7.かわいいひと
それ以降、ライアンは同じ時間帯にちょくちょく立ち寄ってくれるようになった。
来る曜日はだいたい決まっていて、火曜か金曜だ。
ライアン・クリフォードが私の店に通うようになったという噂はすぐに広まったらしい。
おかげで連日、若いお嬢さん方で店内が溢れている。
ただ、彼が訪れるのはいつも平日の遅い時間だ。
貴族の御令嬢が、おいそれと出歩ける時間ではない。
それでも一目会いたいと、ギリギリまで粘る御令嬢もいたが、めったにそれは叶わなかった。
そのためライアンに迷惑が掛かるようなことはない。
忙しいのか、ライアンはいつも閉店間際に来る。
元気な日もあったが、だいたいは疲れた顔をしていた。
私の店で紅茶と甘味を摂取すると、少しだけ幸せそうな顔をして王城に戻っていくのが常だった。
彼はすっかりこの店の常連だ。
一度の滞在時間は短めだが、回数を重ねるうちに会話は増え、二か月もすればかなり仲が良くなった。
お互いの仕事の話が主だが、愚痴や悪口ではなく楽しかったエピソードばかりなのがありがたい。
ライアンとの会話のテンポはとても心地よく、好ましいものだ。
気付いた時には、彼が来るのを心待ちにするようになっていた。
その日は午後から雨が降っていた。
そのせいで、今日はライアンが出没すると知られている金曜日だというのに、客の入りは少ない。
一人客が数人。
ぽつぽつと来て、短い時間で帰っていく。
閉店まであと一時間はあるというのに、もう外は暗く、客足が途絶えてしまった。
こんな日は、少し心細い気持ちになってくる。
カラン、と店のベルが鳴る。
入り口を見るとライアンが立っていて、ホッと息を吐いた。
「どうしたの、今日は早いわね」
すっかり打ち解けた口調で問うと、ライアンが嬉しそうに笑った。
「ようやく仕事がいち段落しそうでね。フライングで休憩しにきた」
「そうなの? 良かった。最近ずっと大変そうだったものね」
定位置となったカウンター席に座りながら、彼はいつもの紅茶を注文した。
傘も持っていないのにどこも濡れていない。
たぶんなにかしらの魔法を使ったのだろう。
少しずつ増えてきてはいるが、魔法を使える人はまだまだ少ない。
マッチ一本分の火を点けられるだけでも珍しがられるご時世に、彼は雨をしのぐなんて大技を難なくやってみせる。
事務仕事も出来て、剣の腕も優れていて、その上魔法も使える。
もちろんそれだけではない。
容姿も性格も抜群にいい。
出来すぎた話だとは思うが、目の前にそれを体現する人物が座っている。
これは第一王女と結婚するという噂はかなり真実に近いのではないだろうか。
私が王様でもライアンを婿に欲しいと思う。
まるで物語の主人公のようだ。
ライアンを見ていると、どこか遠い世界の出来事を見ているような気分になってくる。
なんとなくお供え物をするような厳かな気持ちで、クッキーを添えた紅茶をライアンに差し出した。
「そういえばフローレス」
「なぁに?」
「このクッキーは購入可能なのか?」
「ふふっ」
物語の主人公が、急に生身の人間に戻る瞬間に思わず笑いが漏れる。
ライアンが怪訝な顔をして「どうした?」と尋ねてくるが、正直に答えるのもどうかと思って曖昧に誤魔化した。
生真面目で堅物そうな見た目に反して、本当に可愛い人だと思う。