14.反撃
「ちっぽけですって? あなたこの店の価値も分からないほど馬鹿なの?」
王城前の一等地。
富裕層が行き交うため、よく整備された一帯だ。
もちろん治安も抜群にいいし、成金ではなく昔からの金持ちが多いから金払いもいい。
商売をするなら最適だ。
競争の激しい地区だから、ここに店を持ちたがる人間は後を絶たない。
それに確かに広くはないが、内装には出来る限りのお金と時間をかけてこだわっている自慢の店だ。
どれだけ金のかかった店かなんて、ちょっと目端の利く人間ならすぐにわかるというのに。
「ばっ、馬鹿だと!?」
「馬鹿よ。没落寸前のポンコツ息子にこの店より上等なものを与えられるわけないって分からないんだもの」
「なっ、誰に向かって、」
「あんたの許に私が嫁ぐ価値なんてないわ。身の程を弁えてちょうだい」
挑発する気満々の喧嘩腰で言うと、リカルドの頬がカッと赤く染まった。
「誰のおかげで店を持てたと思ってるんだ!」
ガタンッと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって、お気に入りのテーブルに思い切りこぶしを叩きつける。
それを見てますます腹が立った。
なんだこいつ。頭カチ割ってやりたい。
「私のおかげに決まってるじゃない。他に何があんのよ」
「俺が出した金だ!」
「私が持つ正当な権利でしょ。それにお金を出したのはあんたのパパだし」
「うるさい! 家の金は俺の金だ!」
「スネ齧り宣言ダッサ」
「黙れ! こんな店さっさと潰して出資した金を返せ!」
「ああなんだ結局はそれが目的? あんたんち今貧乏だもんね。てか慰謝料なんだから出資じゃなくて私のお金だっての」
「貴様っ! 俺を愚弄する気か!」
「やっと気付いたの? ホントぽんこつ」
肩を竦めて見せると、顔を真っ赤にしたリカルドがワナワナと震え始めた。
ここまで小馬鹿にすれば、さすがに二度とヨリを戻そうなんて世迷言を言わないだろう。
そろそろ『リカルド様を愛してたかわいいフローレスちゃん』の情報を新しいものに更新して欲しい。
そして二度と顔を見せないでほしい。
なんならこの世から消えてくれてもいい。
何度私の人生を邪魔すれば気が済むんだこの男は。
「ご理解いただけたならどうぞお引き取りください」
「……許さん。何もかもお前のせいで……俺の家は……」
「いやだから全部自分のせいでしょう。婚約破棄だの新しい婚約者だの軽々しく考えるから、」
「黙れ黙れ黙れ!! 全部お前のせいだ!!」
「えっ、ちょっ! きゃあ!」
逆上したリカルドが掴みかかってくる。
目が完全に血走っていた。
やばい言い過ぎた。
早く追い払いたい一心で加減を忘れていた。
後悔してももう遅い。
腕を掴まれる。逃げようとして客席に思い切り足がぶつかる。椅子が派手な音を立てて倒れた。
「このっ……!!」
「きゃっ!」
思い切り引っ叩かれて頭がくらりと揺れた。
もう一度叩かれそうになって、歯を食いしばりぎゅっと目を閉じた。
その瞬間。
ガランとベルが大きな音を立てて、店のドアが開け放たれた。
「フローレス!!」
飛び込んできた人物を見て、頬の痛みも忘れて呆然とする。
どうして。
今日はあなたが来る日じゃないでしょう。
息を切らせ、汗を滴らせたライアンを見て、かろうじて踏ん張っていた足から力が抜けていく。
情けないことに、安堵のあまり私はその場にへたり込んでしまった。