主人公とモブ
漸く終わりが見えてきました。
笑顔なのに目が笑っていないルーナ嬢が隣に立っていた。
「な・なぜここに?」
「私は主人公よ。魔力だってチート級なのよ。」
そういえば周りの皆が止まっていた。音もなく世界で動いているのはルーナ嬢と私だけのようだ。
「あなたが私の魔法を解いたのでしょう?どうやったの?今まで学園で魔法なんて使ってなかったわよね。
まさか本当に転生者なの?
『私の魅力はどこまでも』のプレイヤーって事はないわよね。
まさか二人目の主人公が私の知らない所で導入されてたりするの?
なんなの一体。計画が台無しなんだけど、どう責任を取らせようかしら。」
ルーナ嬢は私の返事も聞かずに自分の考えに入り込んでいった。
「今から時を戻そうかしら。
それよりもこいつを何か…蛙?ハエ?豚?うーん何がいいかしら。」
どうやら私を何かに変えたいようだ。ここで主人公とバトルを始めるなんて勝てる気がしない。
「あのー、ルーナ様?止めときませんか?お互いに転生者のようですし、同士じゃないですか。あなたは主人公なのですから、私をいたぶるなど、そんな好感度が下がるような事はしない方が良いと思いませんか?何の得にもなりませんし。」
私は時間稼ぎと説得出来たらラッキー程度に考えて思い付いた言葉を並べていた。ふと、ルーナ嬢は何か思い付いたように聞いてきた。
「あなたって『私の魅力はどこまでも』の中に出てなかったと思うのだけど何者なの?
転生者なのよね?日本人なの?もしかして知り合いだったりするのかしら。」
「そんな名前のゲームなのですね。ゲームとか疎くて……
転生者であることは間違いないと思うのですがチート能力とかはないと思いますよ。」
「さっきからどうして敬語なのよ。まぁそんなことはどうでもいいけど、ゲームの題名すら知らないんじゃ役に立たないわね。
『私の魅力はどこまでも』は普通の乙女ゲーよ。一つ特徴としては悪役令嬢が婚約破棄、追放の後に主人公へざまぁを仕掛けてきて、それにも勝たないとハッピーエンドにはたどり着けないという所ね。」
「勇者とか予言の書なんてのは出てくるのですか?」
「そんなの出てくるわけないじゃないの。単なる恋愛シミュレーションゲームなんだし。
あなたが邪魔さえしなければ私は王子とすぐに婚約して、フィーリアとの対決に向けて準備していく予定だったのに……何かルート選択を間違ったかしら。」
「あの、ルーナ様?ちょっと一言言っても宜しいですか?」
「いいわよ。聞いてあげようじゃないの。」
「あなたバカなのですか?
ゲーム感覚で略奪婚してもかなり大変ですよ。ゲームなら結婚して終わりでしょうけど、ここは現実なんですよ。
結婚後は王族としてしきたりやら柵やらどろどろした足の引っ張り合いやらの中で男爵令嬢ごときが何が出来るというのですか。
まさか、私にはチートの魔法能力があるからとか楽観的に考えてませんか?そんな考えじゃ誰かに魔法能力を利用されるだけですよ。魔法も惜しみ無く使っているようですし。」
「あなた、かなり辛辣な事を言うのね。でも何故だかすっきりとした気分だわ。なんで王子と結婚に拘ってたのかしら。主人公だからってゲームにそって生きる必要なんてないのに。
そうだわ。これからは前世の嫌な事は忘れて今の人生を楽しまなくちゃ。」
徐々に顔が明るく輝いてきたルーナ嬢は私の手を握るとにっこりと微笑んできた。
「これから、転生者同士仲良くやりましょう。」
あまりの変わりように苦笑いで答える。
「単なるモブの私が主人公と仲良くなんてしてもよいのでしょうか?」
「いいのよ。これからはゲームなんて無視して進んでいくのよ。」
ルーナ嬢は勢いに押されて少し引きぎみな私を余所に目を輝かせて明るい未来を見ている。
「そうと決まれば、時を進めていくわよ。あんな傲慢で浮気性の王子なんてこっちから願い下げよ。もっといい男が沢山居るはずなんだから。」
ルーナ嬢が手を振ると止まっていた時が動きだし、周りが騒がしさを取り戻した。
「これからが本当の始まりなのね。楽しみになってきたわ。」
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