ガボの丸焼き。
※前話からゴブリンが増えたので、今回はタロー・ヴェス・マット・ティアは省略。
●アーボ
棍棒ゴブリン。マットの弟の強面ゴブリン。歳は15でゴブリンとしてはそこそこの古株。タローへの忠誠心は既に高く、無礼をした息子を割と本気でぶん殴った。
●アーグ
剣ゴブリン。アーボの息子だがちゃんと髪がある。母親を人間族の山賊に襲われて殺された事で人間族とさして変わらないタローに対してあまり良い印象を持っていなかったが、アーボの愛ある棍棒制裁とタローの人柄に少しずつ態度を軟化させている。
●アーキン
棍棒ゴブリン。アーボの二番目の息子で線が細い。ドガの影響なのかアーボの息子とは思えないほど礼儀正しい。現在では最も若い3歳だと思われる。信心深い。
●ドガ
短刀ゴブリン。マットとアーボとは歳の離れた末の弟。幼少期から数年に渡って共に過ごしたジェンシ一族の女であるエマを妻としている。力は強くないが聡明な男で周囲の信頼も篤い。
●エマ
ドガの妻である女ゴブリン。ジェンシ一族の特徴なのか人間族により近い顔をしている。長い黒髪が映える美人。料理上手でティアを自分の妹のように思っている。
「さてと…。 先ずは腹ごしらえといこう!」
「「へ?」」
俺の言葉にマットを含め全ゴブリンが呆けた表情で俺の方へ振り向いた。
さっき得られた魔王ポイントをさっさと畑と倉庫に使っちまったからな。それが出来るのを目の当たりにしてアーボ達新参のゴブリン5名は俺が声を掛けるまで呆然とそれらを見てたしな~。あ。ティアも目の前で畑できるの見たのは初めてだったか。しかし、今後は慣れてもらわねば困る。
それとマップ機能はやはり、本拠地を★としてタイル状に周囲の地理や施設の有無を確認する機能がある。今、俺は城の空きスペースに居るから★の部分がペカペカと点滅している。何も無い場所は━で表記されている。うーん、字で起こすとこんな感じだろうか? ちなみに〇の部分はマット達のテントが設営されている場所だな。あ~…後はここから北西に小高い山が続いているようだな。奥にある一番の高さでもきっと数百メートルくらいだな。
山━━━━━━
━━━━━━━
━━━━━━━
━倉畑★━━━
━━畑━━━━
━〇━━━━━
━━━━━━━
…こんな感じかな? 現在タイルは7×7で現在表示されているから、イキナリ遠くに何かを創ったりはできないんだろう。
ちなみに倉庫を創ったのはヴェスの奴が…
『今後、ゴブリン達も増えるでしょうし、食糧は重要よ。無駄にできないから倉庫も一応出しといた方が良いわよ。人員は最低ひとり必要ね。…あ。倉庫は単に貯めとくだけじゃなくて、中で薬草から薬とか作れるようになるわよ。他にも今後のアンロックとかに必要だしね』
ヴェスの言う事は相変わらずメタいが、ここは素直に頷いておいた。運び込むのが楽になるように畑に隣接した場所に創造しておいた。正直言うと俺の魔王城(笑)よりも立派な大型倉庫だった。高さは2階以上はあるだろう。
「…しかしですな、魔王様。我らは昨日頂いたばかりなのですが?」
「はあ? 何言ってるんだ。飯は一日三食って決まってるんだよ」
ゴブリン達は俺が言ってる事が理解できないように互いの顔を見合わせている。
「そ、それは魔王様の御食事を日に三度、御用意すればよろしいのでしょうか…?」
不安そうな表情で長い黒髪の、この中では一番人間の容姿に近いエマが俺に尋ねる。
「ちょっと待て。俺もお前らも。今後やってくる連中全員に決まってるだろう」
「「ええっ!?」」
「お、お待ちを!そんな事をなされては直ぐに食糧の底が尽きてしまいます!」
「そこは何とかしようじゃないか。兎に角、もうこの方針でやるからな! あ。後、今後の状況次第だけど、アーグの子供達くらいの世代から成人年齢を引き上げるからな? この領のゴブリンがこれから安心して生きていけるようにするのが俺の目標なんでな。勿論、君達の力を借りることになる。そこんとこよろしく!」
俺は言いたい事だけ言って昨日収穫した野菜の山へとズンズンと向かう。マットとティアが慌てて続くが、他の5人のゴブリンは暫らく動けないようだった。 ま、いっか。
※
「よし!今日はもう朝兼昼飯になっちまうけど、コレにしようか」
「おお!それはガボ・チャックの実ですな!」
「固い…本当に食べられるのかなあ?」
「う~む。これがマットの言っていたガボか。これは投擲すれば良い武器になりそうだな」
「…父上。魔王様から下賜された食べ物を粗末に扱うことなどできませんでしょうに」
結局、カボチャはガボ・チャックというやたら強そうな人みたいな名前で定着してしまった。
「…どうしよ。まあ、焼いてみようかね」
「「ああ゛っ!?」」
「ッ魔王様!も、燃えてしまいますよ!?」
