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ゴブリンと共に歩む、魔王転生。  作者: 佐の輔
序章 魔王、ブイヤに立つ。
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魔王、いわゆるオコ。

●タロー

 ブイヤ領の新たなる魔王。傷付いたゴブリンの姿を見てキレる。


●ニドラ

 マットの妹。夫にアケ。まだ幼い息子にリーノがいる。マットに負けず劣らずの女傑。


●ホンポ

 ザッカの長。ゴブリン一の巨体を持っている。割と臆病。


●デッチ

 ザッカのゴブリン、ルッチの息子。父親であるルッチは冒険者に殺されてしまった。


 俺の周りにはマットの同胞たるザッカの一族のゴブリン達。皆、傷付いていて、その表情は殺されたであろうゴブリン達の死に悲し気な表情を湛えている。


 そして、マットに肩を抱かれて泣き声を殺すまだ幼いゴブリンは恐らくは父親を殺されたんだろうな。抱き絞めているのは親の遺品のドロップ・アイテムが収まった箱だろう…。



「……っ戦争だァあああっ!!」



 俺はキレた。


「ま、魔王様!? どうかお鎮まり下さい!」

「タロー様!お、落ち着いて下さい」


 慌てて俺をマットとティアが羽交い絞めにする。


「止めるなマット! 俺一人でも人間族のところに乗り込んでやらあ! 傷付けられ殺されたゴブリン達の仇を取ってやる」

「お待ちを!魔王様どちらに向かうおつもりか!?」


 俺は膝からティアを引っぺがすとマットに答える。


「その人間族の町だとかいうインペスだよ!俺は同じ魔王以外には殺されんしな!邪魔するなっ」


 そう言って暴れる俺にどうやら周囲のゴブリン達はすっかりドン引きのようだった。中には蹲って震える者までチラホラいる。


 ……クソ! 自分の頭がガンガンと痛い。 まるで俺の頭蓋骨が孵化する鳥の卵みたいに中から

食い破れそうにでもなってるようだ!


 …俺は今、ここまで生きて来た人生の中で一番に怒ってるんじゃあないか?


「魔王様待って欲しいんだぁ!」


 俺の前にのそりと立ち塞がったのは先ほどマットからホンポと呼ばれていたこの中で一番の巨体のゴブリンだった。


「オラ達を襲ってきたのは武装した他所から来た人間族だぁ!普段からオラ達と仲良くしてくれてるインペスのモンじゃないんだぁ」

「……やはり他領からの襲撃者か」

「おのれ!…野蛮な山賊共め」


 必死の形相で訴えたホンポの言葉に俺を抑えているマットが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、近くで聞いていたアーボが悔し気に手に持った棍棒で地面を殴った。


 そうか…インペスとやらの人間の仕業じゃなかったのか…?


 俺は不安げなゴブリン達の顔を眺めている内に興奮が徐々に下がっていくのを感じ、同時に“うわー…この魔王。痛いわー”と確実に思われた事が恥ずかしくなってきてしまった。


「…俺は一旦、玉座に戻るぞ」

「ま、魔王様? ボク達はこれからどうすればいいんですか」


 俺はサッと身を翻して魔王城(笑)に向ったがティアの声に足を止めて振り向いた。


「……取り乱してすまなかった。俺も少し落ち着きたいんだ。悪いが、先ずは怪我人の治療を優先してくれないか? ひと段落したら、動ける者だけでいい。俺の前に来てくれ。今後の事を話したい」


 俺は一方的にそれだけ言うとまた背を向けて歩き出した。遅れてマットが駆けてくる足音が聞こえた。



 ※



「………どえれえ…おっがなかっだぁぁぁ~」


 タローとマットが去った後に巨体のゴブリンがヘナヘナと膝を地に突いてしまう。


「よくぞ止めてくれた、ホンポ。流石はザッカの長なだけあるな」


 アーボが神妙な顔をしてホンポの肩を叩いた。


「アーボ…全然、ニドラ達から聞いてた話と違うでないかぁ~!? 新しい魔王様は先代のグノー様と同じくまるで無力な人間族のような方だと聞いてたんだがぁ」

「ちょっと…ホンポの頭さん!アタシだって今日初めて御会いしたんだからね?」


 責めるような視線を周囲から受けて居心地悪そうに額の角を弄るマットとアーボの妹であるニドラ。


「だが…お前が止めてくれなければ。最悪、インペスは滅ぼされてしまったかもしれんぞ。あの御方は自分では非力で無力などと言っておきながら…あの魔神の如き波濤。不敬だが、先代の魔王陛下はあの御方と比べれば魔王としての潜在能力は天と地の差の開きがることは明らかだろう」

