魔王の菜園と寺院。
●タロー
ブイヤ領の新たなる魔王。生産力優先。
●ヴェス
タローを補佐?する王精。やはり、大事な事は教えてくれない。
~ドガの一族
●マット
弓ゴブリン。ドガ一族の代表。どうやらマット以外のティア達の様子がおかしい?
●ハンス
マット達の義兄弟。ゴブリンシーフ(ハイ・ゴブリン)。何やら食事を目の前に考え事をしている。
多分、レベルアップらしきものとは別に“☞種族〔ハイ・ゴブリン〕がアンロックされました。”とか顔面の半透明なウインドウに表記されてるんだが?
こういう時の王精。こういう時の為にこそ我がヴェスさんがいらっしゃる。
『ま~た調子いいこと考えてばっかでしょ?』
「そう言わずに教えてくれい」
『ん~』
何故か最も身近の魔王アドバイザーとして俺の側でフヨフヨ飛んでいるヴェスが少し考える素振りをしている。
『………ま。早けりゃ明日にでもわかるわよ』
「…は?」
俺は思わず素で聞き返した。イヤ、むしろそれしかできんだろ。
『だってアンタ。ネタバレとかうるさいタイプなんでしょ?』
「いやオマエね? そんな事言ってる場合じゃねえだろ。今後はハンス達が言ってた武装した人間とやり合うかもしれねーじゃあねえか」
だが、何故かヴェスは頑なに明確な答えを返してくれない。チッ。使えねえヤツだ。いや、俺の前世界の行いがそうさせてしまっているというのか…!?
『そうよ』
うるさいよ。
「…あのー、魔王様?」
「ん? ああ、悪いな。待たせちまって。良し、じゃあ先ずは皆で畑の作物を収穫して朝飯にすんぞ!」
「「おおっ!」」
良かった。さっきので気合いが入ってるのかゴブリン達の士気が高い。
※
作業に追われれば、あっという間に時間は流れるもので、もう昼飯だ。畑仕事を途中で止めたザッカのゴブリン達と一緒にワイワイと賑やかな場になっていた。最初は日に何度も食事をすることに困惑していたゴブリン達だが一仕事すれば腹も空く、今は暖かい野菜スープを美味そうに飲んでいた。俺もいただく。
「うん。今日も美味いぞ、ティア」
「エヘヘ…じゃ、じゃあボクはお代わりを取ってきます!」
俺が感謝の言葉を言って照れるティアは野外の簡易の竈場へと走っていった。というか今日は朝からよく喰うなアイツ?
「…………」
「…?」
俺達はいくつかのグループに分かれて車座になって食事を摂る。俺はマット達ドクの面々とだ。だが、皆が料理に夢中になってるのに、ただひとりハンスだけが怖いものを見るような眼でジッっとスープがよそわれた木を削っただけのボウルを見つめている。
「どうしたハンス。もしかして口に合わなかったか?」
「おい、ハンス。魔王様の御前だ、無礼だぞ」
「……マット。今朝のでも腰を抜かしそうになったが、お前さん達は魔王様のところにきてからこの食事を?」
「そうだぞ?魔王様から頂いた菜園の草は素晴らしい味だろう。まさか、文句があるのか!」
マットが食事の手を止め、ややケンのある表情でハンスを睨んだ。
「…ちょいと、手を出しな」
「お、おい? 食事中にふざけた真似はよせ」
ハンスはボウルを置くと何故か片手をマットに伸ばし、マットと片手で押し合いを始めてしまった。何してんの? まさか、ゴブリン流の喧嘩とか。どうしよう、止めるべきか…!
と、俺は他の面々に助けを求めようと周りを見るも、誰もコチラを見もせず夢中になって飯を食っていた。そんなに腹減ってたの? あ。ニドラとアケだけはどうしようか迷ってる…ああ、けど結局は食事を優先したか。まあ、君らにしたら喧嘩より飯だよなあ。
「いい加減にしろ!」
「…………」
マットが痺れを切らして強引にハンスの手を振りほどき押し返した。が、ハンスは軽業師のようにクルリとバク転して威力を殺して着地した。そして、一言もしゃべらずにまたボウルを持ってジィっと中身を見た。
「ハンス。他の領に居たお前には珍しい料理に見えるやもしれんが、これは女衆が頑張っ…」
「違えよ」
マットにぶっきら棒に返したハンスが気になる。
「何が違うんだ、ハンス?」
「コレは美味いもんて代物じゃあねえんですよ。こりゃあ、“経験値”の塊だ!俺達モンスターにとっては黄金よりも価値がありやす」
「「経験値?」」
俺とマットがハモる。…え? マットも知らんのかい!?
