ルーナ嬢の魅了?
「少し待たれよ。勇者よ、諸悪の根元がまだ残っておるぞ。」
彼女の事は忘れたかったのだか、そうも言っていられなかった。なぜなら彼女、ルーナ嬢はドレスは濡れたまま慌てて会場に戻ってきたのからだ。
「やはりそうなるよね。主人公は好感度が見えたりするよね。」
「勇者どの、何の話をしておられる?」
「こちらのことなのであまりお気になさらず。しかし、濡れたままくるなんてよっぽどの事が起きたのでしょうね。」
ルーナ嬢は怒りに震えながら私に詰め寄った。
「あんた、何してくれてんのよ!せっかく良いところまで上げてきた好感度が一気に0になってんのだけど?
さっきから勇者だのなんだのと、私は悪役じゃなくて、主役なのよ!!何とか言ったらどうなの?」
「勇者のくだりとか聞いてたんですか?なら話は早い。私は思ったことを言ったまでですよ。」
「私がかけた魅了の魔法を解除できるなんて…まさかあんたも転生者なわけないわよね。主人公は二人はいらないのよ。モブはとっとと引っ込んでなさいよ。」
ルーナ嬢は私を突き飛ばすと、すぐにエンドリュース殿下に駆け寄った。そのまま上目遣いで目をうるうるさせてエンドリュース殿下を見上げながらさりげなく手を取っていた。
「エンド様~。どうなさったのですか?いつも私を愛しているとおっしゃって下さったじゃないですか?あの言葉は嘘だったのですか?」
「ルーナ…私はどうかしていたのかもしれない。君の事はさほど好きではなくなったのだ。」
「またまたぁ。何の冗談ですか?エンド様、まさか私が昨日ラフィー様とお買い物に行ったのを妬いてるんですか?」
「いや、昨日君が何処に誰と行こうが全然何とも思わない。」
「ひ、ひどい。どうしてそのようなことを言われるのですか?私はこんなにも殿下をお慕いしているというのに。」
周りの白けた目を完全に無視してルーナ嬢は殿下の手を撫でている。なんだか無理やり撫で回しているような気がする。殿下は嫌そうに眺めているがルーナ嬢は止めようとしなかった。
「あの、手を撫でる事で魅了の魔法が発動するのですか?」
私が周りの皆の声を代弁して聞いてみた。
「なんであんたが知ってるのよ。やっぱりあなたは転生者なんでしょ。まさか二人目の主人公とかじゃないでしょうね。」
「ルーナ、転生者とはなんだ?」
殿下がルーナ嬢の手を振り払いつつ聞いた。転生者だとばれたら何かあるのかしら?私がのんびりと考えていると、ルーナ嬢が慌てたように誤魔化し始めた。
「て・転生者?何の事だか、わ・私には何の事だかわからないですわ。おーほほほほ。」
全く誤魔化しきれていないルーナ嬢は目を泳がせつつも、もう一度殿下の手を取ろうとしていた。
「勇者のお陰でエンドリュースに掛かっていた不埒な魅了の魔法とやらは消えたようだな。ルーナ・シャンル、この期に及んでまだ王子をたぶらかそう等とは考えてはおらんだろうな。」
国王から睨まれたルーナ嬢は顔を強ばらせてエンドリュース殿下から少し離れた。
「ルーナ・シャンルには王子を先導し国家転覆を図った疑いがある。黒幕が他にいるやもしれん。捕らえてじっくりと取り調べよ。」
私は要らなかったのでは?と思いながら徐々に国王から離れてた私は周りの野次馬に紛れるように会場の入り口へと向かっていた。お料理には後ろ髪引かれる思いだったが、これ以上面倒ごとに巻き込まれるのだけは勘弁してほしかった。
これは、ざまぁするのは主人公の方なのかもしれないが全くもって興味がない。というか私は平凡でいいから穏やかな人生を過ごしたいのだ。これ以上国家の転覆だの勇者の予言だのに巻き込まれたくない。
出入口にたどり着いて、後は退散するだけだと息をついた時だった。
「あなた、どこに行く気なの?私をこんな目に合わせた癖に逃げるつもり?」
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