魔王転生は突然に。
年明けから減り続けるモチベを何とかすべくリハビリという名の連載を開始いたします。
本文は短くとも必ず週1話以上の更新を目指していきます。多分、週末にまとめて書きますw
コロナ禍で辛くなる仕事…度重なる雪害で心がへし折れた筆者が書かせて頂きます!
あと、前書きにその話の登場人物を簡単に記載します。コレは筆者が致命的な設定を忘れるのを防ぐ為ですね(暗黒微笑)
突然だが、俺は太郎だ。
このご時世に珍しくないか? いや、別に全国の太郎さん達をディスる気なんてないんだがな。
俺は今日も楽しくも何ともない、やりがいも、給料も女っ気すらない職場から仕事を終えて自宅の安アパートへの帰路をトボトボと歩いていた。
まあ、少々ブラック気味である職場であるが高校を中退した身の俺を正社員として雇ってくれているのだ。欲を言えばもう少しだけ休みが欲しいところかなぁ…最近、俺の唯一の癒しであるゲームをやる時間すら取れていないからだ。
何となく地面に転がっていた空き缶を蹴飛ばすと、斜め向かいの住宅の塀で跳ね返って虚しい悲鳴を上げた。
「……そりゃあ、つまらんよな。正直言っても俺の人生。楽しくは…ない、かもなあ」
夜中に独り言ちる男など不審者でしかないだろうが、どうにも口から零れてしまった。
俺には家族はいない。高校2年の時、俺がさして楽しくもない学校から帰ってきた時。俺と家族が暮らしていた家は煙を上げているだけの瓦礫の山になっていた。出火の原因は不明。だが、焼け跡から見つかった2つの遺体は、俺の両親だと判断された。
俺の両親はあまり親戚とかの話はしなかったが…どうやらそれぞれ身内とは絶縁状態だったらしい。駆け落ちでもしたのか? 俺は頼る親戚も友達もなく、こうして5年。ただ、生きて来たんだ。
「仕事もつまらない。恋人も友達すらいない。帰ってゲームすることくらいが楽しみの人生、か。…まあ、仕方ないよな。学も無いし、運転免許すら持ってない俺がなんとか生活していけるだけありがたいし…」
俺の吐いた息が街路灯の光で白く映える。今日は冷えるな…。俺は何となく上着からスマホを取り出して何も映っていない画面を見る。暗い画面から暗い表情の男がコチラを恨めしそうに見ている。
ふと、最近仕事の休憩中にスマホで読んでいるネット小説が頭にちらついた。
「異世界、なあ…こことは全く別の世界か。…そりゃあゲームみたいにモンスターとか魔法とかある世界なんてあったらそりゃテンションもアガるわな。まるでゲームの世界だし」
俺はこんな下らない事を考えるのはもう止めよう。と、首をわざとらしく回して手でさすった。
…だが、最後に口からポツリと零れた。零れてしまった。
「…異世界転生。まあ、転移でもいいか。小説の主人公みたいに勇者だとかチートスキルなんていらないから…行けるもんなら行ってみてえなあ。もういっそのこと、村人だろうが魔王だろうが何だっていいから」
『マジか!?』
突如、前方からの声にビビッて俺は立ち止まる。俺は目の前の光景にショックを受けて、思わず手にしていたスマホと帰りにコンビニで買った遅めの夕食と明日の朝食が入った袋を手からズリ落としてしまった。中身が少しだけ心配だ。
そこには場違いな古めかしい玉座?に座った男がいた。外国人だろうか? 若いのかもしれないが、変に痩せぎすで銀色の髪も髭も伸び放題。まるで絵本に出てくるような魔法使いみたいだ。その頭の上に飾り気のカケラもない黒い王冠のようなものを乗せているのだが…。もっと気になるのはその頭の左右から飛び出している2本のツノだ。いい歳したオッサンがよ、性質の悪いコスプレだなあ…というか、普通に怖いって。
だが、俺が身動きひとつ取れぬ間に、急な浮遊感と共に意識が途切れる。まるで海岸の防波堤の上から足を踏み外して海に落ちてしまったような感覚だった…。
※
気付けばそこは……どこだろう?
