茶番後に呼ばれました。
なかなか話が進みません。
「あなたが選ばれし勇者ということかしら。」
挨拶の列を外れてすぐ声をかけられてそちらを向くとフィーリア嬢が立っていた。今日も青いシンプルながらも仕立ての良いドレスに身を包んでいる。私は一瞬見とれてしまって返事が遅れてしまった。
「ルードベルヌ様、勇者とは何なのですか?」
「あら、今日までは貴女と私は同級生なのだから様なんて付けなくても宜しいのですよ。」
フィーリア嬢は蕾が綻ぶような笑顔を私に向けていた。やはりこの人は悪役令嬢が似合わない。
「後で国王陛下からお話があると思いますので、私からは何も言いませんわ。先入観なしにお話を聞いた方が良いと思いますの。この国の王族しか知らない事ですからびっくりされると思いますわ。」
フィーリア嬢は意味ありげに微笑むと私の横を通り抜けてエンドリュース殿下の元へと優雅に移動していった。
これから婚約破棄のくだりが始まりそうなのに、フィーリア嬢には私ごとき気にせずこれからの事を考えてもらいたいものだ。
陛下の元に行くまでまだ20分位はあるのだから今のうちにお腹いっぱい食べておかなくては。流石、貴族学校の卒業パーティーだ、料理も一流で味も格別だ。こんないい食事今後出来るかどうか。
そんなことを思いながら肉にかぶりついていた時だった。いきなり硝子の割れる大きな音と悲鳴が聞こえてきた。
「何するのよ。私がちょっとエンド様に気に入られてるからって、こんな卑怯なことするなんて。あなたなんかエンド様の婚約者には相応しくないわ。」
ドレスに飲み物を被って、さも被害者のような事を大声で怒鳴っているのは主人公のルーナ嬢だ。私は、とうとう始まったかと野次馬根性丸出しで見に行くことにした。
「何をおっしゃっているのか解りませんわ。」
フィーリア嬢は動揺もせず静かにルーナ嬢の前に立ってる。その隣にはエンドリュース殿下が驚いたようにフィーリア嬢を見つめていた。
「フィーリア、君がそんなことをするような女性だとは思ってもみなかったぞ。ルーナ大丈夫か?すぐに着替えを用意させよう。」
エンドリュース殿下はフィーリア嬢の話など聞かず、ルーナ嬢の話のみを盲目的に信じているようだ。あまりにも不自然で私は呆れてしまった。もっといいシナリオは無かったのか。ゲームとは言え脚本家の怠慢じゃないか。何だかモヤモヤしていると急にエンドリュース殿下が大きな声を上げた。
「フィーリア、お前には失望した。今この場でお前との婚約を…」
「待ちなさい。もう始まってしまったのか。」
「父上……どうして、この場に?まだ挨拶が終わっていないのでは?」
「切り上げてきたに決まっておろう。お前は何をするつもりなのだ?まさか婚約破棄なんぞ考えておるのではなかろうな。」
呆れたような声で先に陛下が婚約破棄を口にした。なんだこれは……シナリオに少しひねりが加わってるのかな。ちょっとだけ面白そう。私は陛下と殿下とフィーリア嬢の周りを囲っている生徒の後ろに、こそこそ隠れて、次の展開をわくわくして待っていた。
「何故そのような事になったのか……お前達は仲の良い婚約者同士ではないか。
フィーリア嬢、すまないな。もう少し早く対応すれば良かったのだが。なかなか難しいの。」
「いえ、陛下。そのような謝罪の御言葉をいただけるなんて、私はそれだけで満足でございます。」
「とりあえず勇者にお願いしてみることにしよう。ミッシャー・ジョンナーダ、どこにいる?」
陛下は突然私の名を大声で呼んだ。周りの生徒達は何が起こっているのか解らないまま私の方を見た。周りの視線に耐えられず、私は陛下達に背を向け、その場を立ち去ろうとした。
「そんなところに立ってないで、こちらに来なさい。」
有無を言わさない強い口調に少し反発を覚えながらも、覚悟を決めて口を開いた。
「陛下、生意気な事をいってしまいますが、お許し下さい。私ごときがそちらに行ってもなんら変わることは無いと思われますが、何のご用でしょうか?」
「良いから早く参れ。」
陛下は一瞬苛立ちを顕にしたが、そこは一国の主だけあって直ぐに穏和な表情で、再度私を呼んだ。これはもう話の中心に行くしかない、そう思った私は豪華主要メンバーが集まっている輪の中心に入っていった。
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