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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
序章 魔王、ブイヤに立つ。
16/37

そのゴブリンの名は、ハンス。

●タロー

 ブイヤ領の新たなる魔王。相変わらず朝が弱い。低血圧か?


●ヴェス

 タローを補佐?する王精。やはりアラームだったか。


~ドガの一族ゴブリン

●マット

 弓ゴブリン。ドガ一族の代表。ハンスとは義兄弟。


●ティア

 マットの一人娘。薬草ゴブリン。ハンスとは初顔合わせ。割と人見知りなのか?


●アーボ

 棍棒ゴブリン。マットの弟の強面ゴブリン。想像以上に息子バカっぽい


●アーグ

 剣ゴブリン。アーボの息子。ドクの次世代の中では唯一ハンスと顔見知り。


 あくる翌朝の出来事である。


『………アタシはねえ。たまに喋るだけのアンタの目覚まし時計じゃないんだけど?』

「ふあ?」


 俺は毎度の様にヴェスに起こされ、上半身だけ起こす。だが、暫く何も考えられずにモゴモゴと口を動かすだけである。この場合、確率で二度寝もある。


『ホラ!シャキっとしなさいよ。魔王でしょ? 外じゃアンタが起きてるのを待ってんだから』

「……へ?」


 俺はやっとこさ両目を開けてグルリとそこまで広くないテントの中を見回す。俺とヴェス以外の人影はない…イヤ、テントの外に誰か立っているな。そんな気配がする。


 そして、外も騒がしい。まあ、アレだけの人数のゴブリンが一度に仲間になったからそれなりの大所帯にはなったんだし、これくらい普通、か?


 だが微かに子供の泣き声が聞こえた。………デッチだ。まさか、何かあったのか?


『いいから早よ出ろ!』


 ヴェスに再度急かされた俺はテントから飛び出す。


「あ!タロー様」

「おはようございます。魔王様」


 テントの前に立って俺を待っていてくれたのはティアとアーグだった。


「おお…おはよう。何だか騒がしいが…はは~ん。ザッカの奴らさては畑の作物を見て腰を抜かしたのか?」

「えーと…朝一番に起きたザッカのゴブリン達がソレで騒いだのは間違いないんだけどね…」

「その後、残って戦っていたザッカの戦士達とアケ。それとハンスのオジキがさっき到着しました」

「そうか!無事だったか。しかし…この泣き声は…」


 ティアとアーグが顔を合わせて困った顔をした。


「…うんとね、アケ達は怪我をしてたけどもう治療は終わってるんだ。今は父さん達が魔王様の城の前で話をアケと…ハンスっていう人から聞いてるよ。他の3人は疲れ切ってて別のテントで休ませてるよ」

「泣いてるのはデッチですよ。ハンスのオジキがルッチの遺体を担いできてくれたんで…まあ、無理ないぜ」

「そうか…」


 俺は昨夜のマットの話を思い出して顔を顰める。


「取り敢えず、会いたいな」

「俺は皆に魔王様が起きたことを伝えます」

「ん~ボクは…怪我してる3人を看てくれてるエマ姉と交代してくるかな」


 アーグが去った後にふと違和感を感じてまだテントの前に立つティアに俺は聞いた。


「そういや、そのハンスとやらと随分他人行儀みたいな言い方に感じたんだが、顔見知りじゃないのか?」

「う、うん。一応はボクの義理の叔父さん…伯父になるのかな? 父さんよりもずっと年上だしね。それと、()ドクの一族で今はどこの一族にも属してないって聞いてるんだよね。十年以上前から他の領と行き来してて、最後に戻ってきたのもボクが生まれた年だったみたい。ボクの目が開く前にまた他所に旅立ってたから、ボクも今日初めて顔を見たようなもんだしね…」


 そうなのか。なるほど彼は旅するゴブリンな訳だ。…というか、マットよりも年上って相当なジジイなんじゃないのか? それに、モンスターは人間族と違って他領への移動に何かと制限があったような事をヴェスから聞いてたような…。


