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last mission 3 最終決戦に挑め!

「!ユーリには手を出さないでっ!!」

「アリアッ!」

 思わず駆け寄りかけたアリアを、ユーリの鋭い視線が制す。

「ダメよ、ダメ……」

 震える唇で、懸命にユーリへと訴えかける。

 せめて、ユーリだけは。

 例えアリアたちが命を落としたとしても、ユーリならばヘイスティングズをどうにかすることができるかもしれない。

 ユーリの持つ奇跡の魔法(ちから)

 この中でヘイスティングズを滅ぼすことのできる…、生き残る可能性があるとすればユーリだけだ。

 と、そんなアリアにヘイスティングズは「ふーん?」と意味深な笑みを称え、

「キミの男はそっちかと思ってたんだけど、こっちだった?」

 シオンと、ユーリを、酷く愉しげに視線だけで指し示し、くすくすと冷たく笑う。

「……そういう、わけじゃ……」

「どっちがいい?」

 妙に優しげにかけられた疑問符。

「え?」

「どっちから、殺してほしい?」

「……っ!」

 キミに、選ばせてあげるよ。と細められた瞳に、アリアは唇を噛み締める。

 その言葉を考えるに、ヘイスティングズはアリアを殺すつもりはないらしい。

 殺す、つもりは、ない。

 それが、なにを意味するかと言えば。

「……私が貴方に従えば、みんなを見逃してくれる?」

「アリアッ!」

 とんでもない結論に至ったアリアに、シオンの批難の声が上がる。

 けれど、

「まさか」

 ヘイスティングズはにっこりと明るく笑い、口を開く。

「死んだ方がマシだと思えるくらいの地獄を見せてやる、って約束(・・)したからね」

 生かさず、殺さず、少しずつ少しずつ死へと誘って。

 指一本、腕一本と捥いでいく姿はどれほどの愉悦だろうとヘイスティングズは光悦した表情を浮かばせる。

「あぁ、でも」

 いいことを思い付いた、という風に目を輝かせ、ヘイスティングズは提案する。

「殺すのを少ぉし先延ばしするくらいならしてあげてもいいよ?」

 最終的に殺してその身を喰らうことは変わりないけれど、と、笑いながら、なにか楽しい想像をしているらしいヘイスティングズは酷くご機嫌だ。

「キミがぼくのご機嫌をとってくれるなら、その間くらいはそこに放置したままにしてあげる」

 地に伏している面々は、身動きは取れないながらもまだ死に瀕している状態までには至っていない。それでももはや攻撃に転じることも、自ら回復魔法をかけることも叶わない状態であることも確かで、アリアは痛々しげな瞳を周りに向ける。

 見送りだけの予定だった為、魔法薬(ポーション)を持っていたのはリオとルーカスのみ。そして少なくとも、ルーカスが所持していた魔法薬(ポーション)の小瓶は割れてしまっている。

「ねぇ、服、脱いでくれる?」

 アリアを上から下まで観察して、ヘイスティングズはとても気分がよさそうだった。

飼い猫(ペット)にそんなもの必要ないだろう?」

 確かに"ゲーム"の中で、バイロンとヘイスティングズの手に堕ちた"主人公(ユーリ)"の扱いはそんな感じだった。

 "死んだ方がマシだと思えるくらい"を実現すべく楽しい計画を立てているらしいヘイスティングズは、先の言葉通りアリアがその命令に従えば、しばらく全員の命を奪うつもりはなさそうだ。

 アリアがなにをされようと、抵抗も止めることもできずにただ見ているだけしかない絶望にうちひしがれている様子を見るのが楽しみで楽しみで仕方がないのだろう。

「キミに似合いそうな首輪くらいはつけてあげるから」

 その言葉に、無意識に服の下に隠されたペンダントの魔石を握り締める。

 このままでは全員、本当に殺されてしまう。

(せめて、ユーリだけでも……っ!)

