが殺すから」

「わかってる。まあ、荷運びさせるゴブリンは町の近くで始末すればいい。…それとこの畑を世話させるゴブリンも残して飼った方がいいかもな…っと流石にこれだけ近づけばアッチから来てくれたか?」


 冒険者の前にはいつの間にか二人のゴブリンが仁王立ちしていた。凄まじい怒気を放っている。


「貴様らがルッチを……ザッカを襲った人間族だな?」

「おやまあ…魔術師のおねーさん。肩の傷は、もういいんでやすかい? 折角、アッシの“沈黙の矢(とっておき)”をプレゼントしたんでやすが」

「…出たわね、糞ゴブリン。アンタ…アメアでもチョロチョロろアタシ達を探っていたでしょ、知ってるんだから。アンタの糞矢のせいで貴重なポーションを3瓶も使うハメになったわよ!」


 ハンスが女魔術師を挑発している最中、マットと目が合った双剣の女戦士が若干顔を引きつらせる。


「オレ…あの隣の弓持ったチビはパス。バンダナの方は何とでもできるけど、なんか直感でヤバイ…多分レベル差か…厄介なスキル持ちか、わかんないけど」

「お前の“感知”スキル。意外と馬鹿にならねえよなあ~。仕方ねえ、いつも通り前に出るか…こういう時はホント俺は損こくよな。せめてうちの大魔術師が治癒(ヒール)か状態異常回復のひとつでも使えるんならいんだけどよう」

「モービック。それ以上ぼやくならアンタも魔法のターゲットに入れてやってもいいわよ?」

「お前ら…もういつも通りでいくぞ。モービックが牽制、後方から俺様とリュカが魔法。それからキストラが追撃。んでトドメが俺様…いいな?」


 他の3名は沈黙で応え、マットとハンスもまた得物を手に取り構える。緊張感がその場に奔る。


「できたら、アーボ達を連れてこれればもっと勝ち目はあったんでしょうがねえ」

「いいんだ。ティアとアーボ達なら魔王様を御守り出来るであろうしな」

「………いや、ここにいるぞ?」

「「っ!?」」


 マットとハンスが腰を抜かしそうな勢いで振り返ると、そこにはタローと他のゴブリン達…恐らく子供を除いてほぼ全員がいた。


「だ、旦那ぁ!?」

「魔王様、何故です。後ろに御下がりください!」

「嫌だよ。そんなことよりも…アイツらか?」


 大勢のゴブリンを目の前にしても冒険者達はさして動揺していなかった。


「はっ!雑魚共が大勢で来たところで俺様達が負けるわけがないんだよなあ~。それよりも手間が省けたぜ。全員じゃあねーだろうが、隠れてるゴブリンは戦闘能力がほぼ無い奴らだろ。飼う方ならそっちの方が簡単だろうしな」

「そうね。魔法の範囲攻撃で一掃できるわね…クライスの言う通りだわ」

「おい、リュカよお…張り切るんわ良いけど俺達の作物まで吹っ飛ばすんじゃあねえぜ? ガハハッ!」


 タローの不意打ちで出鼻を挫かれたマット達だったがさっと身構え直した。


「貴様らにくれてやるものなど無いっ!此処から失せろっ!」


 マットが険しい顔で最後の警告を叫ぶが、前方の鎧男が急にタローを指差した。

 

「……おい? ちょっと待て。お前…人間じゃあねえのか? イヤ、頭からツノなんて生えてるから亜人か? …てんで弱そうだが」


 その一声でゴブリン達の怯えが怒りに塗りつぶされ、もはや殺気に変わる。流石にそれには前衛のモービックも後退りそうになる。


「無礼者めが!この御方こそブイヤ領の魔王様であらせられるぞ!」

「ま、魔王…? おい、クライス。流石に魔王はヤバイんじゃあねえのか…」

「ビビるなよモービック。そもそもブイヤ領の無能魔王なんて世界中が知ってるぞ? 何でも山賊に何度も城を襲われる度に命乞いするわ、むしろ魔王の座を変わってくれと頼んだなんて話も聞くくらいだ。昔、ガキの頃にインペスで飽きるほど聞かされたからな」