「ど、どこだここは!?」
俺が見渡すとそこはファンタジーな世界でよく見る謁見の間のようだった。…思ったよりも煤けて汚い上に、狭い。恐らく住宅街とかにある多目的ホールくらいの広さ、か? 天上まで2階分くらいまであるようだが、面積でいえば、多分学校の体育館とかの3分の1もないだろう。まあ、俺は自分が通った学校の体育館の広さしかしらんけどな。
「いやあ~助かったよ!やっと君のような人材に出逢えるとはねえ。魔神よ!感謝します!」
だが、目の前には先程の男が満面の笑みで玉座に座って祈りを捧げていた。その手をほどくと手を叩いて俺を絶賛?している。
「ちょ、ちょっとアンタ…一体ここはどこで、アンタは何者なんだよ」
「イヤイヤ、説明も無く連れてきてしまって悪かったね。…いやでもね? 私の気持ちも少しはわかって欲しいんだよ? これまで2百年以上、ずうぅぅぅ~っっと!魔神に祈りを捧げ続けていたのが今日報われたんだからね!」
そう言ってから男は玉座から飛び上がると、目にも止まらぬ速さで床を滑るように段を降りて俺に近付いてきた。
「いやあ~まいっちゃうよ。ここ最近の転生希望者ときたらさあ。やたら異世界に対するグレードを勝手に引き上げてるわ。転生先も貴族だとか逆に成り上がりが決まった奴隷だとか。種族の設定とか煩いわ我が儘だわでねえ~。何でも地上の理すら無視する“ちぃとすきる”なんて代物を与えられて当然に思っているらしいじゃないか!そんな物騒なもの神々がホイホイ許すわけないじゃんっ!そんな簡単に人間に世界のバランスを破壊しかねない力を与えちゃうとか、その世界終わってるよ…!? しかも、もれなく伴侶の運命決定済みの美少女(オプションでケモ耳と尻尾)まで付けろとまでというじゃないかっ!? けしからんっ! …どうして誰も彼もが、君のように無欲に生きることができないんだ…? 全くもって嘆かわしいよねえ…本当にさあ」
「ちょっ、ちょ!?」
男は俺の質問にすらマトモに答えず、俺の腕を引いて玉座へと引きずっていく。凄え力だ!?
「いやしかしだね。私もここ百年諦めかけた時に、だ。君のような素晴らしい人材が召喚に応じてくれるだなんてね!やはり私は女神に愛されているに違いない! 魔神が許容する者に魔王にでも何にでも取って変わってくれるだなんて稀有な人間がいるとはねえ~。…あ!さあ、座って座って!」
「いや、だから…俺は召喚?にも魔王か何かしらんが変わって引き受ける気も…」
俺は何とか抵抗して腕を振りほどこうするが、目の前の狂人(可能性:大)は俺が玉座に腰を掛けるまで解放してくれる気はないらしい。
仕方なく、俺は大きな溜め息を吐きながらドスンとその玉座に腰を下ろした。…硬くてケツが痛い。
「…良し!グッドだ! …では、魔神よ。魔王ブイヤ・グノーシアスが願い出る! このブイヤ領の新たなる魔王の座を……いけね!忘れてた。君、名前は?」
「へ? た、太郎…だが」
「んん? 変に訛ってて上手く聞き取れなかったなあ。…ま、異世界の言葉だし別にいっか! オホン。このブイヤ領の新たなる魔王の座を…え~と、そうっ!玉座に着いた彼のタロントンに譲り渡そう! 汝、今後はこの地を支配する新たな王としてブイヤ・タロントンと名乗るがよいっ! 以上!終わりっ!閉廷っ!」
「ッぉい!? どう聞き間違ったらタローからタロントンなんて言葉が出てくるんだよ!?」
俺のツッコミを完全に無視したそいつは自分の頭から黒い王冠をムンズと掴むと俺の頭の上にポイと投げて被せた。
男はこれまでに見た事もない邪悪な笑顔を浮かべて「…上手くいった!」と呟いた瞬間だった。俺の頭に急な激痛が奔った。まるで自分の頭が無理矢理こじ開けられているかのようだ。
俺は悲鳴を上げて飛び上がろうとする。が、不思議な事に俺の身体はまるで電気椅子に縛り付けられているかのように見動きできない! 俺の絶叫を上げ続ける視界の端から赤黒い闇に塗りつぶされいく。
俺の意識はそこで途絶えた。