 ユーリだけでもなんとかここから逃すことはできないだろうかと考えて。

「バカなことを考えるなと何度言ったらわかるんだ」

 タン……ッ!とシオンが地を蹴って、ヘイスティングズへと向かっていく。

「シオン……ッ!」

 まだ無事だったシオンに、なんとかしてユーリだけでも連れ出して貰えないかと考えていたアリアは、シオンのその行動に目を見張る。

 申し訳ないけれど、この状況でシオンがヘイスティングズに勝てるわけがない。

 シオンの構成させた竜巻のような鋭い旋風は、ヘイスティングズの一振りですぐに霧散させられて、隙を見て放った光の刃は、ヘイスティングズの片手に叩き落とされる。

「自ら死に急ぐとはね」

 不快そうにヘイスティングズの表情が歪められ、振り上げられた掌から無数の闇の刃がシオンを襲う。

「シオン……ッッ!!」

 アリアとユーリの中間点辺りへと投げ出され、深い裂傷にまみれたシオンに、アリアは慌てて回復魔法を発動させる。

「……魔力の無駄遣いをするな」

「なに言っ……」

 切れ切れの息でアリアの行為を制するシオンに、アリアは今にも泣き出しそうな瞳を向ける。

「……アイツはお前を殺さない。お前だけでも逃げろ」

 もう一度、なんとかその隙だけは作ってみせると告げるシオンに、アリアは大きく首を振る。

「そんなこと……っ!」

 倒れたシオンの元へと駆け寄ったアリアなど気にすることなく、ヘイスティングズは余裕の足取りで今度はユーリの方へと向き直っていた。

「ユーリッ!!」

 逃げて!というアリアの叫びは叶わない。

 眼光だけは鋭く、ヘイスティングズを睨み付けるユーリへと、仄暗い閃光が向けられる。

「ユーリッッ!」

 シオンへの回復魔法から防御魔法へと切り替えながら、アリアはユーリの前へと走り出す。

 そしてシオンもまた、残されたなけなしの魔力で風を纏わせ、ヘイスティングズの攻撃とユーリの間へと割って入っていた。

「――――っ!!」

 アリアの作った未完成な防御魔法はすぐに消滅し、直接受けた闇魔法の衝撃に身体が大きくのけ反った。

 隣では、アリアと共に自らの背を盾にしたシオンの姿もあって、アリアは気を失いそうな痛みと戦いながら、ユーリの無事を確認する。

「……ユーリ……、無事……?」

 完全に意識を失くしたシオンの体温を感じながら、アリアは傷一つないユーリを見上げてほっと安堵の吐息を洩らす。

「……よかっ、た……」

 お願い、逃げて……、と祈るように囁いて、もう動けないことを実感する。

「アリアッ!シオンッ!!」

 なんでオレを庇ってんだよ!?と、二人揃って身を呈して自分を助けたアリアとシオンの姿に、ユーリの絶望にも似た叫びが響く。

「アリアッッ!!シオン……ッッ!!」

 蒼白になった二人からは、ほとんど息を感じ取れない。

「あーぁ。そっちの子は飼い猫(ペット)にしたかったのに、キミ一人になっちゃった?」

 残念だなぁ、と口の中の糸を引かせながら笑うヘイスティングズに、頭の中が真っ白になる。


 ダメだ。

 死なないで。

 そんなこと、許さない。


 ダメダメダメダメ。

 ユルサナイユルサナイユルサナイ。


 なにも、考えられなくなる。


「アリア……ッ!!!」

 わけがわからなくなって、身体の中へ燃えるような熱が籠る。

 ユーリの全身から光を通り越して真っ白になった輝きが迸る。

 光魔法が、ユーリの意思を形にしながらも暴走する。

 直後。

「……ユー、リ?」

 倒れた全員の体へと降り注いだ光が、その全員を通常の状態へと戻し、うっすらと目を開けたアリアが、不思議そうにユーリの名を呼んだ。

「アリア……」

 思わず泣きそうになりながら、けれど感動に浸っている時間はない。

「五人とも、ヘイスティングズを囲うように立って!」

 強烈な光を浴びて怯んだヘイスティングズの隙を突き、ルーカスの指示が飛ぶ。

 それがなにを意味しているのかわからないまま、それでも瞬時にアリア、シオン、セオドア、ルーク、ルイスの五大要素を汲む五人が、ヘイスティングズを囲むように輪を作った。

 それは、王宮を囲む五大公爵家の並びそのままに五芒星の形をとって。

 "ゲーム"では欠けていた、水の魔力(ちから)を汲む存在。

 それを、アリアがこの場にいることで補完していることに、アリアは気づいているだろうか。

「いくよっ」

 ルーカスの導きで、五人の間で五芒星が輝いた。

 そこに、ユーリがさらなる光魔法を注ぎ込み。

「王子っ!剣を!!」

 魔法陣の中央で、あまりの光の眩しさに苦しむヘイスティングズへと、止めの一撃を与えるべくルーカスからリオへの指示が飛ぶ。

「こんな……っ、こと、で……っ!」

 業火の中へと放り込まれたような苦悩に苛まれながら、ヘイスティングズがその場から抜け出そうと奥歯を噛み締めながら牙を剥く。

「……終わりにしよう」

 神剣を両手で携え、リオが苦しむヘイスティングズを見据える。

 剣の切っ先が光輝き、空を舞う。


 ザン……ッ!!


 と振り下ろされた刃に。


 ぐぁぁぁおぉぉ……!


 と、声にならない断末魔を上げ、真っ二つに切り裂かれたヘイスティングズが、少しずつ灰のようになり……。


 ――消滅した。


「……終わった、の……?」

 信じられないものを見るかのように、しばらく呆然と消えたヘイスティングズの影を見つめ、アリアは震える唇で呟いた。

 もう、ダメだと思っていた。このまま"バッドエンド"と同じ結末を迎えてしまうのだと。

 そこでハッとこの奇跡を起こした人物のことを思い出し、アリアはそちらの方へと振り返る。

「ユーリッ!」

 駆け寄って。その勢いのまま飛び付いた。

「ちょっ、アリア……ッ」

 突然の衝撃に後方に倒れそうになったユーリの体を、後からやってきたシオンが支える。

 ユーリへと抱きついたアリアへと、仕方ないなという様子で肩を落とし、シオンはそれを咎めることもない。

 そんな二人のいつもと変わらない姿に一瞬(ほだ)されかけ。けれどユーリは先ほどのことを思い出して精一杯眉を引き上げていた。

「言っとくけど、オレはお前らに怒ってるからなっ!?」

 二人して、身を呈して自分を庇うなんて。

 どれだけ自分のことを想ってくれているのかと思うと、恥ずかしくて嬉しいのと同じくらい腹立たしくて堪らない。

「ユーリ……」

 今にも泣きそうな顔で困ったように微笑(わら)う、そんな可愛い顔も許せない。

「あんな真似、二度とすんな」

 アリアとシオンの二人をみつめ、ユーリは本気で憤る。

「次は許さない」

 自分を残して、二人で心中するなんて。

「ユーリ……」

 大きく見張られたその瞳は、宝石のようだと思う。


「ありがとう」

 そう微笑(わら)ったアリアの顔は、やっぱりとても綺麗だった。

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