光、見えて 1
それから、一週間後。
これだけの人数が集まるにはさすがに狭い、シオンとアリアが暮らす家には、精霊王たちを含む今回の事情を知る者たちが、一人も欠けることなく顔を揃えていた。
「シャノン」
「はい」
話を終え、リオに呼ばれたシャノンが立ち上がる。
「……シャノン」
一斉に集まった視線に、シャノンへ心配そうな声をかけたのはアラスターだ。
「大丈夫だ」
対し、静かに頷いてみせたシャノンの瞳は強く、どこまでも澄んでいた。
アリアを……、大切な友人を救うために、己の持つ特殊能力を最大限に発揮することを決めたシャノンの覚悟は並々ならぬものがあった。
「これは、俺にしかできないことだから」
忌み嫌っていた能力が、この世界で奇跡を起こすための唯一無二の可能性を持つというのなら、そこに至るまでのどんな困難も乗り越えてみせると瞳で語り、シャノンはリオの元まで歩いて行く。
「まずは……」
「頼んだ」
リオの隣に立ったシオンが差し出したものを目に留めて、シャノンは一度瞼を閉ざすと呼吸を整える。
「あぁ」
そうして慎重にそれを受け取ったシャノンは、文字が書かれた最後のページを開くと、そこへ静かに手を置いた。
「ごめんな、アリア。ちょっと、視ませてもらう」
――『……視んでいいわよ?』
いつだかも聞いた気がするアリアの言葉が、どこからともなく聞こえた気がした。
*****
ねぇ、シオン。
もし、貴方がこの日記を見つけたとしても、読めないことはわかっているから、ここに貴方宛てのメッセージを書くことを許してね。
貴方がこれを手にしている時、私はもうこの世界から消えてしまっているでしょう。
勝手なことをごめんなさい。
きっと、怒ってるわよね。
貴方を独り置いていってごめんなさい。
でもやっぱり、貴方にすべてを話すことはできなかった。
貴方のことをすごくすごく苦しめてしまうことはわかっているけれど、でもきっと、ユーリがいるから大丈夫よね。
ユーリ。シオンの傍にいてあげてね。
なんて、ユーリにも怒られちゃうわね。
もし逆の立場なら、きっと私は耐えられないくらい酷いことをしておいて、それでも私は本当に我が儘で身勝手だから、貴方に嘘でも「忘れて」なんて言えないの。
忘れないで。覚えていて。
ずっと愛していて。
こんなに苦しませた女だって、恨んでくれていいから。
それでも、お願い。忘れないで。
一カ月、三ヵ月、半年、一年たって。
それでも貴方はまだ私のことを愛し続けてくれていると思うのは自惚れかしら?
五年、十年。覚えていて。
でも、その頃には。いつか、「思い出」にして欲しい。
「思い出」にできたら。その時は、誰か他の人を見つけて幸せになって欲しい。
私としては、やっぱりユーリがオススメなのだけれど。
酷いことをしてごめんなさい。
大好き。愛してる。
本当は、最期まで貴方と添い遂げたかった。
シャノンの頭の中に、そこまで書いてペンを置くアリアの姿が浮かんだ。
なにか悩むような仕草を見せてもう一度ペンを執り、再びペン先を白い紙に滑らせかけて、やはりペンを横に置く。
そうして机の引き出しにしまわれてしまった日記に、アリアはどんな言葉を綴ろうと思ったのか。
その続きは、誰にもわからない。
本来ならば。
けれど、言葉にも文字にもされない言葉を、シャノンであれば視み取れてしまう。
シャノンは額の中央に意識を集中させ、日記に込められたアリアの本当の心を探り取る。
日記に書かれることなく、そのままアリアの心に秘められた願い。
ねぇ、シオン。
もし。
もし……。
もし、奇跡が起こって、再び貴方に会えたなら。
その時は、いつもみたいに怒って抱き締めて。
痛いくらいに抱き締めてキスをして。
その時は、もう二度と、なにがあっても離れないと誓うから。