95話 千夏ボッチ
俺の祖父と祖母、通称じっちゃんとばっちゃんが家に来てから数時間が経過した。千秋は二人と打ち解けようと頑張っている姿が見えた。それにつられて千春や千冬も少しだけ接している様子が見えた。
「我、カイトの好きな料理作る!」
「魁人は、かぼちゃの煮つけが好きなのよー」
「おー! おばあちゃん、教えて!」
「いいわよー、はぁ、かわいいわー、こんな可愛いなんて羨ましいわー」
千秋をハグしながら頭も撫でるばっちゃん。千秋が孫みたいに見えているのだろう。そして、とんでもなく可愛く見えているのだろう。気持ちは凄い分かる。千秋は本当に可愛いからな。
千冬はじっちゃんと将棋を勝負している。互いに無言だが千春が間に入って良い具合に会話を回しているのが見えた。
「えと、おじいさんは……趣味とかありまスか?」
「……将棋、囲碁、オセロだ」
「あ、そ、そうでスか」
「おじいさん、寡黙な人なんだね。お兄さんは昔どんな人だったんですか?」
「魁人は昔から、欲のない子だった」
じっちゃんは昔から寡黙なのは変わりないなぁ。ずっと一人オセロ、一人囲碁、一人将棋しかやっていなかったから対戦相手が出来て少し嬉しそうだ。まぁ、顔には出さないし、まだ緊張しているようだけど。
「あの、王手です……」
千冬がぱちんと駒を指して、王手を宣言する。千冬は本当に将棋強いからな。じっちゃんは眼をパチパチしながら盤上を見ている。一人でずっと将棋やっているのに凄く弱いのがじっちゃんだ。
昔から俺にもずっと負けている。
「負けたか……」
「あらあらおじいちゃん、また負けてしまったのねー。ごめんぇ、千冬ちゃん、もう一回勝負してあげてー。この人、将棋相手が居なかったし、負けたから悔しいのよぉー」
千冬に敗北して無表情なじっちゃんが悔しくてもう一戦したいと言うのをばっちゃんが察する。千冬もそう言われたら、二回ほど頷いて、もう一度将棋を指し始める。千春は千冬の横顔を見守りつつ、千秋が料理している姿も時折見守っていた。
三人は緊張もしているだろうが、じっちゃん達と普通に接することが出来るようなのでちょっと安心した。だけど、千夏はまだ二階にいる。彼女にはいきなり他人と接することは不安で仕方ないのだろう。
それを咎めることは誰にも出来ないし、しようとも思わない。俺だっていきなり他人の祖父と祖母が来たら緊張するし、いきなり仲良くしようとかは思わないし。
二階に上がって、四人の部屋をノックする。中に入ると、千夏が部屋の端っこで体育座りしながら漫画を読んでいた。
「魁人……どうしたの」
「千夏が気になったからさ。見に来たんだ」
「気にしなくていいわ……」
「気にするさ」
「……そっか」
「千夏が不安にしてるのを見たら、どうしても放っておけないよ」
「……だったら、隣に座ってもらっていい?」
不安そうな顔でそう言うので俺は隣に座った。千夏は漫画を閉じて棚に戻す。そのタイミングで彼女は語りだす。
「ねぇ、私の話聞いてくれる?」
いつもの強気な眼はどこか不安を帯びていた。彼女なりに怯えを出さないようにしているのかもしれない。俺の祖父と祖母を恐れていると知ったら、俺が複雑な心境になるかもしれないとか考えていそうだ。
「あの、言いづらいんだけど……私、怖いの。魁人のおじいさんとおばあさん」
「そっか……」
「ごめんなさい……」
「謝る必要はないんだ。誰だって急に知らない人が来たら怖いに決まってる」
「……でも、私だけ、何もできないから。皆……と私だけ違う……それが怖くて、申し訳なくて……」
千夏は不安に押しつぶされそうに手を震わせていた。
「本当に気にする事はないよ。誰だって不安なんだ。俺も急に千夏の祖父とか来たら怖いし、相手にしないで部屋でテレビとか見ると思う」
「……本当に?」
「まぁ、大人だから多少対応はするだろうけど。俺が子供だったらそんな感じにするさ」
「……」
「俺のじっちゃんとばっちゃんも別に気にしてないよ。人それぞれ分かり合うには時間が必要だ。俺と千夏が仲良くなったみたいにさ」
「うん……」