俺が焚火の中にポンポンとガボを放り込むと周囲のゴブリンから悲鳴が上がる。どうやらゴブリンは獣の肉を火で焙ることすら少ないようだ。毒のある虫くらいだと言う。…イヤ、毒があるなら食うなよ、とも思ったがそれだけ現状は厳しいということだろう。焚火の前で絶望しているマット達を放置して俺はテントの外れを見る。すると、ドガとエマがそれぞれ小石を積んで簡易のかまどを作っていた。
「お。何してるんだ?」
「魔王様。ティアから貰った薬草と魔王様から下賜された草の固い部分を使ってスープを作ろうかと思っていたんですが…」
「え…。じゃあ鍋とかあるのか?」
「は、はあ…正確には鍋とは言えないかもしれませんが」
そう言ってエマがおずおずと羽根のある半球体? いわゆる未確認飛行物体みたいなものを2つ重ねて見せてくれた。
「コレ…もしかして兜じゃないのか? 確かスティール兜とかいうもんじゃなかったか」
「私の嫁入り道具なんです…(ポッ)」
ドガと共に照れるエマにどう返答すれば良いのか困る。よく見れば羽根の部分に穴が開けられていて細い縄が通されている。これが嫁入り道具ねえ…。まあ、でもこんな物騒な世界じゃあ頭を守る防具はあっても良いし。こうして鍋替わりにもなる…深いな。
「そうだ。どうせ湯を沸かすなら、城の井戸水を使ってくれ。無限に湧き出すらしいから水浴びしても良い。皆にもそう伝えてくれるかな? …ああっ!? というか、むしろ一緒に煮て欲しいものがあるんだった!ちょ、ちょっと待っててくれ」
「「は、はあ…」」
呆ける二人を残して俺はその場から走り去った。
※※
「美味いっ!?」
一口目からアーボが目と口から怪光線を放射しそうな勢いで感激していた。
伺えば、皆同様で俺は内心ホッとする。
皆が口にしているのは、ドガとエマが作ってくれたスープだ。具は葉物野菜の芯にダイコーンの葉。それと俺が追加で持ってきた芋、皮を剥いて櫛切りにしたダンリックとネルギルでの名で定着してしまった太葱(恐らくポロネギとかいうヤツかも)だ。ダンリックもガボと一緒に焼いてもいいんだが…俺は母親が作ってくれたジャガイモ入りの味噌汁が好きだったから、つい思い出して作ってもらったんだよなぁ。まあ、異世界に味噌も醤油もないだろう。無いならいずれ代理品を見つけるか、作り出すしかない。発酵食品の知識一切ないけどな!
「ズズッ…うん、美味いな。ネルギルが良い味出してるけど薬草のハーブっぽいこの風味も嫌いじゃないよ」
「エマ姉さんは腕が良いですからね。…こ、今度はボクも作りますね?」
「ああ、それは楽しみだな」
「…………」
俺がそのスープを飲み干し、器を口から離してティアの眼を見て素直に頷き返すと、隣のティアが顔を赤くする。それをエマが意味ありげな顔でニヤニヤと見ていたな。
「……ですが、魔王陛下。よろしいのでしょうか? 私達がその、陛下と同じ場でこんな贅沢なものを口にして」
「俺がそうして欲しいんだよ。それに美味いものは大勢で食った方が美味いんだぜ? 最初から言ってるが、ブイヤ領のゴブリンはもう俺の身内だ。俺は魔王だが何ひとつ満足にできやしない。この料理だってドガとエマが拵えてくれたんだ。そうだろう?」
アーボはただ俺の言葉に頭を下げて涙を堪えているようだった。
「おっと、忘れるとこだった。アーグ、その辺の長い枝拾ってくれない? できれば折れなそうなヤツで頼むな」
「え? あ、ああ…」
アーボの息子であるアーグが少し離れた場所から良さげな長さの枝を拾ってきてくれた。この辺も元々は緑が豊かな場所だったんだろう。その名残があちこちにあるからな。
俺は「アチチっ」と言いながら焚火からゴロゴロと黒い塊を取り出す。それを見て皆が「ああ…」と悲観した声を漏らす。
「ホントは皮も食えるだけどな。今回は少しワイルド過ぎたな…。アーボ、ちょっとコレその棍棒で割ってみてくれない?」
「仰せのままにっ!」
「…父上がやると木っ端微塵になりそうですので、私にやらせて下さい」
凄惨な未来を予想したのかアーボのもうひとりの息子であるアーキンが杖のような太い木の棒でコンコンと程よい強さで黒い塊を割ってくれた。それを見て、アーボがションボリしていた。
「お。思ったよりもいい感じじゃあないか! 焼き芋ならぬ焼きガボだな。さあ、皆食うぞ!」
黒い部分は焦げたガボの厚い皮だ。中身はしっかりと火が通り湯気を上げている。その黄金にもにた色の実の部分が美しくすらある。ホント、コレ。バターとか醤油とかあったらもっと美味いヤツだわ~。
「「甘いっ!?」」
「ぼ、ボクこんな美味しいもの食べたの初めてだよぉ~!?」
この世界には甘味すら満足に無いのだろう。聞けば、数年に一度に運良く見つけた花の蜜とか町で取引した虫蜜(多分ハチミツか?)くらいだと言う。
俺達は暫し、ガボのホクホクした甘味に舌鼓を打つのであった。
『アンタ達…食ってばっかでさぁ~。いい加減に仕事しなさいよね? …ハア、先が思いやられるわね』
俺の肩で相変わらずヴェスが毒づくが、その顔は満更でもないようだった。