「お前さん…経験値って言葉くらい聞いたことねえのかい? 情けねえ。なあ、アッシらモンスターはどうやってレベルが上がる?」
「馬鹿にするな…それくらいどんなゴブリンだって知っている!敵を倒し、肉を喰らい、長く生き延びた者ほど強きモンスターになるに決まっているだろう」
ハンスはマットの言葉に「わかってるじゃねえか」と返す。が、ズイとボウルをマットの顔の前に突き出す。
「だが、正しくはねえ。正解は“自分よりレベルの高い獲物を喰らう”だ。確かに戦闘経験を積んだり、その他の技術・知識を長年かけて吸収する事でレベルも上がるが、ぶっちゃけ肝心な経験値は雀の涙よ。しかしだ、アッシらモンスターは人間族と違って劇的にレベルを上げたり強化したりすることが出来るんだい。主に…」
ハンスが顔を俺に向ける。
「自身が仕える魔王から特別な恩恵を受けることでね」
「へえ~そんなことができるんだ」
素直に驚いておく。いや、マジで配下のモンスターとか任意で強化できたりするんだな? まるでゲームみたいだ。
俺の反応に少しだけズリ落ちそうになるハンスだったが話を続けてくれる。
「…ンンッ。で、もうひとつがつまりは、コレよ」
「食事がどうかしたのか?」
「まだわからねえかなあ~。…マット、お前強くなってるぞ。多分、力だけならアッシと同じくらいまでにはなってやがる」
「フン。冗談は止せ。ハイ・ゴブリンであるお前とゴブリンでしかない私とでは基礎能力がひとまわりは違うだろう?」
へえ、ハンスはそこまで強かったのか…。あ。使える武器とか多そうだし、魔法まで使えるんだもん、そりゃ強いだろ。
「旦那。どうやら、マットの野郎達が自覚がねえようだろうからこの際、ハッキリ言わせて貰いやす。俺はもう腹が一杯で飯が入りやせん」
「え? またまた、遠慮なんかするなよ。野菜だって明後日にはまた食えるから」
「イヤイヤイヤ、こんな代物がまた山のよう…そう、山のように手に入っちまうのも恐ろしいんでやすがねえ」
そう言ってハンスはチラリと畑をグルリと見渡す。
そう、見渡した。なんせ…ザッカ達も加えて大所帯になったからな!
山━━━━━━ ☞残りМP:3ポイント
━━━━━━━ 〇はゴブリン達のテントが集中してる場所
━━畑畑畑━━
━倉畑★畑倉━
━━畑畑畑━━
━〇━━━━━
━━━━━━━
この際、ドーンと畑を一気に7ヶ所増設したった。そして、気付いたのだが…本来1日待機させなければならない畑の隣に畑を増設すると初期化されたのだ!また、畑のタイルを連結させる事で収穫量が増加することを発見したのだ!俺、偉い。
『なにも、魔王城を畑で囲う必要あった?』
何か俺の頭の上から余計な声が聞こえるが無視してやった。
いいじゃん。皆畑が増えてニコニコどころか号泣してたし。ちゃんと新しい倉庫だって建てたんだから文句言うなよな。本当だったら、お前さえ止めなければ全部のポイント畑にしたかっただからな。
『アンタねえ、計画性無さ過ぎよ? 建設の項目だってちゃんと増えてたでしょう』