「それに極端な事言うけど、合わないなら無理に仲良くする必要はないよ。家族だからって、家族の知り合いだからって仲良くするのが正しい事でもないしさ」
「……ごめん。そんな事言わせて」
「俺もごめんな。ずっと千夏達の事を黙ってたから、心の準備も出来てないのに合わせてしまった」
「魁人が謝る必要はないわッ、だって」
「なら、互いに悪かったことにしておこう。これ以上謝っても、空気悪くなるだけだしな」
「分かった」
「よーし、折角だし二人で何か遊ぶか」
「二人で?」
下だと千秋が料理したり、千冬たちは将棋したりで手が離せないだろう。俺も丁度暇だったし、千夏も放っておけないなら何かをしようと思った。
「どうする? オセロやるか?」
「……私、子供じゃないわ。もっと大人の遊びしたい」
「大人の遊びか……将棋とか?」
「……ルール分かんないから、やめとく」
「囲碁か?」
「囲碁も分かんない。私、ただ話すだけでが良い」
「話か……学校は最近どうなんだ?」
「結構、人と話せるようになったわ」
「おおー、友達沢山か」
「沢山って程でも無いけど、それなりにって感じね。魁人は友達いた?」
「友達……あんまりいないかもしれないなぁ。話す人は居たけど、友達って言えるほど仲が良かったのかと言われたらそうでも無いような気もするし。でも、友達じゃないって言うとなんか角が立ちそうな気が」
「……魁人って真面目過ぎて面倒なのね。普通に友達が居たって言えば良いのに」
「そうかもな」
「でも、そこが良いところでもあると思う。ずけずけと内側に入らない慎重な部分は結構気に入ってるし」
「おおー、ありがと」
「……なんか、大人の余裕で流されるのもちょっと腹立つ。もっと照れて欲しいの」
「照れる?」
「そう、もっとこう、嬉しくて、照れて表情変わったり、色んな魁人を私は見たいの」
「ふーむ、なるほど」
でも、凄い照れてる俺ってちょっと気持ち悪くないか? 子供に褒められて凄く嬉しそうにする大人って言うのもねぇ?
「……魁人はさ。私のこと嫌いになった?」
「急にどうしたんだ?」
「魁人のおじいちゃん達を避けたから……本当はちょっと心の中で私を嫌いになったかもって」
「そんなわけないさ。千夏が複雑な状況なのは知ってる。それを含めなくても、人それぞれだから、関係ないよ」
「……そっか、ありがと。どうしても不安になっちゃうの。確認をしないと」
「確認か……いや、分かる。俺も家の鍵を閉めたのか、不安になって確認を……あ、ごめん。そう言う空気じゃないよな」
「大丈夫。私を笑わせようとしてくれたんでしょ」
「……見抜かれたか」
「まぁ、魁人の事は知ってるわ……ねぇ、抱っこして」
「抱っこ?」
「ハグでも、良いから。確認したいの」
千夏に安易に触れて良いのか迷ったが、彼女が両手を差し出してきたので背中に手を回して、持ち上げ、抱っこをする。持ち上げても全然重くはなかった。だけど、どこか不安を感じているようで、解消できるのかと思うと心は重くなる。
「安心したわ」
「そうか、なら良かった。なら、もう降ろしても良いか?」
「もうちょっと、このままがいい」
「分かった」
「私、甘えたかったの」
「お姉ちゃんだもんな。中々、甘えられないのか」
「うん。でも、本当は分かってるの。秋と冬がしっかりしてるの……それで秋とか冬がずっと魁人と一緒なのがちょっとだけ、羨ましい。でも、変に維持張って甘えられなかった」
「強くあろうとする千夏はカッコイイと思うよ」
「うん。でも、魁人の前だとそんな必要はないって思うようになったから……私を甘えさせて? 私が一番甘えん坊だから」
「俺でいいなら」
「貴方が良いの」
千夏は暫くそのままだった。甘えん坊なのは知っていたが、他人には一切感情を悟らせない、弱い部分も見せない。そんな彼女が甘えてくることは、俺は信用をされていると実感した。
嬉しさが大きい。だが、この状態を誰かに見られたらあらぬ誤解を生みそうだなとちょっと思った。
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