96話 抱っこ
次女である千夏は他人に甘えるのが苦手だと勝手に思っている。千冬が居て、千秋が居て、妹が居る彼女は無意識のうちに自分の事を強い存在であらなくてはならないと思っているような気がするのだ。
「千夏、もう大丈夫か?」
千夏を抱っこしてあげてから、数分が経過した。そろそろ降ろしても良いかと主折って千夏に聞いた。
「やぁ」
まだまだ甘えたいようで嫌と言って、ガッチリ背に手を回して捕まっている。コアラのように千夏はそのままだった。
「カイト、千夏と何をしている!」
「千秋……これは……抱っこと言う方が良いのか?」
「千夏だけズルい! 我も抱っこ!」
千秋が来ると千夏は直ぐに俺から離れた。やっぱり甘えている所はあまり妹には見せたくはないと言う事なのだろう。
千秋が両手を伸ばすので抱っこをすると、千秋はニコニコ笑顔になった。
「カイト、我、軽いだろ?」
「うん。軽い軽い」
「最近、痩せてきたからな!」
「そうか」
あんまり重さは以前と変わっていないと思ったが余計なことを言うと不貞腐れてしまうので何も言うまい。どちらにしろ、それほど重くないわけだし。
「あ、カイト、夜ご飯は我が煮物を作ったぞ! 刮目して食べて!」
「分かった、刮目して食べるよ」
「おかわりも待っているからな!」
「ふむ、千秋は相当自信があるんだな」
ここまで言うと言う事はそれほど料理が上手に出来たのだろう。ばっちゃんが手伝ったらしいからな。かぼちゃの煮物とかきっと美味しく出来ているのだろう。
「千夏はどうする……? 俺と一緒にここで食べるか?」
「……うん」
まだ怖いだろうな。無理にじっちゃんとばっちゃんと一緒に食べて、気を使わせたくないとも思っているのかも知れない。
「そっか」
「千夏、我も食べ終わったらすぐに来るからな! 一人じゃないぞ!」
「ふん、別に秋は気にしなくていいわよ……でも、ありがと」
千秋が今度は千夏に向かってハグをする。ギュッと包み込むようなハグをされて千夏も何だかんだで嬉しそうだった。
「よーし、それじゃ我は一回下に降りる! ご飯持ってくるからな!」
一瞬で風のように千秋は去って行った。
「カイトも一回下に行っていいわよ。丁度、冬も来たし」
「魁人さん、夏姉……その……」
「変な気を遣わせて悪かったわね。冬、でも大丈夫よ。私は」
「あ、いやその……なら良かったっス」
千冬が千夏を気にして部屋の前まで来ていた。千夏を一人にしないように千冬は二回に来たのだろう。一人ではなくなった千夏を見て、安心をした俺は一旦、部屋の外に出た。
「お兄さん」
「うぉ! 千春か」
「見てたよ」
急に部屋の前に立っていた千春に思わず俺は驚いてしまった。一体全体、何を見ていたと言うのか。
「抱っこしてたね。うちの千夏を……」
「ごめんな、でも、盗ろうとか思ってないぞ」
「それは知ってるよ。抱っこ……千夏は幸せそうだった……そんなにいいモノなのかな?」
「どうだろう」
「うちもしてあげた事あるけど、あんな感じにはならない。もっとこう……うちとお兄さんで何が違うのかな?」
「……身長か」
「確かに……高さが足りない。なら、牛乳をうちは飲むべきなのかな……なんて、冗談は置いておいて」
「冗談だったのか」
「分かりづらかった?」
「ちょっとな」
「……そっか」
千春は深く考えるように、俯いてからスッと俺に目を向けた。
「抱っこして。お兄さん」
「抱っこか」
「そう、抱っこだよ。千夏の気持ちが気になるからさ」
「分かった」
千春を抱っこすると、千春はそのまま辺りを見渡した。
「なるほどね。高校生くらいになって身長が伸びたらうちはこんな景色を見るのかも……」
重さは千夏と千秋とあんまり変わらない。強いて言えば千秋よりちょっと軽いと思うくらいだろうか。
「ありがと。もういいよ」
「おう」
「……」
千春は降りると、そのまま一階に降りて行こうと階段の手すりに手をかけた。
「お兄さん。また、お願いね。皆の気持ちを知りたいからさ」
そさくさと千春は下に降りて行った。俺も下に降りようとしたが、部屋のドアが開いていて、千冬がこっそりのぞいていた。
「千冬も……」
「抱っこするか」
「はい、お願いしまス」
千冬も抱っこし終えたら、今度こそ俺は下に降りた。




