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新しい日常

 伊織がルーリアと出会い変わったことは主に4つある。一つは朝と夜の日課だ。日架といってもいいかもしれない。ルーリアが言うには略奪の力では身体能力の向上は計れないのだそうで朝のランニング、夜の筋トレがかせられた。サボったら血を吸うと脅された。

 一つはルーリアに界獣退治に連れ出されるようになったことだ。そのせいで「牙」の隊員との約束はあっさりと破られることになった。その代わりというのはあれだが戦闘経験については積むことができるようになった。そんなの積んでどうするのかといいうのはあったが。

 一つは食事を二人分作るようになった。ルーリアは朝昼晩と三食伊織の家で食べる。自分の家はちゃんとあるようで夜になるとちゃんと帰っていくがそれ以外は伊織の家に入り浸っている。夜の支配者なのに夜は寝ているようで疑問に思って聞いてみたら


「太陽の光は克服したのじゃよ。この世界で生きるのは夜行性だと何かと不便じゃからの」


 不便だとかで克服できるものなのかと思ったがおそらく暴食の力で何とかしたのだろう。太陽光を食べるとか多分そんなんじゃないか。伊織には本当のところはわからないが。

 最後に変わったのは学校生活だ。ルーリアと出会ったのはちょうど3連休の前日で火曜日に学校へ行くと転校生がクラスにやって来た。


「我は折合(おりあい瑠璃亜るりあじゃ。そこの伊織の従姉妹じゃ。よろしく頼む」


 そう自己紹介をした転校生は見た目も話し方も完全ルーリアだった。事前に何も聞いていなかった伊織は唖然とその姿を眺めているとルーリアは真っすぐ伊織の席にやって来た。


「ルーリアさ……」

「瑠璃亜じゃ。他人行儀はなしじゃぞ、伊織」


 ルーリアもとい瑠璃亜はそれだけ言うと指定された席に向かって行った。伊織は色々言いたいこともあったが周りの目もあり、それを見送るしかなかった。

 その後瑠璃亜の従姉妹宣言もあり一時的に視線が伊織に集まっていたがその視線はすぐに瑠璃亜本人へと向かっていった。

 口調が特殊であるが快活に喋り、小柄で美人ということもあり、瑠璃亜はクラスにすぐに受け入れられた。伊織はその様子を何とも言えない気持ちで見ていたのだが、昼休みの時間になると瑠璃亜は教壇に立った。


「主らよ。午前中様子を見させてもらったのじゃが我が従兄弟に冷たいのじゃないじゃろうか」


 そう言って瑠璃亜は目を細める。それだけで教室が一瞬で静まり返る。


「教師も教師じゃが主らも主らじゃ。伊織はそこにおるじゃろう。いないものとして扱う道理がどこにあろう」


 瑠璃亜は笑みを浮かべて話しているがその眼は全く笑っておらず、冷たく鋭利な光が宿っている。瑠璃亜は伊織の現状を知っていたはずだが実際に目のあたりにして色々思うことがあったのかもしれない。


「折合さん、ちょっといいかな。転校してきたあなたは知らないだろうけどこれは佐藤くんが望んでることなの」


 学級委員長の春日井さんが見かねた様子で瑠璃亜に声をかけた。瑠璃亜は威圧的に春日井さんを睨みつける。


「ほおー、伊織が望んでると言うのかの。なかなかおもしろいことを言うのー。本人が何も言わないことをいいことにそういうことにしたじゃけじゃろ」


 瑠璃亜は冷たくそう言い放つ。春日井さんは言い返そうとしたが瑠璃亜の冷たい瞳に射抜かれて閉口する。


「まあ、それはよいのじゃ。今さらどうこうしてもしょうがないことじゃからの。だが主らに一つ宣言してやろうぞ。伊織を見下したことを後悔させてやるのじゃ!」


 瑠璃亜はそう高らかに宣言した。



 放課後伊織はルーリアと2人きりになると詰め寄った。


「ルーリアさん、一体何を考えているんだよ!」

「学校でも伊織と一緒にいたほうが我もサポートしやすいからの。生徒として潜り込むのはなかなか苦労したがの」

「それもあるけどそうじゃない! あの宣言はどういうつもりですか!」


 せっかくクラスに打ち解けそうだったのにあの演説で一気にルーリア、瑠璃亜はクラスから孤立することになった。さすがにいじめるような命知らずはいないがみな瑠璃亜を避けていた。


「伊織、主は変わる覚悟をしたのじゃろう? それならば何の問題もないはずじゃない」

「そうじゃない! あんなこと言えばルーリアさんが――」

「みなまで言わずともよい。伊織、我は人間と仲良しごっこをするために生徒になったのではない。主をサポートするために生徒になったのじゃ。そこをはき違えるでないぞ?」


 ルーリアは真剣な顔で真っ直ぐ伊織を見る。彼女に一切の迷いはなく、伊織のためなら何でもするとそういう顔をしていた。


「どうして、どうして僕にそこまでしようとするんだ?」


 思わず伊織はそう口にしていた。まだルーリアと出会って数日しか経ってないが伊織はたくさん助けられてきた。一方で伊織がルーリアにしてあげたことなど食事を作ってあげたぐらいで伊織はルーリアにそこまでされるような人間じゃない。そんな思いから出た言葉だった。


「……未来の王に恩を売っておいて損はないじゃろう。それに簡単に死なれては寝覚めが悪いしの」


 いきなりルーリアの口から死という言葉が出てきて伊織は驚く。


「伊織にまだ言っていないことがあるのじゃ。魔王という称号はただの称号じゃないのじゃよ。魔王の称号を持つ者は他の魔王や勇者の称号持ちに狙われるのじゃ。特にまだ力の弱い新米魔王はの」


 ルーリアは淡々とそう言った。怠惰の称号を授かったその日に界獣に襲われたのは偶然などではなく、あれは他の魔王が放った刺客だったらしい。


「それじゃあ、ルーリアが僕の側を離れないのは僕を守る為だっていうのか?」

「半分はそうじゃ。もう半分は主をサポートする約束じゃからな。守られるのが嫌ならさっさと強くなることじゃな」


 ルーリアはそう言って笑う。伊織はルーリアのそんな姿を見て色々な思いは全て飲み込み笑ってみせた。


「わかった。ルーリアが守らなくてもよくなるくらい強くなるよ。だからこらからもよろしく頼むよ」


 伊織は改めて強くなることを誓った。いつか必ずルーリアからもらった恩を返せるようにと。

次回の投稿は10/23を予定しています。

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