魔王は仲間を呼んだ!ゴブリンが現れた。
●タロー
ブイヤ領の新たなる魔王。本人は普通に太郎と言ってるつもりだが、異世界風に変換されてしまう。
●グノーシアス
タローを異世界へと拉致(召喚)して勝手に魔王を押し付けたブイヤ領の先代魔王。
「うっ…頭が痛ぇ」
俺は自分の頭がちゃんと首から上に付いてるかどうか手で触って確認する。
…ん? さっきから手に何かが当たって痛い。
「なっ、なんか頭に刺さってる!? それも左右に二カ所も!?」
『馬鹿ね。角よ、ツ・ノ…。アンタの元の世界で言うとこのHorn』
俺は急に頭の中へ滑り込んでくるような声に視線を上げると、目の前にフワフワと小さな人間が飛んでいた。
否、それは正しくない。透明な羽根の生えたいわゆる妖精とかフェアリーとか呼ばれる女性の姿をしていた。燃えるような赤い髪に花弁のような真っ赤な服?水着?に目の覚めるような真紅の瞳だった。
「…あのオッサンになんかされて、俺の頭がおかしくなっちまった。トホホ」
『そう? 多分それ、元々よ』
愛らしい姿の割になかなか厳しい事を言う妖精だな。
「…角? 本当に俺の頭から生えてるのか? 俺が気絶してる内にあのオッサンにブッ刺されたんじゃなくて…?」
『そんな事されたら死んでるでしょ? あ。死ななかったわ』
「どっちだよ!?」
『アンタ魔王だもん。そりゃ、同じ魔王にしか殺されないわよ。特別な武器か魔法使われない限りわ、ね?』
魔王? さっきから何を言ってるんだ。
『グノーシアス…ああ、アンタの前任の先代魔王の事だけど。ろくな説明もしない内にアンタを元の世界から拉致ってきて、アンタに自分が魔王人生で1回しか使えない魔王転生の術を掛けたのね。2百年は一緒にいたけど、アタシでも流石に呆れるわね…』
「魔王転生?」
俺が角を弄りながら首を傾げると、妖精は距離を取ってお辞儀して見せる。
『一応、改めて自己紹介しとくわね? アタシはアンタの被ってる王冠に宿り、魔王の剪定者にして観測者…王精のヴェス。 まあ、平たく言うとチュートリアル用のアドバイザーみたいなもんだと思ってくれたらいいわ。シュミレーションゲームとかでよく最初に出てくる奴とかと同類みたいなもんよ』
「ず、随分と…メタいなあ」
『アタシはアンタの前世界の記憶を共有してるからね。アンタの世界ってやたらと異世界に対してスレてるみたいだから。手っ取り早く済みそうな事柄はズバズバっとこんな感じで遠慮なく言わしてもらうから』
「お、おう」
俺は取り敢えず玉座から立ち上がった。…変な眩暈や吐き気は感じないようだな。というか、俺の恰好もジャージみたいな黒っぽい変な服に変わっている。まさか、あのオッサンが勝手に着替えさせたのか? 変態め…!
「そういや、俺をこんな目にあわした張本人はどこだ?」
『グノーの事? アイツならついさっきアンタが魔王として適合したのを確認したら、小躍りしながら速攻で身支度して出てったわよ。一応、呼び止めたけど…アイツもう元の人間族に戻ってたから、アタシの声聞こえなかったでしょうけどね。 後、アンタの服は勝手に換装されてるからね。魔王としての格が上がればもっとカッコイイ見てくれになるかもだけど』
「クソ!逃げられたっ」
『まあ、諦めなさいよー。アイツに見つかっちゃったのが運の尽きね。アイツの使える唯一の魔王スキル“身代わり”をまさか最後まで諦めずにあんな事に使っちゃうとはねえ。まあアイツだってあの時はまだ何も知らないお人好しだったんだし…』
俺はガックリと肩を落として玉座に戻った。…相変わらず硬くて尻が痛い。クッションが欲しい。
「この感じだと…俺は元の世界には簡単に戻れ、戻れるのか? まあ、戻ったところで…いやでもこんなゲームも無い、文明度も怪しいところで…」
『ブツブツ言ってるところ悪いけど、取り敢えず魔王になっちゃたんだしさあ。魔王としてやってたら~?』
「魔王? 俺、本当に魔王なのか…。って事はあのオッサンも魔王だったって事だよな? オッサンは魔王として具体的に何をしてたんだ?」
俺が視線をヴェスに向けるとサッと目を逸らされた。いや、何故逸らしたし。
