隣室の修羅場
場所「一人暮らしのアパート」
ツッコミ=学生 ボケ=隣人
学生「はぁー試験終わった、最高! 明日からゲームやり放題だな!」
隣の部屋から怒鳴り声がする。
学生「なんだなんだ?」
隣人「信じられない! 俺の部屋に別の男を呼ぶなんて!」
学生「おっと修羅場か。勘弁してくれよ…」
隣人「前からおかしいと思ってたんだよ! やたらおめかしして出かける日が増えたし、俺のLINEもなかなか返信してくれなくなったし!」
学生「おお、典型的な浮気の前兆だな」
隣人「毎日お互いに百通ラブコールするって約束したじゃん! 二十九日前からはお前のLINE十通ぐらいに減ったし、もう約束守ってんの俺だけじゃん!」
学生「ストーカーかよ!」
隣人「今日のお前のLINEなんてさぁ、今日、六時、お前、お部屋、丸かじりって、たった五通よ!?」
学生「一気に送れよ内容も怪文書か!」
隣人「俺のこともう愛してないってこと!? ブランドの靴も洋服もカバンだって全部俺が買ったのに、なんだよあのクローゼットの中身!」
学生「お、全部売られたのか?」
隣人「しまむらの安物混じってたんだけど!?」
学生「彼女の私物が増えただけじゃねぇか!」
隣人「新しいの欲しいんだったら、俺が全部買ってあげるって言ったじゃん! 俺に内緒で自分で買って来るなよ!」
学生「独占欲強いなぁ」
隣人「ただでさえお前のコーデ絶望的なんだから!」
学生「あ、そっち?」
隣人「なんだよこのショッキングピンクのシャツ! 『ボーイズビーアンビシャス』ってカタカナで堂々と書きやがってカッコいいじゃん! 本当にお前が選んだの!?」
学生「お前のセンスも絶望的だな!?」
隣人「わかった! その男と一緒に買いに行ったんだろ!? クソ、俺が知らないところで二人でデートしてたんだ! 電車とか道端でイチャイチャ見せつけてたんだ! …あ、違うの? ごめんね」
学生「違うのかよ!」
隣人「じゃあなんで俺たちの部屋に上がり込んでんの? パーティー?」
学生「急に仲良くしだすじゃん」
隣人「え……そんな……嘘だろ」
隣の部屋でガラスが割れる音と女性の悲鳴。
学生は急いで壁に縋り付く。
学生「は? ちょ、どうしたんだよ」
隣人「嫌だ、やめろ、嘘だと言ってくれ! 止めろ! ごめんなさい! 許して!」
学生「何が起きてんだ! おい大丈夫なのかこれ!?」
隣人「うわぁ…ああ…ああああああーッ!」
静まり返る。
学生「…待って待って待って。絶対人死んだって…」
啜り泣く声が聞こえる。
隣人「う、うう…」
学生「ぶ、無事か!?」
隣人「だから…言ったじゃん…俺リングだけは絶対見たくないって言ったじゃん!」
学生「ホラー映画鑑賞してんじゃねぇ! 紛らわしいわ!」
隣人「わああもう隣からも貞子の声が聞こえて来るよぉ!」
学生「俺の声貞子と似ても似つかないけど!?」
隣人「あーもう映画止めて止めて…で、本当になんで俺の部屋にいるの?」
学生「そうだよ本題それだよ」
隣人「うん…うん…へぇ…ふーん、ほーん」
学生「興味ないなぁ!?」
隣人「うん。要するにあれだ、あれ、えーっと、あれだよあれ。あの、兎が一匹になると死ぬ現象だろ。死にたくなかったんだろ? つまりはそう、そういうことだったんだな」
学生「素直に寂しくて浮気したって言え!」
隣人「ああ、分かった。お前はそういう奴だったんだな。うん…うん、もういい! お前の言い訳なんか聞きたくない。…あのさ、もう、終わりにしよう!」
学生「ついに縁を切るか…!」
隣人「こういう特殊プレイ恥ずかしいから!」
学生「今までのそういうプレイだったの!? えなに、どこからどこまで!? しまむら買った辺りから? もしかして百通ラブコールから!?」
隣人「こういうことしなくても、俺は絶対にお前のこと嫌いにならないよ。だから『人妻に寝取られた旦那は復讐を決める〜浮気相手を供えて〜』はもう終わりで」
学生「長い題名やめろや! 浮気相手も供えるな!」
隣人「うん…LINE百通でも伝わらないことがあるんだな…ごめんな、寂しい想いさせて」
学生「そっちはナチュラルボーンなのな!?」
隣人「謝らないで。悪いのはお互い様さ。明日からはGPSも付けてあげるね」
学生「ストーカー極めるなぁ!」
隣人「ふふふ…ふふふ…大好きだよ。タクヤ君!」
学生「いや彼氏かい!」