小話 ~水も滴る…?~
全員一緒に一度で転移するにはまだ力が及ばないと申し訳なさそうに謝ったリオは、先行で側近のルイスとセオドア、ユーリを王宮まで転移させ、追ってすぐにアリアとシオン、ルークを同じ場所へ飛ばしていた。
その間はそれほどの時間差があるわけではないが、女性を優先させるリオにしては珍しいその人選は、各々の複雑な人間関係をきちんと鑑みてのことだと思えば、気の利き方はさすがだという感想しか湧かなかった。
「転移魔法、すげーっスね!」
初めての経験にルークが感動の声を上げる。
先ほどまで"蒼の洞窟"にいたというのに、リオの描いた魔方陣が足元へと現れたと思えば王宮の一室まで移動するのは一瞬で。その一瞬前までいた輝きとはまた違う現実的な明るさの元へと突然引き戻されたアリアは、思わず眩し気に目を凝らして室内へと顔を向ける。
そこにはすでに侍女たちが控えており、その侍女へと指示を出しているらしきルイスと……。
「アッ、アリア……ッ!」
現れたアリアを見つめ、なぜか真っ赤になったユーリがいた。
「……ユーリ?」
どうしたの?と小首を傾げながらよくよく見れば、ユーリの横に立つセオドアまで仄かに赤らめた顔をして硬直している。
「いやっ、あの、その……っ!」
どう指摘したものかと激しい動揺に目をあちらこちらへと浮かばせながら、結果的には見てはいけないと判断したのか、真っ赤な顔のまま固く目を閉じたユーリの行動に、アリアはふと自分の姿を見下ろした。
「……ぁ……っ」
途端、羞恥で熱が顔に籠るのを自覚する。
先ほどまでは困らない程度の光があると言ってもそれなりに暗かった為によくわからなかったが、水に濡れた身体はその曲線ラインをはっきりと際立たせ、薄い生地が肌に張り付いて透けて見える。
(ユーリに気を取られてる場合じゃない……!)
シオンとの過去を思い出したのであろうユーリのことは気になるが、さすがに今はそれどころではない。
身体から滴り落ちる水滴と、肌の色まで晒す薄い布地。
あまりの羞恥に自分自身を抱き締めてその場に座り込みたくなったアリアへと、パサ……ッ、と肩からなにかがかけられる気配がした。
「風邪ひくなよ」
「……シオン」
まるで子供扱いだと思うが、どうやら近くにいた侍女から拝借したらしい大判のタオルの端を握り締めながら、アリアは素っ気ない態度で離れていくシオンを見遣る。
「アリア。先に行っておいで」
それから、侍女へとアリアを湯浴みへ案内するよう伝えるリオの微笑みに、
「……はい」
さすがのアリアも素直に頷いていた。