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mission5-3 迷宮を攻略せよ!

 幻想的で不思議な経験をし、夢から醒めたような思いで一番最初の別れ道へと戻ると、すでにそこには「行き止まり(ハズレ)だった」と肩を竦めるセオドアたちがいた。

 つまり残された「神剣」への道は、未だ戻る様子のないリオとルイスが向かった先にあるということで、アリアたちは小走りになりながら全員で急ぎ2人の後を追っていた。

「マジでなんなんスか、この迷宮……っ!」

 命を脅かすような罠などはないが、とにかく来た道がわからなくなるほど入り組んだ構造と、失われた古代文字と謎の暗号。

 思わず訳がわからないと泣き言を言いたくなってしまうルークの気持ちも最もで、アリアは困ったような微笑みを返す他ない。

「ていうか、これってそもそもオレが入ってもいい場所なわけ?」

 先へと急ぎながら、ユーリはユーリで今さらながらそんな疑問に首を捻る。

 ここは、王家管轄の、国の中でも限られた極一部の人間しか知らない秘められた古代遺跡だ。

 リオが人選したのだからなんの問題もないとは思いつつ、五大公爵家の血が流れる他の面子とは違い、この中で唯一"一般人"の自分が国の重大秘密に関わってしまってもいいのかと思うのは当然のことだろう。

「それだけお前がリオ様に信頼されてる、ってことだろ」

 チラリとユーリへ視線を投げつつ、セオドアが兄貴分な口調で優しい笑みを向ける。

 現国王がこの地下迷宮へ挑んだ時、単身で乗り込んだのかどうかはわからないが、その国王の許可を得ての人海戦術だというのだからこれはこれで構わないのだろう。

「だとしたらちょっと嬉しいけどな」

 言葉通り嬉しそうに、少し照れたように笑うユーリの横顔が可愛くて、アリアもつられるように口許が緩んでしまう。

「追い付いた……、か?」

 急に拓けた道の先。ひんやりとした空気が足下から流れてきて、シオンの言葉に全員一度足を止める。

 さらにその先。人一人がなんとか通れるほどに狭くなった道の奥。緩やかな坂を一人ずつゆっくりと下っていくと、その先には巨大な空間が広がっていた。

「綺麗……」

 "ゲーム"で見た光景と同じだが、実際にその目で見れば臨場感など、なにもかもが違う。

 思わず感動の声を洩らし、アリアは一面に広がる蒼い光を見回した。

 言うならば、"蒼の洞窟"をそのまま大きく広げたような空間。

 ひんやりとした空気はここから来ているのだということがわかる、足元へと揺蕩う蒼い水。

 遠くまで満たされたその水の中央には、大きな石が虚空にぽかりと浮いていた。

 そして、その巨大な石に刺さって。

 "スポットライト"に照らし出されているかのように、白銀に輝く「剣」の「柄」が姿を現していた。

「来たか」

 アリアたちから10メートル程先にある大きな岩の上。上空に浮かぶ石を見上げていたルイスが、アリアたちの到着に気づいて静かに振り向く。

「ちょうど呼びに行こうと思っていたんだよ」

 その隣で優雅な微笑みを見せるのは、もちろんリオだ。

「リオ様……」

「あれが……?」

 確認の意で向けられるルークとセオドアの瞳にこくんと確かな頷きを返し、リオは幻想的な輝きをみせる巨大な石の上へと挑むような眼差しを向けていた。

「そう。あれが"神剣"だよ」

 選ばれし者のみが手にされることが許されるという「神の剣」。

「ボクに、その力があればいいんだけど、ね……」

 リオにしては珍しく、ぴりりとした緊張感を纏わせて、ぐっと拳を握り締める。

「貴方を置いて他に、誰があの剣に相応しいというのです」

「リオ様なら大丈夫っスよ……!」

 強く、静かに告げるルイスと、前向きで明るいルークの声。

「自分の力を信じてください」

 未来の皇太子(・・・・・・)間違いなく(・・・・・)その力が備わっていることを知るアリアは、リオを真っ直ぐ見上げると確信に満ちた柔らかな微笑みを浮かべていた。

「……じゃあ、ちょっと行ってくる」

 ふわっ、とリオの体が浮き、優しい風の流れと共にその身が上空を静かに舞う。

 トン……ッ、と優雅な動作で浮いた巨石の上へと降り立って、リオは目の前に埋もれた剣の柄を見つめていた。

「……抜いた途端にこの空洞が崩れる、なんてことはないですよね……?」

 リオは、確かに「神剣」を手に入れる。けれど剣を抜いた直後に起こる事態を思い出したアリアは、他の面子が心構えできるよう、わざと不穏な想像を口にした。

「……そんなことはないと思うが……」

 こういった状況で洞窟が崩れ落ちるのは王道の展開だ。

 眉を潜めて否定したルイスは、今まさに埋もれた剣の柄へと手を伸ばそうとしているリオを見上げて難しい顔をする。

 実際アリアが知る限り、この洞窟が崩れたりはしない。

 崩れはしないが……。

「リオ様……」

 己の敬愛する主へと眩し気な瞳を向けて、ルイスが祈るような声を洩らす。

 白銀の柄へとかかった手。

 リオの全身が光魔法の祈りで輝き、絶対不可侵な神聖な存在を思わせる。

 ズズ……、と反応を見せる剣の揺れ。

 遠くからでもリオのこめかみから一筋の汗が流れ落ちる様子がわかる気がして、アリアは祈るように手を組んだ。

(大丈夫、大丈夫……)