「「…………」」


 アーボの言葉にどう反応して良いのかホンポ達は困った顔を互いに見合わせる。


 実はホンポ達は最初マットと共に帰ってきたまるで人間族の若い男のような姿のタローを見た時は…正直、ガッカリしていた。やはり、このブイヤ領は本当に不運な土地なのだと。先代の姿を知らずとも若い世代のゴブリンも話には聞いていた。滅び掛かったこの土地を引き継いだ魔王もまた無力である、と。

 

 しかし、あの激怒に震える姿はどうだ。


 あの瞬間、ゴブリン達は初めて目にしたのだ。自分達の仕えるべき存在たる“魔王”の姿を。


 我らゴブリン如きを害した人間族に対して堂々と死を告げるあの言葉。


 あまりの憤怒からか、黒いイカヅチすら纏い、ゴブリン達はただただ圧倒的な強者たる王の前にひれ伏すしかなかった。左右の角の一端が剥がれるように漆黒に変わった時などは自身がその場で消滅させられるのではないかと錯覚したくらいだ。実際、数名は意識を手放してタローの視界外で気絶していたくらいだ。


「案ずる事はありません」


 傷の手当てを終えたドガが妻のエマを引き連れてホンポ達に声を掛ける。


「あの御方は真の意味で命の尊さを知る御方。他領の魔王や人間族のように私達ゴブリンを湯水の如く使い捨てるような事をなさることはないでしょう」

「おうとも!我が自慢のブイヤ一に聡い弟が言うのだ間違いない。あの御方が在られる限り、このブイヤのゴブリンの未来は明るいぞ。お前達も散々辛い目にあっただろうが…我らは明日を生きてゆかねばならんのだぞ。そうだろうっ!アーグ!アーキン!」

「…ああ!そうだとも」

「私はあの御方を信じて生きてゆきます」


 ホンポ達を優しく諭すドガに続きアーボが力強く棍棒で地を均し、その呼びかけにアーグが忠誠を誓った魔王から下賜された剣を握り、アーキンが感極まった表情で手の中の土人形を強く握りしめる。


「ボクだって…ボクだってタロー様の御力になるよ!」

「フフ…ええ、そうね」


 石を削っただけの乳鉢で薬草をすり潰していたティアも両手を握って飛び跳ねる。それをエマが微笑ましいものを見るような視線を向ける。


「さあ、手当てを終えた者から順に魔王様と改めて謁見する場へと向かおう。我々は早く魔王様を御心を少しでも安堵させる必要があるからね」


 ドガが蔓草で作った包帯代わりの布をナイフで切り取るとタローの居る城へと視線をやった。



 ※※



「………狭い気すらするなあ」

「まあ、この人数ですから」

「皆疲れてるんだろう? 何も全員ここへ来ることないだろーに。えーとホンポとか一族の代表とかだけじゃダメか? せめて明日にでも」

「まさか!そんな訳にはまいらぬでしょう。本日より魔王様に命を捧げる者達です。どうか彼らに魔王様の御姿を見せる機会を与えてやって下さい」


 マットの言葉がやけに重い。この空間が狭いのは…仕方ないか、なんせ聞けば今日ここに来たのは計33名。内、マットの身内は妹のニドラとまだ1歳の息子ゴブリンのリーノだけだ。つまり、残りの31名のゴブリンがザッカの一族とやらか…。

 それと、俺の隣にいるマットとティアを除いて一段下に昨日から俺の騎士になったアーグと皆からマットと同等に信頼の厚いドガ。壇上の前にはアーボ、アーキン、エマがそれぞれ控えている。……もうなんか立派な家臣みたいだな。まあ、俺にとっちゃあ家族みたいなもんかね。


「さて、取り敢えず話を聞きたいんだが…ホンポ」

「は、はぁ…」


 俺は代表して前に出て来たホンポから改めて話を聞いた。


 ホンポ達ザッカ一族が襲われたのはほんの1日と半日前だと言う。その少し前にマット達に持たせた野菜がニドラ達、ニドラ。ニドラの夫であるアケと娘のアック。そしてアケの弟のジョラと妻のミョン。特にアケ、ジョラ、ミョンは数年前にこのブイヤ領へとやってきた外様のゴブリンらしい。…なるほど、それでリーノの肌は灰色が強いのか?