「ああ、増えてたさ。けど、興味があったの3ポイント使う温泉くらいしかなかったんだよなあ~。風呂…入りたいよなあ~。しかし、まさか山と隣接するタイルにしか建設できんとは。しかも、建設は隣接する左右上下のみで離れたタイルに作るのにはまだ魔王のレベルが足りないとは…!変に厳しくね? この魔王システム」
俺は大きな溜息を吐く。
「旦那。思案の最中申し訳ねえんですが、よろしいでしょうか?」
「え? ああ、悪いな頼む」
「で、アッシが腹一杯な理由は胃袋と同じで、既に今のレベルの経験値の上限に達しているからでやしょう。夜ならまだしも…まだレベルの上がりきってねえアッシにはちくと重い。まあ、アッシがハイ・ゴブリンだからという理由もあるんだと思いやす。なんせゴブリンよりも段違いに燃費が良いでやすから」
ハンスの言葉にマットが少しムッとする。
「…なんだハンス。食わんのか? なら寄越せ」
「あ!なにしやがる」
そんな事を話してる内に隣のアーボからボウルを引っ手繰られてしまうハンスであった。
※※
賑やかな昼食が終わるとまた、ゴブリン達はそれぞれの仕事へと戻っていく。俺はと言うとティアとニドラ、女衆に混じってまだ幼いゴブリンの子供らの相手をしていた。平和だ。
「ふわああ~」
「ちょっと!ティア、魔王様の前でそれはどうなのよ」
大アクビをするティアをニドラが嗜める。
「うう…だってなんか今日は眠いんだもん。それに、何だか気分も悪いんだ。でも…お腹は空くんだあ~」
「おい、ティア。無理をしないで休んでていいんだぞ? 怪我人の治療も頑張ってくれたみたいだし」
しかし、ティアはブンブンと頭を振る。
「まだ…大丈夫。今日はなんかエマ姉やドガ兄も調子悪いみたいだったし、ボクがその分タロー様のお手伝いをしなくちゃ…」
と健気な事を言ってくれているが、既に頭がフラフラしてるし今日は使い物にならんだろう。
…そういえば、昼飯の時は皆揃ってあんなに勢いよく飯を食ってたのに、見渡せばアーボもアーグも見当たらない。いつもならマット達と何らかの打ち合わせやらを外れでやっているはずなんだが…?
「魔王様」
「お。アーキンじゃないか」
そんな俺の前に現れたのはアーボの息子のアーキンだった。…ん、後ろにいるのは?
「それに、ボマルとウリンとブッカまで」
アーキンが連れている彼らは新たに加わったザッカのゴブリンだ。ボーマとブッカは棍棒ゴブリン。ウリンはブッカの姉で巫女ゴブリンという珍しいゴブリンだった。ザッカの呪いを請け負っていた為、若いが代表のホンポの次に権力を持つと聞いている。
俺に名前を呼ばれて感極まったような表情を見せた三人が平伏し、少し遅れてアーキンも俺の前に頭を垂れた。
「おいおい、どうしたんだ? そんなに畏まっちゃって」
「我ら一同、魔王様に御願したい義がございましてこの場に参りました」
「うん…どれで?」
「魔王様も御承知でしょうが、今回の襲撃で我らの同胞3名のゴブリンが命を落としました。つきましては魔王様が治めるこの地に彼らの墓を建てたく思います。彼らも愛する家族と魔王様のお傍で眠ることを望むはずで御座います。どうか、勇気ある務めを果たした彼らと私達に御慈悲を…!」
そう言ってアーキンは地面に額を擦り付けた。
う~ん…墓か。…あ。そういえば?
