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mission8-1 奪還せよ!

 敵の本拠地へと連れ去られたユーリは。

 そこで、ヘイスティングズとバイロンから、嗜虐の限りを尽くされる。

 魔力が強いユーリは、復活してまだ間もないヘイスティングズにとってはこれ以上ない御馳走で。闇と相対する美しい光の者をいたぶることは、歪んだ愉悦をもたらした。

 昼夜問わず、代わる代わる、時には二人に慰み者にされ、少しずつ精神までもが侵される。

 そんな、拷問よりも酷い仕打ちがどれくらい続いただろうか。

 ユーリの救出に来た対象者(・・・)の手によって、ユーリはそこから連れ出されるのだが。

 精神的に手酷く追い込まれたユーリがすぐに立ち直れるはずもなく、対象者(・・・)から献身的な愛情を注がれて、互いの愛を深めながら、最後の決戦という名のエンディングへと向かっていく。


 ――というのが大まかな"ゲーム"の流れ。


 けれども、現実は、と言えば。





 *****





「……どこだ、ここ……?」

 冷たい石の感触に目を覚ましたユーリは、辺りを見回すとその可愛い顔を不快そうに曇らせて眉を寄せた。

 固い石の床に寝転がされていたためか、身体がギシギシするような気がしたが、感覚的にはそれほど長い時間のようにも思えない。

 雰囲気だけなら石でできた牢獄のような場所ではあるが、檻に閉じ込められているわけでもない。

 ただ、片方の手首へとしっかりとかけられた手錠が柱へと繋がれており、ユーリの機嫌を益々悪くさせていた。

「……悪趣味」

 試しに軽く手を払う仕草をすれば、ジャラリという金属音が小さく響き、ユーリは大きく肩を落とす。

「……みんな、無事かな……?」

 静かに耳を澄ませてみても、不思議と近くに誰かがいる気配はない。

 自分が気を失ってからアリアたちがどうなったのかは気になるが、とりあえず現状としては自分は敵の手に墜ちてしまったらしい、ということだけはわかって、ユーリは溜め息を漏らしていた。

「……アリア、泣いてないといいけど」

 あの心優しい少女は、また自分のせいでと自身を責めているのではないかと思うと、そのことだけは胸が痛む。

 自分が取った行動に関しては、欠片も後悔してはいない。

 そして、不思議となんの恐怖も感じていなかった。

「……さて、と……」

 切れるかな?と柱へと繋がれた鎖を眺め、ユーリはコトリと小首を傾ける。

 バイロンはどこへ行ったのか、とか。もしユーリに魔法が使えたならば、こんな拘束具などすぐに壊せるだろうに、なぜ自分を拘束するものがこんな頼りない手錠一つなのか、だとか。

 いろいろと疑問に思うこともあるが、一つだけ確かに言えることは、今のこのチャンスを逃してはならない、ということだ。

「……こんなところで役立つとはね」

 なんだかなぁ、と、これすらあの少女のおかげかと思えば苦笑を洩らしつつ、ユーリは後生大事に懐にしまっていた小振りのナイフを取り出すと、それを大きく振り上げる。

 ザシュ……ッ!とナイフの切っ先が床に埋もれる音がして、細い鎖部分は見事に二つに分断されていた。

 魔力が込められていると聞いたソレは、ずっと前、ユーリの幼馴染みの事件の際に、アリアがユーリに預けた物。そのまま返す機会を失い、ずっとユーリの懐に仕舞われていたものだ。

「さて、行きますか」

 パンパンと手を叩き、ユーリは左右に広がる廊下のどちらに行こうかきょろきょろと首を振る。

 ユーリは決して方向音痴などではない。

 けれど、右も左もわからない始めての場所ともなると、もはや頼れるものは己の勘だけだ。

 基本的に、ユーリは本能で突き進むタイプだ。そしてその結果、例えそれが遠回りだったとしても、最後には持ち前の嗅覚でなぜかゴールに辿り着く。

「とりあえず、右、行ってみる?」

 誰に言うでもなく呟いて、ユーリはそっとその場を後にした。



(……これは、大外れというか、大当たりと言うべきか)

 とりあえずすぐに引き返すことだけは決定で、歩き始めてすぐに突き当たった石畳の部屋の入り口で、ユーリは息を潜めていた。

 ユーリを置いて行くくらいなのだから、そう遠い場所にいるはずもなく、うっかり中を覗き込んでしまったユーリの瞳に飛び込んできたのは、バイロンの失ったはずの腕の切断面へと舌を這わせる、幼さを残す少年の姿だった。

「目覚めたばかりの主人の手を煩わせるなんて、随分と出来の悪い部下だと思わない?」

「申し訳ありません……」

 漏れ聞こえる会話から、その少年がバイロンの主であることが推測され、ユーリは小さく息を呑む。

 魔族の見た目は年齢とは比例しないが、垣間見ただけならば、あんなに幼い少年が、とも思ってしまう。とはいえ、その少年から醸し出される雰囲気だけは、遠目からでも残忍さと禍々しさを感じ取れるほど仄暗いものだったけれど。

「まぁ、美味しそうな玩具を持ち帰ったことだけは褒めてあげるけど」

(……げっ)

 愉しそうな声色で笑って話す"玩具"とは、ユーリのことに違いない。

 とにかく一刻も早くこの場から離れようと、ユーリはさっさと踵を返す。

 去り際に一瞬だけ中へと視線を投げかければ、今にも口づけを交わさんばかりな二人の姿が見て取れたが、それを気にしている場合ではない。

(……魔力の交流?ができるんだっけ?)

 足音を立てないように、限りなく気配を殺しながら、ゆっくりとその場を後にする。

 魔族にとって、人間(ひと)を喰らうことは食事の一部でもあると聞いた。

 また、以前アリアが大きな怪我を負わされたように、魔力が高い者の血液などはかなりの御馳走らしい。

 相手の魔力を取り込み、自分の力とする。それを思えば、バイロンが切り取られた腕の修復と同時に主から魔力(ちから)を分け与えて貰っているのだろうと推測できたが、いろいろと思考を巡らせるとついつい身震いしてしまう。

("喰われる"とか、冗談じゃない……っ!)

 傷の修復とある程度の魔力回復ができた暁には、確実に自分の身には最低最悪の災難が振りかかるであろうことがわかって、自然ユーリの足取りは早くなる。

 生かさず殺さず、魔力補給の糧にされ、嬲り者にされては堪らない。

(とにかく、逃げるが勝ち……っ!)

 脱出できれば万々歳。できなくともとにかく何処かに隠れる場所を探そうと、ユーリは走り出していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユーリが大変❢❢
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