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桜散り薄紅色の逃避行

作者: ユバ

タイトルの自作俳句をもとに書いた短編小説です。

 入学式当日。僕は重い体を引きずって通学路を進んでいた。好き好んで学校に行くような人種とは一生分かり合えないなと思う。多分周りの大人たちから見たら僕は捻くれ者で、「多感な時期だからね、仕方ないよ」と言われてしまうような、哀れな子供なのだと思う。


 実際のところそうなのかもしれないけれど、僕が心のうちに抱え込んでいる大人への不満だとか、将来への不安だとか、頭の中をぐちゃぐちゃにしようとして来るそいつらを「若さ故に処理しきれていない、本来なら些細な悩み」として片付けられてしまうのは納得がいかなかった。だけど、今日から通うことになった高校でもきっと大人からの扱いは変わらないんだと思う。教師からしても、親からしても、まだ僕は保護されているべき子供なのだ。そう思うとすごく悔しいし、学校になんて行きたくなくなる。それでも今の日本は高校ぐらい出ていないとまともな職にありつくのさえ難しい。


 くたばれ、学歴社会。


「テロリストが入学式に乱入して……先生が全員殺されたりなんかしたら通わなくても済むんだろうな」


 そんな妄想も、まだまだ僕が子供でいわゆる「厨二病」的な思想雨を捨てきれていないから湧いてくるんだろう。自覚がある分、辛い。


「ずいぶんと物騒なこと考えるんだね」


 突然横から声をかけられた。そこには、中学の頃のクラスメイト。


「いや……聞かれると思ってなかったから……」


「けどわかるよ。だるいよね、ガッコー」


「まあ…ね…けど行かないといけないし」


「なんで?」


「え?」


「そんなの誰が決めたの? ガッコー行かないと逮捕とかされちゃうわけ?」


「そんなことないけどさ」


「じゃあ行かなくていいじゃん」


 彼女は、高校の制服に身を包んでいた。口では色々言いながらも、結局は自分も学校に行かなければと思ってたんじゃないのか?


「私はね、行かないよ。少なくとも今日はね」


「とんだ不良だな」


「でしょ、不良ってなんかかっこよくない?憧れてたんだよね」


 若気の至りだ、そんなの。大人になってから後悔する典型例。


「てか、一緒にサボろうよ。流石に初めてサボるのが単独犯なのはちょっと怖いし!」


「は?いや俺は……」


「ダメ?」


 彼女が俺の顔を覗き込む。その瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

 この子は、俺みたいに捻くれていない。

 自分の思ったことに素直な彼女と、逆張りで捻くれた考えの俺。一体どっちが子供なんだろうか。大人からしたらどちらも子供なのかもしれないけど、なんだか俺にはそんなことないように思えた。


「わかった、行くよ」


「やった!」


 彼女について行って俺は子供になるのか、大人になるのか。わからない。

 けど大人か子供かって前に俺は俺だ。そこがブレないなら……あとは少しだけ素直になっても良いのかもしれない。


「で? どこ行くんだよ」


「そうだな〜。海とかどう?」


「ははっ、ありがちなやつじゃん」


「別に良いじゃん!それも憧れてたの!」


 通学路からそれた俺たちに、桜の花びらが降り注ぐ。入学を祝う花のイメージが強いけど、まあこれも一種の門出みたいなものだしな。俺たちのことも祝ってくれ。


 桜が散って薄紅色に染まった道を進む。

 俺の人生逃避行は、とりあえず入学式をバックれるところから始まった。


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