『っ…聞いたところで反面教師以外なんでもないわ。…それよりもまずこの世界について軽く説明するわよ?』
「…なんか気になるが、まあいいや。続けてくれ」
ヴェスが言うにはこの世界は魔神を始めとした神々によって創られた盤上の未だ名前が付いていない世界。つまり信じられないが、惑星ではなく世界の終わりがあったりする平らかな世界らしい。まるでゲームみたいだ!(自棄気味)
そして、この世界には魔神が与えし特権を持つ魔王が存在しており…その数は百を悠に超えるという。
「魔王、多くね!?」
『チョット、話の腰を折らないでくれない…?』
魔王は各領地を支配する存在らしく、日夜魔王達の領地争奪戦が起きているらしい。最もそれは権力と共にこの世界の基準でもある“魔王ランキング”に反映するから、らしい。
30位から21位を下位。20位から11位を上位。そして10位以上の超位魔王が実質この世界を牛耳っているという。
ちなみに、このブイヤ領はぶっち切りでランク外であり、魔王どころか誰からも相手にされていないらしい。…悲しい反面、少しだけ安心する。
「ランキングって具体的にどんな事で決まるんだ?」
『魔王単体の強さ。能力。カリスマ性。領民の数と質。領土の支配地域とか文明度とか細かいこと言ってくと切りが無いんだけど…メインなのは、まあ~そんなとこかしらね?』
う~ん。でもまあ…俺は今の話を聞いて実際にそこまでランクを上げたいと思った訳じゃない。ヴェスに「ランクを上げる特典は?」と聞けば、『他の魔王に幅を利かせられる。後、魔神に褒められる』だ。ハッキリいって実質上あまりメリットを感じられない。というか、あのオッサンも言っていたが魔神なんて俺は知らんぞ。何かイメージ的には封印しなきゃいけない奴なんじゃないか、それ。
兎に角、下手に目立てば他の魔王から攻め込まれる可能性が大だからな。
「あ。そいうや、俺にも魔王スキルとかあるのか?」
ヴェスが何言ってんだコイツ? みたいな顔で首を傾げる。
「あのオッサンだって魔王転生…だか何だか知らんが魔王としての能力を持ってたんだろ? だったら俺にも何か…」
『無いわよ』
「あるだ…何?」
『無いわよ。だってアンタ“何の力も要らない”とかぬかしてコッチに来たんでしょ? 正直、こんな争いばっかの世界で舐めプもいいとこだけど、魔神もきっとそんな命知らずなアンタのチャレンジャー精神を気に入ってアンタをこの世界に招き込んだんじゃない?』
「な、なんだと…!」
俺は前のめりになって床に崩れた。
「神は、死んだ…」
『…悪いんだけど。…この世界じゃ多分、神界でバリバリ生きてるわよ?』
※
「無いものねだりは良くない…良くないな、うん。ところで俺は今後、どう動けば良いと思う?」
『そ~ね~。…ああ、そういえばアンタも一応はもう魔王なんだし。とりま部下の面通しとかしといたら? あの無責任魔王がヒャッホー言いながら飛び出した後、近くに気配を感じたし』
「部下っ!? あ。そっか…俺、一応は魔王だしな。そりゃあいるよな!」
『コレから当分は世話になるでしょうしね。早く呼んだら?』
「え。ど、どうするんだ?」
『何キョドってんのよ? ただ呼べば良いじゃない。魔王の基本能力でね、近くにいる手下を掛け声ひとつで呼び出せるのよ。…まあ、確率で失敗するから。偶に誰も来なくて寂しい思いをするけど』
「なんだよその変なもの悲しい能力は…。じゃあ、ひとつ試してみるか。 …お、お~い!誰かいるか~?」
俺の声がガランとしたこの空間に響き渡る。俺が「誰も来ねえじゃねえか」とヴェスの顔を見た。
その数秒後、正面の両開きの扉の片方がギィィと音を立てながら中へと押し開かれ、そこからひとりの人物が入ってきた。
「あの~…お呼びでしょうか?」
その人物は素肌に革の腰巻きと毛皮のチョッキ…足は裸足。背に粗末な矢筒と弓を背負っていた。
肌の色は緑がかった青に近い。眼は大きく、特徴的な犬歯が口元から覘く。頭には髪の毛一本生えておらず小さな突起状の数対の角が伺える。
その人物はまごうこと無き、あの代表的な雑魚キャラ。
ゴブリンであった。