「ニドラ。他の家族はどうした?」

「はい。ジョラとミョン、娘のアックは襲われる前にジェンシの下に向いましたので、無事です。夫のアケは話し合いで収めようとしたルッチを一方的に手に掛けたあの冒険者(・・・)などと抜かす簒奪者共と残って戦いました。その際、ザッカの戦士2名が深手を負ってしまい…逃げる道中で命を落としました」


 ニドラが沈痛な表情を浮かべてチラリと視線を城外へと向ける。

 …そう言えば、集団の中央に布に包まれた大きなものがふたつ置いてあったが。そうか、その死んだゴブリンの遺体だったのか。

 てか…冒険者とかっているんだ。いや待て。冒険者なんてモンスターサイドに就いてる側からすりゃあかなり厄介な存在だろう。モンスター専門の人間族の戦士みたいなもんだろうしなあ。


「冒険者か…という事は単なる流れ者の山賊なんかよりよっぽど性質が悪いな。奴らは一端以上の装備で身を固めているし、魔法も使える奴もいる。……しかし、アケだけでは分が悪いな。敵は何人だ?」


 マットが顔を顰めた。


「4人。でも大丈夫よ、マット。まだ万全に戦えるザッカの若い戦士が3人残ってくれたし、それにきっとゴブリンに女神様が微笑んだのね。奴らに追跡されてる最中にハンスが加勢してくれたわ」

「何っ!ハンスが戻ってきていたのか!?」

「ええ。じゃなきゃ、もっと被害が出ていたわよ。ハンスは剣も弓も魔法も使えるしね。特にハンスは人間族に詳しくて強いわ」

「…そうか。ハンスが帰ってきてくれていたのか…!それならば時期にここへと辿り着けるだろう」


 ハンス? …ああ、前にマットから聞いた名前だったかな? いや、アーボだったか…?


「という事は生き残ったザッカは全員で36人ということか」

「そうですぅ。追って来た者も魔王様に忠誠を誓いますですぅ!…魔王様ぁ、どうか我らザッカに救いを…っ!」

「…魔王様。どうか我らドクの者からもお頼み申し上げます!どうか我らを御救い下さい」


 ホンポとマットに続いて全員が俺に向って平伏する。…皆、固いなあ~。もっとフレンドリーに接してくれても良いのよ?


「…断る理由なんてないさ。この土地に最後まで残ってくれたお前達を見捨てる道理も俺には無いしな。さ!顔を上げてくれ」


 俺の言葉に皆ガバリと身体を起こす。その表情には判りやすいほど安堵や喜色が浮かんでいた。


「じゃあ…ホンポ」

「は、はぁい!」

「ええと…君はデッチだったかな?」

「え。は、はい!死んだルッチの息子のデッチです!」


 俺が急に名前を呼び出したのでザッカの面々はポカンとしているが俺は構わず続ける。


「さあ、君達はもう俺の身内だ。今後はこの俺、ブイヤ・タロ…ブイヤ・タロントンに力を貸して貰うことになる仲間であり家族だ。…さあ、次は君の名前を教えてくれないか」


 俺はひとり、ひとりと立たせながら名前を教えて貰う。暗記は割と得意だがちゃんと名前を顔と一緒に憶えておかないとな。営業じゃあ死活問題待ったなしだしな。



「………。………。………」



 最後に新たな仲間となるニドラ含めて33名の名を呼んで返事を聞いていく。よし、大体憶えたな。まあ、2百を超えるようならその内考えよう。



「…よし。では皆。改めて…この無力な俺に力を、ブイヤの為に力を貸してくれるか?」

「「はい!魔王様の御為にっ!!」」


 おお…流石にこの人数に言われると迫力があるな。



 その瞬間、また俺の身体が光った。


 が、今回はそれだけじゃ済まなかった。


「ギャアアア!? 頭痛ぇえ!」

「タ、タロー様!?」

「魔王様!」


 頭を押さえる俺に近くにいたティアとマットが咄嗟に支えてくれる。


『あ~イキナリ纏まった数のモンスターが支配下に入ったせいで、アンタのレベルが飛び級して上がった反動ね。まあ、最初はしょっちゅうある事だし。慣れんのね?』


 …そういう大事な事はちゃあんと事前に言えっつってんだろこの不良妖精が!


 キツイ。…頭がフラフラする。ん? チョットだけ角が育ってないか…? 嫌だぞそんな設定!?


 (ピーピーピー♪)☞あなたの魔王ポイントが10増加しました。(ピポン♪)

 (ピッピピポン♪)☞新たな魔王の建造がアンロックされました。(ピポン♪)

 (ピッピピポン♪)☞〔親衛魔族進化〕がアンロックされました。(ピポン♪)



 眼前にまたあの半透明の画面とその文面が勝手に現れた。



 …しかも他にも気になる文章が出て来た…が。気持ち悪くて吐きそうでそれどころじゃねえよ!? 空気読めや!この魔王システム!



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