 苦し気な顔をするリオと自分へと言い聞かせるように心の中で呟いて、アリアは少しずつ「神剣」がその姿を現していくのを見守り続ける。

 限りなく重たいものを持ち上げるように、少しずつその全貌を明らかにしていく剣の先。

「……リオ、様……」

 とうとうその切っ先が宙へ浮き、その姿を確かめるようにリオが天空の光へと輝く「神剣」を掲げたその瞬間。

 ソレ(・・)は起こった。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!と地響きが鳴り出し、地震のような揺れが足元を襲う。

「……っ!」

 立っていられないほどの揺れにそれぞれが不安を隠せない表情で警戒を強める中、ふとすぐ傍に気配を感じて、アリアは慣れた匂いに顔を上げる。

「シオン……ッ」

「気をつけろ」

 リオの命令通り手の届く範囲内(・・・・・・・)にいたシオンは、アリアの頭を庇うように己の胸元へと引き寄せる。

「シオ……」

 大丈夫だからと言いかけた言葉は、シオンの意外に逞しい胸の中へと消えていく。

 強くなった若草のようなシオンの香りに、反射的に顔へと熱が籠る。

 洞窟は、決して崩壊したりはしない。


 その代わり。


 急激に足元から増していく水嵩(みずかさ)に、激しい振動の中でそこから逃れる術はない。

 シオン一人であればリオのように空へと逃れることもできたかもしれないが、アリアも一緒にとなるととても無理だろう。

 立っているだけで精一杯な揺れの中、それでもなんとか沸き上がる水を掻き分けながら、ルイスのいる高い岩石へと辿り着く頃には、ルイスとリオ以外のメンバーは全身をしとどに濡らす結果になるのだった。

「……オレたちが来た道、塞がっちゃったけど……」

 揺れが収まり、全員がほっと安堵の吐息を洩らした頃。

 ユーリは水下へと消えた入り口の方を茫然と見遣って口を開く。

「……泳いで帰る……?」

 下り坂を降りてきた為、恐らく迷宮内まで水が入り込んでいることはないと思うが、戻る為にはそれなりの距離を泳がなければならないだろう。

「大丈夫だよ」

 ルイス以外の全員が溢れた水を見下ろす中、柔らかな声が傍で響いて、濡れた眼鏡をかけ直したセオドアが背後へと振り返っていた。

「リオ様」

 持ち主によって姿形を変えるのだろうか。その華奢な身体にしっくりくる細身の剣を携えて、優しい微笑みを浮かべたリオがアリアたちの前へと降り立った。

「帰りはボクの転移魔法で戻るから」

「転移魔法っスか……!?」

 途端、体験したことのない高等魔法に、ルークがキラキラと期待の眼差しを向ける。

「最近覚えたばかりだから、まだ自由自在にとまでにはいかないけどね」

 しばらく前に習得したばかりで、ルーカスのように自在に操るところまではいかないが、それでも学園内や王宮程度であれぱ可能だと言って、リオはその優しい微笑みを益々深くする。

「今回は、本当にありがとう」

 眩い光を放つ白銀の剣を手に微笑むリオは、本当に別世界の人間のようで、ルークは慌てたように手を横に降る。

「いえっ、自分は……っ」

「結局なにもお役には立てていませんけど」

 セオドアは申し訳なさそうに苦笑して、その横にいるユーリもまたそれに同意する。

「ボクたちがここに辿り着いたのは偶々(たまたま)だから。それだけで充分だよ」

 最初の道を三方に別れて進まなければ、もっと時間がかかっていたかもしれないと言って、リオはその場にいる全員を労う。

 それからほぼ全身を水に濡らしてしまう結果になったことを謝罪して、一人一人の顔を見回した。

「みんな、風邪をひいても困るし、王宮でいいかな」

 着替えを用意させると言って、リオはルイスへと向き直る。

「戻ったら、湯浴みの準備を」

「畏まりました」

 セオドア辺りが気を利かせたのか、いつの間にか暖を取るように燃やされていた炎が洞窟内へと揺らめいていて。

 相変わらずの幻想的な蒼の水面と、頭上から降り注ぐ淡い輝き。

 安全な場所まで来てアリアを離したシオンは、髪の先から滴り落ちる水滴に、不快そうに顔をしかめている。


 ぽとぽとと、黒い髪の先から滴り落ちる水の雫。

 全身が水に濡れ、そこかしこから水滴が滴るシオンの姿はドキリと胸が高鳴るほど綺麗で魅惑的だけれど、それを目にしたユーリにとっては。



 ユーリの瞳がみるみると大きく見開かれていく。

 ユーリの中でなにが起きているのか、アリアはすでに知っている(・・・・・・・・)



 濡れた全身から水を払うような仕草を見せるその姿は。



 ――幼き日に助けた小さな男の子と、姿、重なる瞬間――。

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