「わかった。兎に角、俺はそのハンスとやらと…後はアケか。マットの妹のニドラの旦那だったよな。悪いが、今日ティアには怪我人の看病を頼むとするよ」

「うん。わかったよ!タロー様」


 俺は手を振るティアと別れてその場を後にした。



 ※



「うっうっ…」

「そうゴブリンの男が泣くもんじゃありやせん。今回一番立派で勇気のあったゴブリンはお前さんのお父っつあんさでさあ。何せ武器も持たずにあのろくでなし共の前に立ったんだからね」


 俺がそこに着くと、横たえられたゴブリンの前で泣くデッチ…その正面に座り込んでいたのはやけに猫背が目立つゴブリン?だった。


「魔王様…!」


 その近くにいたマット達が俺に気付くと、周囲のゴブリン達も同様に俺を見やって前を空けてくれる。


 ニドラの横に立っている灰色の肌を持ったゴブリンが恐らく旦那のアケだろう。身体の数ヶ所に浅いのかもしれないが、生々しい傷が未だ目立つ。


「ハンス、アケ。こちらが現在のブイヤ領を治める魔王、ブイヤ・タロントン様だ」


 マットがそう言うと、二人は俺の前に歩み出て跪いた。


「タローでいい。今回はエライ目に遭ったようだな…」

「お、お初にお目に掛かります。俺はドク一族、ニドラの夫でアケといいます」

「……アッシはハンスといいやす」


 何故かガチガチに緊張してるアケと対照的にのらりくらりとした雰囲気を纏ったハンス。…やはりハンスだけ他のゴブリンとは余りにも違い過ぎている。一番なのは見た目だろう。ハンスは肌色がゴブリン特有の青緑色の肌と尖った大きな耳以外は人間と遜色ない体形をしていた。猫背で低く見えるが実際は俺と同じくらいの背だ。スタイルも…まあ、アーボや特にホンポあたりは俺よりもデカイけど6頭身なんだよな。でも、ハンスは8頭身と骨格からして違いそうだし、装備も赤い装飾バンダナに革鎧とズボンにブーツ。さらにバックパックに矢筒と弓、腰には剣まで佩いている。むしろ、このハンスがゴブリンの冒険者と言っても良いくらいの風貌だな。

 あと、単純に若く見える。俺よりも少し年を取ってるくらいの人間で言えば30代前後の見た目に見える。マットと見比べれば完全にマットよりも若いぞ? どうなってんだ。


「魔王様…何だかオイラの舌がもつれそうでいけねえなあ。旦那とお呼びでしてもいいですかい? どうにも生まれつき口が悪くてねえ」

「おい!ハンス…」

「構わないぞ? 好きなように呼んでくれ」


 マットはハンスを咎めるが、俺は気にしないので続けるように促した。


「では、お言葉に甘えて。改めて、アッシはゴブリンシーフのハンスといいやす。生まれ…いや、正確にいやあ育ちはここブイヤでやして。普段は隣領のアメアで細々と暮らしてる風来坊でやす」

「ゴブリンシーフ? マット達みたいに〇〇ゴブリンとかじゃなくてか。それともゴブリンとは別の種族なのか」

「…いいえ、魔王様。ハンスはゴブリンです。ただ、ハイ・ゴブリンという上位種です」

「旦那。アッシはマットが言うほど大したヤツじゃありやせんぜ? それよりも、大事な話がごぜえます。心して聞いて下せえ」


 ハンスは軽薄な笑みを消して俺に顔を向けなおした。


「アッシがこのタイミングで帰って来たのは他でもねえ。ここに逃げ延びたザッカの衆を襲いやがったあのクソッタレ共をアメア領から追いかけて来たんでさあ。にしても人間族みたいに関をさっと通れねえゴブリンのアッシがまごついてる内にヤツらやらかしやがった…!クライスって名前の奴が頭をやってるアメアでも名の知れた冒険者くずれの屑共でやしてね。アイツら無抵抗の亜人達を襲ってやがるなんて噂が流れてたんでさ」