「そうよ。こんなくたびれた土地で雑魚のゴブリンの王なんて笑えるわね」

「プププッ…!」


 このやり取りでゴブリン達の細い導火線に火がついてしまったのだろう。武器を装備できるゴブリン達が得物をそれぞれ手にし始めた。

 それはマットやハンスも例外ではなく、額に青筋を浮かべながら弓を引き絞った。


「……ちょっと待ってよ!」

「「おうともっ!!」」


 対峙するマットと冒険者達の間に立ちはだかる者達がいた。


「ティア!?」

「お前ら進化したばっかだろ!まだ身体がろくすっぽ動かねんじゃあねぇのかい!?」


 冒険者達の前に立ち塞がったのはティア、アーボ、アーグ、アーキン、エマの5人だった。


「げっ!? ハイ・ゴブリンが5匹も!バンダナ野郎だけじゃなかったのか!?」

「この馬鹿が落ち着きなよっ! 見なよ? マトモな装備の奴はたった1匹だけだろ。…それにオレの感じたとこだとレベルは低いぜ」

「良し。どうせ魔王とやらの悪足掻きだろう…なら数が増えたところで俺様達の敵じゃあないぜ。それにしてもあのゴブリンの装備しているヤツだけは見事だな?」

「あのゴブリンから引っぺがして聖教のいけ好かない坊主に売りつけたら結構いい値になりそうじゃない?」


 だが、それでも冒険者達の強欲が傾いた秤から動くことはなく、むしろアーキンの衣を見て目を輝かせる。


「…よし、では皆。私の作戦通りでお願いしますよ」

「うん!父さんは下がってよ。ボク達がタロー様にカッコイイところ見せるんだから!」

「マット案ずるな!魔王陛下はこの私が全ての敵を薙ぎ払い御守りする!行くぞ!息子達っ!今こそ始祖から続く我らドクが大恩あるブイヤ領現魔王、ブイヤ・タロントンの名に懸けて報いる時だ!」

「おうともさ、親父!魔王様から頂いたこの剣で奴らを倒すぜ! 見ててくれよ、オフクロ…!」

「私は皆を(タロス)の力で援護します…!」

「…ドガ。あまり無理はしないでね? まあ、コイツらをちゃちゃっと始末しちゃうから少しだけ待っててね」


 ザッカの長であるホンポに肩を支えて貰いながらもドガの声に応えたティア達が身構える。


「おいおい、ドガ。本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ…生憎、私は今回で新たに得たスキルの負荷が大きいのか…今回の戦いには参加できません。しかし、ティア達に冒険者を打倒する作戦を考えました。 …では、作戦開始っ!!」


