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怠惰の力

 ルーリアが語るには伊織が夢だと思っていたのは夢ではなく現実にあったことだという。ルーリア自身がその様子を見ていたそうなので間違いないそうだ。


「彼奴が何の目的でやっているのかはわからぬが死にそうな者の前に現れてその命を救っておる。そのときに一緒に称号というものを彼奴は分け与えているのじゃ」

「それが僕の場合は怠惰だったわけですか」


 伊織は夢だと思っていた出来事を思い出してみるが神だとかいう女性の姿はほとんど思い出せなかった。ただ色々酷いことを言われたような気はするが。

 それにしてもルーリアがその女性について詳しすぎる気がする。そう思って伊織はルーリアに尋ねてみた。

 ルーリアはふむ、と少し考えるそぶりを見せたが教えても構わないだろうという結論に達したようで口を開いた。


「我も主と同じように彼奴に命を救われた口じゃからの。我の場合は暴食じゃ。暴食の魔王、それが我じゃ」


 ルーリアは立ち上がるとポケットからコインを取り出し、それを弾いて上に打ち上げ、コインをぱくりと食べてそのまま飲み込んでしまった。


「こうして我は万物全てを食し消化することができるのじゃ。これも力の一片じゃがの。我のことはいいのじゃ。今は主のことじゃ、伊織」

「そうですね。僕にもあなたと同じような力があるってことですよね」


 称号なんて外見的にはわからないし何も能力がないとしたら存在しないと同じだろう。与えたということはそれなりの効果があるということだ。


「そうじゃの。怠惰が持つ主たる力は略奪じゃ。人の経験や知識を奪い取り己のものとする力じゃ。とはいっても彼奴によって制限がかかっているがの」

「制限?」


 聞いただけでとてもやばい力だとわかるので制限があるのはわかる。その制限のせいで伊織は力に自覚をできていないだろうというのも何となく伊織にもわかった。


「実を言うと主はその制限を突破して一度、二度発動しておる。自覚はしておらぬようじゃがの」


 ルーリアはそう言いながらポケットに手を入れてコインを投げてきた。流れるような動きであったが伊織はそれを受け止めた。


「いきなり何……」

「よく受け止めれたの。昨日の主じゃ反応できなかったじゃろうな」


 そう言われると自分でよくコインを受け止められたと伊織は思う。ルーリアは今のコインを受け止められたのは略奪の力のおかげといいたいのだろうがいったいどこで力が発動したのだろうか。思い当たる節はないのだがそれでも伊織は考えてみる。

 ルーリアはどのタイミングで発動したのかわかっているのは間違いない。そういえばルーリアは最初から力の検討はついていたようなことを言っていたのでルーリアの行動を考えると何かわかるかと思いだしてみるとすぐにそれっぽいものに思い至る。


「もしかして界獣を僕に撃たせたのはそれが理由だったんですね」

「そうじゃの。略奪の発動条件は3つじゃ。一つは命奪。殺した者の経験の一部を自らのものとする。二つ目は奪取。敗者から勝負に関連したものを奪う。三つ目は献上。略奪されることを許容したものからおの範囲内で奪う。この三つの条件のどれかを満たさなければ発動はできぬじゃろう」


 伊織はそう言われて思わずぽかんとしてしまう。その条件厳しすぎない? 伊織はそんな風に思ってしまう。言ってしまえば怠惰の力とは弱肉強食を体現したような力で上が下のものを搾取するもので現状弱者に分類されるであろう伊織にとってはとてつもなく使い勝手の悪い能力だった。能力を聞いたとき伊織も少しばかり期待したというのにこれはあんまりだ。

 ルーリアは伊織の落胆した気持ちを表情から読み取ったようでやれやれと大きく肩を竦めた。


「伊織、主は人の努力を踏みにじってでも強くなりたいと思うのかの?」

「そ、それは……」


 自分は努力することなく人が努力した結果を横からかっさらう。怠惰の名にふさわしい最低な力だ。ルーリアに言われて伊織は改めてそう自覚する。しかしルーリアは伊織の罪悪感を否定するように首を横に振った。


「それが悪じゃと否定するつもりはないのじゃ。我の暴食も悪逆非道ともいえる力じゃしの。我は主の覚悟を知りたいのじゃよ。今までの辛く苦しい人生を新しいものへと変える覚悟をの」


 ルーリアの真剣で真っ直ぐな瞳を見て伊織は自分がどういう人生を歩んできたのかこの人に知られているんだとわかった。先ほど血を吸われた際に見られてしまったのかもしれない。

 伊織はすぐには答えずに一度深呼吸をする。いじめられたりいないように扱われることには慣れたと思っていた。でもどうにかできるかもしれない可能性を掲示されるとやっぱり思ってしまう。今の人生は嫌だって。


「今の生活は、今までの人生のままなんて嫌です。他人の迷惑になろうとも僕は変わりたい!」

「うむ。よく言ったぞ。これからは我が主をサポートしてやるのじゃ。大船に乗ったつもりでいるとよいのじゃ!」


 こうして怠惰の魔王佐藤伊織と暴食の魔王ルーリア=オーリアの間で友好が結ばれた。このことがこの世界にとって吉となるか凶となるか今はまだ誰も知らない。

次回の投稿はは10/22となります。

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