 周囲のゴブリン達の顔も歪む。


「厄介なのは4人の内の2人、頭のクライスって野郎と魔術師のひとり。特に魔術師は広範囲の風魔法を使いやがる。それもジワジワと負った傷痕から生命力を奪う外道魔法でさ。……単に傷を塞いだだけじゃあ体力を奪われ続けちまう。…ヨスクとセブが助からなかった理由でしょうや」


 嗚咽を漏らしたのは恐らく死んだそのゴブリン達の身内だろう。


「アッシが駆けつけた時は既にルッチは殺された後。足止めしてたミファ達に加勢するのがやっとでやした…魔術師の野郎にはアッシの取って置きの“沈黙(サイレント)の矢”を打ち込んでやりやしたから。少なくとも…後3日は稼げるでしょうが…奴ら性根からして薄汚ねえから、インペスの連中にチクられまいと、再度逃げ延びたゴブリン達を襲いにきやす。…必ず」


 ハッキリとハンスがそう告げるとゴブリン達は一斉に怯え始めた。現在、ティアが看病してるゴブリンはザッカの若い戦士で、女戦士のミファ。それとトルマ、ロソという名前らしい。


 すると、ハンスは今度はマット、アーボ、ニドラ、ドガと顔を見て口を開く。


「…まるで勝てねえとまでは言わないが。今度の奴らは口封じの為に全力だ。アッシは奴らがゴブリン相手と舐めてたから不意打ちして逃げ延びられただけだろうぜ。選択肢はふたつさね。ここに残って最後まで犠牲を出して戦うか……あるいは…」


 今度はチラリと俺を見やる。なるほど、どうやら俺の魔王としての権力か能力かでここに居るゴブリンを他所の領へと逃げさせる方法とかがあることをハンスは知ってやがるんだな。


「私は残るぞ」

「マット…」


 迷いなく言い放ったマットに俺は感動し、ハンスは初めて顔を歪める。


「俺だって残るぜ。…なにせ、俺は魔王様に騎士として忠誠を誓ったからな!」


 今度はアーグが鞘から剣を抜き放ってマットの横に並ぶ。


「おお!アーグぅ!…立派になりおってぇ!」

「アーグ。アッシが旅に出る前までハナタレ小僧だったお前さんが…一端の男の顔をするようになったじゃねえか」


 アーグのその姿に涙腺を決壊させるアーボとニヤリと笑みを浮かべるハンス。


 それを皮切りに他のゴブリン達も「魔王様の下に残る!」と言い出した。ヤバイ…泣きそうだ。


「…フフッ…ファ~ハッハッ!コイツは愉快だねえ!ヒッヒッヒ!」


 ハンスが腹を抱えて笑い声を上げ、それが次第に収まると俺の前に歩み出て、背筋を伸ばした。


「このハンス。これまで大した恩も返せずに30年近くを下らねえ理由からフラフラと渡り歩いて生きてきやした。ですが今日この日、アッシはこのブイヤに残りの人生を捧げてえ!どうか、どうか!アッシの骨を旦那の下に埋めさせておくんなせえ!」


 ハンスはガバリと土下座する。それを震えながらマットが問う?


「ハ、ハンス…いいのか? お前はここで皆と共に生きるのが辛くて…」

「言ってくれるなマット。アッシはもう腹を括ったんでさ。もう、逃げねえってな」


 ……何だか複雑な理由があるようだな。


「ああ、よろこんで。ハンス、今後とも俺に力を貸してくれ。…おっと、勿論、アケもな」

「ありがてえ…謹んでお受けいたしやす」

「はいっ!俺もニドラと娘のアックと息子のリーノの為にた、戦います!」


 周囲もさっきの暗い表情が吹き飛んだような歓声が沸き上がる。


「よし、休んでる残りの3人…ミファ、トルマ、ロソとは回復してからだな。先ずは朝飯にしよう。早速、畑から野菜を…」



 (ピッピピポン♪)☞種族〔ハイ・ゴブリン〕がアンロックされました。(ピポン♪)



「………んっ!?」

「魔王様…? どうかされたのですか?」



 なんかまた勝手に出たんだが? ヴェス。説明してくれ、頼む。



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