 そのドガの叫び声で一斉にティア達が動く。


「来やがったか死にたがり共め!リュカ、魔法の準備をしろっ!」

「言われんなくてもやってやるわよ!」


 前衛であるモービックが飛び出し、遅れてキストラが。後方のクライスが腰に佩いてた剣を抜き放ち、隣のリュカが呪文を詠唱し出すと魔力の循環から体の周囲が淡く光出す。


「ティア、今です!」

「うん!」


 ティアの身体が一瞬、オレンジ色に光ったかのように見えた。彼女は自身の腰にフンドシのように括りつけていた袋から取り出したものをリュカ目掛けて投擲する。


 パリンッ。


「(ブツブツ)…え!? ゴホッ!ナニコレ!? ゴフッ!ゴブホォッ…!」

「クソが! 何を投げつけやがったあのメスゴブリン!」


 瓶らしきものがリュカに当たって砕け散ると黒煙が噴き上がり、一瞬で包み込んでしまった。辛うじてクライスがその煙から逃れる。


「やった!当たったよ、タロー様♪」

「なんなのよあの煙…というかティアが一瞬光ったような?」

「はい。私のスキル“作戦”によるものです。私の指揮に従って行動した者を少しですが強化できます。どうやら成功率や回避率などに影響を及ぼすようです」

「へ、へえ~」

「見て下さい!タロー様っ!ボクが元々持っていた“調合”と新しい“新薬”スキルで作った窒息ポーションの威力!」

「…ち、窒息ポーション?」

「彼女は薬草ゴブリンからゴブリンアルケミーに進化しました。新たに得たスキルである“新薬”は彼女の閃き次第で新しい効果のポーションを作れる画期的なものです!恐らく今後は治療薬ではなく、強力な戦力となってくれるでしょう」

「もうドガ兄ぃ!ボクからタロー様に教えたかったのに~!」


 そう言って未だ戦闘中なのにも関わらずタローの腕にキャッキャと抱き付くティア。抱き付かれた当人はやや引き攣った顔でティアを見ていた。


 その煙からどう足掻いても逃れられなかった哀れな女魔術師はバタバタと走り回るものの数秒で地面に倒れ痙攣し始めた。恐らく激しい恐慌状態で乱した呼気によって毒が早く回ってしまったのだろう。


「えげつねえなあ…。恐らくわざと強い毒にしてねえから苦しむ時間を長くしてやがる。だが、呪文タイプの魔法使いには特攻だわな。強制的な沈黙状態と行動不能か…いや、別に誰でも同じ結果になっちまうのかねえ」

「ティア…立派になりおって…! ベル、見ているか…お前の娘の姿を」


 マットは飛び跳ねるティアを見て鼻を啜った。


「マジか!?」

「リュカがやられた…!でも、まだクライスの魔法がある!突っ込むぞ鈍亀!」

「誰が鈍亀だ!? クソッタレ!こうなったら俺の斧で真っ二つしてやらあ!」

「モービック!キストラぁ!あのメスゴブリンを先に殺れ!! それと魔王を取っ捕まえてゴブリン共を脅す人質にしろ! 他の雑魚ゴブリン共は俺様の魔法で蹴散らす!」

「「よっしゃ!!」」


 斧鎧と双剣が狙いをタローとティアに定めて突撃する。


「アレ? コッチに来るんじゃないの…」

「アーボ!アーグ! ブロックして下さい!」

「「合点承知っ!」」


 またドガの指示によって光ったアーボとアーグが物凄いスピードで冒険者ふたりの前に割り込んだ。ズラリとアーグは腰の鞘から剣を引き抜いた。


「親父…俺はコッチの鎧野郎でいいか?」

「仕方ない。魔王陛下の手前だ、ここは見せ場を譲ってやろう。息子よ」

「あ? やんのかこの……クソ!なんでゴブリンの癖して俺より顔が良いんだ!? 不公平だろが!」

「落ち着けブサイク。相変わらずオレのスキルじゃコイツらのレベルは低いっぽい。それに…そのモヒカン野郎の剣。見た目は凄いけど多分見せかけだの偽物だ。全く脅威に感じない。さっさと殺してオレが相手するデカブツに加勢しろ!」