「いいぞ」
俺の言葉にアーキン達は顔を上げて涙を滲ませた。
※※※
「「す、素晴らしいぃ~!?」」
アーキン達が咽び泣きながら俺の足元に縋りつき、他の手の空いたゴブリン達もそれぞれ礼を言って俺に平伏してくる。大袈裟だな。
山━━━━━━ ☞残りМP:1ポイント
━━━寺━━━ ☞寺院:消費ポイント(2)
━━畑畑畑━━ ※新たな神を置く場合は、追加で1ポイント
━倉畑★畑倉━
━━畑畑畑━━
━〇━━━━━
━━━━━━━
ちょうどタイムリーな魔王の建設の項目が増えていて良かったぜ。冠婚葬祭は必須だしな。
「魔王様、ありがとうございます…! ですが、ですがおこがましくも魔王様に願いたい義がございます…!」
「止せ、アーキン!?」
「我らの願いはおなじだが、流石に不敬だ!」
決死の覚悟を決めたような土下座を決めるアーキンを必死にウリン達が止める。が、アーキンは動じなかった。
「恐れながら…魔王様自ら御建てになってくださったこの神聖な寺院に我らを下に置かれる魔神ではなく…新たな神を奉ることをどうかお許し下さい!」
「え」
アーキンの言葉に周囲は騒然となった。
けど、俺にはピンとこなかった。だって、魔神とか知らんもん。一応なんつーか国教? みたいなモンなのかね。でも俺の国…正確には前の世界じゃ信仰の自由は認められていたからなあ。
「いいんじゃない?」
「「ま、真ですか!?」」
アーキン達は喜んで飛び跳ねる。そんなに、嬉しいか君ら。まあ、生贄とか捧げるとか言いださない限りは好きにさせよう。
「…おっと、チョット待て」
俺が無意識に低い声で止めると一瞬でゴブリン達の表情が凍り付く。
「なんの神を信仰するとかって決まってるのか?」
「は、はい…我らは魔神でもなく、女神でもなく。ましてや死の神でもありません」
アーキン達、いや他のゴブリン達ですら膝を突いて俺を見つめる。
「我らゴブリンにとって神とはまさに貴方様のこと。我らの心は今後は貴方様と共にありましょう…!」
…まさかのお、俺が神なのか? まさかぁ~。…んぅ? ああ、そういう事かよ!
俺はウインドウ画面を出した。
☞寺院:消費ポイント(2)
※新たな神を置く場合は、追加で1ポイント
なるへそ。新しい神を俺が決めるってことにゲーム的なアレでこう…みたいな感じな訳ね。恐らく、信仰する神で受けられるメリット・デメリットみたいなもんがあるんだろう。例の寒い国を舞台に無双するゲームの星座集めみたいな感じで。
残りの魔王ポイントも1だけだし、使っちまうか。
俺は新しい神を置くを決定した。すると、俺の手に何故か金属製の棒のようなものが現れた。
「「おおっ…!」」
周囲のゴブリン達が目を輝かせるが、予想外だ。…まさか、俺がデザインを決めるスタイルだったとは!
ヤバイ。俺は美術の成績順が下から数えた方が早い人間だぞ。
とりあえず適当に弄ると、それなりにグニグニと動きはする。とりあえず一番メジャーなクロスな形にしてみる。シンプル・イズ・ベストだ。
しかし、このデザインはもしかしたらこの世界のデザインと間違いなく被りそうだ。が、逆におどろおどろしいデザインにはしたくない。既に俺が考えただけで悍ましいなにかが呻き声を上げながら手元に生まれつつあった。
…しかたない。最初のシンプルなデザインの中央に円を背負うように足して…モンスターらしさは…そうだな円から飛び出した左右を俺のツノをお手本にこう、うん。イイ感じだ…オリジナル感が少しは出て来た。最後に下の棒は持ちやすいから大して弄らずに上に飛び出した棒をこう…うーんゴブリンの顔…ではないがチョット強そうな魔物の頭にしとこう。コレ以上弄るのは危険だな、良し!
「アーキン」
「はっ!」
俺は出来たその信仰対象になるであろう偶像のシンボルをアーキンに手渡す。
「ああ…なんという僥倖…!魔王様、お教えください。我らが神の名は…!」
名前…どうしよう。タローなんちゃらとかはナイよな。自身のネ―ミングセンスの無さを恨む。
………う~むむ…!あ!? 閃いたぞ! それになんか強そう。
「た、…タロス。っだ…!」
「……タロス。我らを真に導く新たな神の名は…タロス!我らが神はタロス神! 天に召します神々よ!このアーキン、しかと聞き届けたり!!」
「同じくザッカの巫女、ウリンが聞き届けた!」
「「同じく!」」
アーキンは手にしたシンボルを天に向かって突きかざし、ウリン達もまた天に向かって吠えた。そして、一斉に他のゴブリンの喝采と讃頌の歌らしきものが嵐のように響き渡る。
その時、天から一筋の光が俺に向って降り注ぐと、俺の身体とアーキンが手にしたシンボルが光を放った。まさか…共鳴してる?
(ピッピピポン♪)☞あなたとタロス神のリンクを確認。他の神々から承諾されました(ピポン♪)
…もしかして、やらかしたかもしれん。何だか知らんが大事になりそうだぞ?




