勇者とは?
「ミッシャー・ジョンナーダ、そなたに願う。悲劇を阻止してくれ。」
「は?」
「この国には王族に伝わる予言の書があってな。それの中に『王歴265年3月10日に王国は滅びへの一歩を踏み出す。王子の婚約破棄から起こるこの悲劇を阻止する事が出来るのは緑を纏いし勇者、ミッシャー・ジョンナーダだけである。』という記述があるのだ。」
「はあ?」
私はなんだかよく解らない返事しか出てこない位、訳が解っていなかった。預言の書だなんてとても嘘臭い。
「私ごときが何とか出来るような事では無いのではないかと思うのですが。」
「いや、緑を纏いし勇者、ミッシャー・ジョンナーダはそちの事で間違いない。そちにしか出来ぬ事だ。出来ないではなくやるのだ。これは王命である。」
陛下は伝家の宝刀の王命とやらまで出してきやがった。確かに私の今日のドレスの色は緑だし、名前も合っているが、内心こんな面倒くさい事関わりたくないし、どうにか逃れられないか必死で考える。しかしどう考えても王命に逆らえば、家の爵位取り消しや投獄・国外追放まで見えてきてしまう…
これって私がざまぁする系なのかしら?そこまでの能力が私にあるとは思えないのだけれども、後からついてきたりするのかしら。
婚約破棄の仲裁などやりたくなくて他の事を考えはじめた時だった。
「父上、私の事をお忘れですか?私はフィーリアと婚約破棄し、新たにルーナと結婚したいのです。ルーナを愛しているのです。」
空気読まない王子が婚約破棄の続きを始めていた。
「なぜ殿下はそこまで婚約破棄をしたがるのでしょうか?
そのままフィーリア様と結婚されてから愛妾だろうが愛人だろうが囲み放題ではないですか。ルーナ様が正妃である必要があるのですか?
私は王族の一員となる能力が、幼少より王妃教育を受けてきたフィーリア様に比べて、ルーナ様には圧倒的に足りないと思うのですが。今から教育されるのだとかなり大変ですよ。」
一つ疑問点を言い出したら止まらなくなってしまった。最後にはオブラートに包んだとはいえ、ルーナ嬢の批判まで入れてしまった。言い過ぎたかと少し反省しながらエンドリュース殿下の顔色を伺うと、怒りで真っ赤になるどころか、とても驚いた顔をしていた。
私は後退って殿下から距離を取った。不敬だとか言われて何かされるのだろうか、いきなり切られたりして…そんなの死んでも死にきれない。
「すまない。今まで俺は何をしていたのか、何故ここまで婚約破棄に拘り、ルーナとの結婚に執着していたのかわからなくて。目が覚めたというか、今までの自分が自分でなかったような…言っている事が解らないだろうがスッキリした感じなのだ。」
「はぁ。それは何より、よろしゅうございました。それでは陛下、私はこれでお役ごめんということで宜しいでしょうか?」
思ったことを言っただけでなんとかなったらしい。良かった、良かった。これで心置きなく料理を堪能できそうだ。
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