「ブサイクいうなや!?」


 半ば泣きギレしたモービックが斧を振り上げてアーグに襲い掛かる。だが、アーグはまるで動じることなく紙一重で難なく繰り出される斬撃を躱していく。


「あっ」

「タロー様、どうかしたの?」

「い、いやさあ…あのシミター女の言う通り、アーグにあげた剣ってばそんなに強くないんだよなあ~実は。大丈夫かな…」

「問題ないでしょう」


 不安気なタローに近くのドガがさらりと答える。


「聞き捨てならねえなあ…この剣が偽物(・・)だと?」

「へっ! 図星なんだろうが!さっきから避けるだけで攻撃してこないしよ! ガキの玩具でこの俺の鎧がどうにかできるかよ!」


 そのモービックの言葉にギラリと視線を鋭くしたアーグが初めて深く腰を落として構える。


「おっ。ついにやる気か? 面白れえ! イケメンは死ねっ!!」

「魔王様から下賜された俺の剣を偽物扱いとは笑わせてくれる…なっ!」


 モービックの大斧と振り抜いたアーグの剣が交差して激突したかのように見えたが…互いの武器がまるですり抜けたかのよう空を斬った。


 そして、一瞬の静寂の後。アーグが剣を鞘に納めるとタローに向って一礼する。だが、タローとその背後の一般ゴブリン達は未だ呆けていた。


「へ? どうなってんの…」

「何が起きて…!? ってモービックなにしてんだよ!早くソイツを殺し」


 ガラランッ。


 キストラの声を遮るように身動きしないモービックの持つ大斧のブレード部分が真一文字に切断され、その斬り離された刃先が地面に転がる。


「がふぅ!?」


 そして、モービックもフルヘルムの隙間から血を吐くとその場に崩れ落ちた。見れば分厚い金属鎧の背中近くまで続く切り口から血が流れ出している。


「なっ…嘘だろ!? モービック…!」


 キストラの顔が青ざめる。


「アーグが新たに得たスキル“鬼鋭斬(きえいざん)”です。剣のみしか使えないのは難点ですが、剣の強さに関係なく溜め込んだ闘気を纏わせることによって大抵の金属レベルまでの物質を切断できます。剣の間合いの近接戦ならかなりの脅威でしょう」

「まさかのオーラ斬り!?」


 タローが頭の上のヴェス以外は理解できないネタで突っ込んだところで、キストラが金切り声を上げて飛び上がるとタロー達に奇襲を掛ける。


「私を無視するとはいい度胸だな」


 アーボはその巨体には似合わぬ俊敏さでキストラの前方へと回り込むと、手にした棍棒でまるで鬱陶しいハエを叩き潰すように空中の双剣使いを迎え撃つ。


「オレを舐めるなァ!!」

「むっ…!」


 強引にまるで軟体動物ように関節を捻じりながら振り回されるシミターによってアーボの棍棒が微塵切りにされてしまった。


「先ずは目障りなお前の首を刎ねて殺ルゥ! シャアッ!!」


 まるで怪鳥(けちょう)のような声と共にまた飛び上がったキストラが両手のシミターを交差させてまるで鋏のようにアーボの首を刈る。


 ガギィッ!という予想外で嫌な音がキストラの耳に届く。だが、シミターの刃が表面からそれ以上アーボの内へと食い込むことはなかった。


「なっ!? コイツ!硬過ぎるだろう!どこのドラゴンだよ!?」

「私を褒めて貰えるのは嬉しいが…もう煩わしいな。いい加減に離れろ」


 キストラがアーボの首を蹴って軽業師のように空中に逃れる。当のアーボはピクリとも身動きすらしない。軽く首元を摩るくらいだ。


「化け物め! ハハッ…だが武器がなきゃオレを仕留められんだろ!クライスの魔法がありゃお前なんか…」

「ああ…そうだな。お前ほどの相手ならもはや武器は要らんのか? むんっ!」


 アーボはまるで気楽な素振りで肩を回して揺すった後、その丸太のように太い片腕を勢いをつけてブゥンと振り回した。当然の様にその一撃はキストラを捕らえ、咄嗟に防御したシミターを金属片に変え、何本も骨をへし折られたキストラはまるで壊れた人形のように空を舞うと地面に落ちて転がった。

 そしてそれをやってのけた当人は何とも詰まらそうな顔をしてタローに平伏する。


「………おわぁ~」

「申し訳ございません陛下。あんまりも手ごたえの無い相手でしたので陛下に楯突いた事を後悔させる間も与えられませんでした」

「兄上が得たのは“硬皮”です。アーグとは逆に鋼鉄を超える物理攻撃でないとダメージを負う事はありません。魔法に対しても防御力が上がっていると思います」


 タローは既にドガの解説が耳に入っているか怪しかったが。



「う、嘘だろ…」


 ただひとり残ったパーティの要、クライスが蒼白の顔で立ち竦んでいた。



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