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【コミカライズ】めでたく婚約破棄が成立したので、自由気ままに生きようと思います【書籍化】  作者: 当麻リコ


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15.自覚

「貴様何をしている!」

「ラ、ライアン!?」


見たこともない剣幕で怒鳴るライアンに、リカルドがわかりやすく狼狽する。

猛然と近づいてくるライアンが、私の腕を掴むリカルドの手を引き剥がして突き飛ばした。


「なんでお前がここに!」

「それはこちらのセリフだ」


低い声で威嚇するように言ったあと、床にへたったままの私に視線を移す。


「大丈夫かフローレス」

「え、えぇ……」


なかば呆然としている私に、ライアンが視線を合わせるように屈んで心配そうに覗き込む。

だが頬を殴られたことに気付いたのか、その顔が一瞬で憤怒の色に染まった。

あまりの恐ろしさにうっかり悲鳴を上げそうになる。

怒気を孕んだ美形の顔は、それはもうおっかなかった。


その表情を、ライアンはリカルドに向けた。

案の定リカルドは思い切り怯えて、一歩後退った。


「……貴様何をしたかわかっているのだろうな」

「な、な、なんだ、なんでお前、かか、関係ないだろっ」


引き攣った青い顔で、それでもなんとか言い返そうとする姿は滑稽だ。


同じ公爵家嫡男で同年代、リカルドも一応騎士団に所属しているから面識があるだろうとは思っていたが、どうやら顔見知り以上の因縁はありそうだ。


「お、俺は今こいつと大事な話をしてるんだ! お前は引っ込んでろ!」

「女性に暴力を振るったのを見過ごせるわけがないだろう」

「ここ、こいつが物欲しそうな顔してたからかわいがってやろうとしただけだ!」


精一杯強がったらしい顔はいやらしく歪み、言葉の気持ち悪さも相俟って吐き気が込み上げてくる。


誰が物欲しいだ。

どれだけ飢えててもあんたにだけは頼まないわ。


殴られたショックからようやく立ち直って、ありったけの罵詈雑言浴びせようとするが、ライアンが汚い言葉から私を守るように背中に庇うので、なんとか思いとどまる。


「女性を殴るのが愛だとでも言う気か」

「俺らの勝手だろうが!」

「彼女はそんなこと望んでいない」


声を荒らげるリカルドに対し、ライアンは立ち上がって淡々と言い返す。

私からは彼がどんな表情をしているのかは見えない。

声だけ聞けば冷静に見えるけど、激昂しているのはその背中から伝わった。


「フローレスは俺の女だ!」

「彼女がお前のものだったことなど一度もない。ずっと掌で踊らされていたこともわからないのか」


それはそう。ホントそれ。

状況も忘れて思わず深く頷く。


「お、お前には関係ないだろ!」


情けないセリフに笑いそうになる。

関係性の高低で言ったら、現状はリカルドの方がよっぽど低い。


「彼女は俺の大事な人だ」


きっぱりと言われて心臓に衝撃が走る。


リカルドを言い負かすための、その場しのぎのセリフだ。

わかっていても、胸が高鳴るのを止められなかった。


ライアンの男前なセリフに反応したのは私だけではない。

勝手に私のことを自分のモノだと思い込んでいる馬鹿男が、目に見えて色めき立った。


「なっ、ふざ、ふざけるな! お前なんかに渡すものか!!」


我を失ったリカルドがライアンに殴り掛かる。


「ライアン!」


思わず悲鳴を上げた。

けれどライアンに動揺は見られない。


勝敗は一瞬だった。


「ぐっ、ぁ、あッ!」


あまりの速さに目で追うことは出来なかった。

気付いた時には衝撃と共にリカルドが床に叩きつけられ、ライアンの下で関節を極められもがいていた。


「はな、せっ、このっ……!」

「二度とフローレスに近付くな。このことは上にも報告する」


低く静かにライアンが言う。

リカルドは蒼褪めて、言葉を失った。


「本当はこの腕をもいでやりたいくらいだ。そうされないだけありがたく思え」

「ぐぁ、ぅぅッ」


ギリ、と関節を締め上げながらライアンがリカルドの耳元で低く言う。


こういう場合、女性というものは「もうやめてあげて!」とか言うべきなんだろう。

それが淑女というものなのだというのはわかる。

けれど淑女とは無縁の私は心の中で快哉を叫び、「いいぞもっとやれ!」というエールをライアンに送っていた。


「わかったな」


リカルドはもはや涙目で、無言のままコクコクと必死に頷いた。

なんとも哀れな有様に、さすがのライアンも呆れたのか小さく嘆息してリカルドの上からどいてやった。


「行け」

「ひゃい!」


短く言うと、リカルドが情けない声を上げて這いつくばるように逃げていった。

その無様な後ろ姿を見送って、視界から消え去ったことに安堵する。


ようやく静かになった店内で、ライアンが振り返り、へたり込んだままの私の目の前に膝を突く。


「大丈夫かフローレス」


心配そうな顔で手を差し伸べてくれる。

まるで物語の王子様だ。

これで恋に落ちない女なんているのだろうか。


ライアンに触れる手が震える。


「可哀想に、怖かっただろう」


それを怯えと取ったのか、ライアンの顔が痛ましそうに歪められた。


違う。

あんな奴への恐怖なんて、あなたが来てくれた時点で飛んでいった。


これはもっと別の感情だ。


リカルド。

あの男、絶対に許さない。


転がり落ちないように、崖っぷちで必死に踏ん張っていた私の努力は水の泡だ。

どうしてくれる。

どうすればいい。


こんな先のない恋に突き落とされて。

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