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嘘を一つだけ

※後半、R15注意です。

「そんな重要なことを、どうして今まで黙っていた」

 声色は厳しいながらも、アリアの髪を撫でる指先はとても優しいものだった。

「……ごめんなさい……」

 シオンの胸の中に包まれたアリアは、情事後の気怠さに吐息を零しながら顔を上げる。

「別に、秘密にしようと思っていたわけじゃないの」

 ――これは、嘘。

 できることならば、なにも語らずにいたかった。

 けれど、目的を果たすためには全て黙ったままではいられないと思ったから。

「話すにはまだ情報が充分じゃなかったし、私も混乱していたから……」

 これは、嘘ではない。

 話すつもりはなかったけれど、仮にもし話すとしたならば、冷静になった状態でもう一度詳しい話を聞き、自分の中できちんと整理してからでなければできなかった。

「……幻滅した……?」

 シオンから愛されている自信はあるが、さすがに呆れられてしまっただろうかとおずおずと(うかが)えば、シオンからは大きな溜め息が洩らされる。

「……わかった」

 諦めの覗く反応は、アリアがこれまで数々のことをやらかしてきた結果かと思えば、それに関しては本当に申し訳ない気持ちが湧き上がる。

「……リオ様たちに……、話す?」

「話さないわけにはいかないだろう」

 長い髪を優しく撫でながら溜め息を吐き出され、アリアの顔には曇りが帯びる。

「……そう……、よね……」

 俄には信じ難いことではあるけれど、世界が消滅に向かっているなど、知っていて黙っているわけにはいかない。

 だが、仮にある日突然世界が消滅するとして、それを知らされた人々はどうするのだろう。いっそのこと知らないままの方が幸せだったと、そう思う人間は多いのではないだろうか。

「大丈夫だ」

 アリアの髪をさらりと掬い、シオンはそのまま強い瞳を向けてくる。

「国が混乱するようなことを皇太子がするわけがないだろう」

 恐らくは、厳重な箝口令を敷き、ほんの一握りの人間のみに伝えるという決断を下すに違いない。そうアリアの不安を取り除き、シオンは真剣な表情(かお)で口を開く。

「それで?」

「え?」

 きょとん、と瞳を瞬かせるアリアに、シオンは淡々としながらも厳しい声色で確認を取ってくる。

「ヤツを還せばいいのか?」

 リオが、多くの人に語らない、という結論を出すに至る最大の理由。

 それは、消滅を回避するための大きな希望が残されているからだ。

「……うん……。そう言っていたわ」

 正しくはリヒトだけではなく、この世界の異分子(イレギュラー)を飛ばす必要があるのだとは告げられなかった。

 アリアがシオンに語った話は、二つの世界が衝突して消滅することと、それを回避するためにリヒトを“還す”エネルギーが必要になるということだけ。

 リヒトは多くの罪を犯した“犯罪者”だ。罪人として捕えられなくなることは悔しくもあるかもしれないが、この世界から追放することに関しては誰も異議を唱えたりはしないだろう。

「そのために魔王の助けを?」

「……うん……。その辺りは私にもよくわからないのだけれど……」

 どういうことだと眉を顰めるシオンに、アリアも困った顔になる。

 この件に関しては、アリアにもよくわかっていない。

 ――『我が名を呼ぶがいい』

 わかっているのは、あの時聞かされた魔王の名前が(キー)になっているということ。

 あの時……。「連れて行ってやる」と言っていた魔王の言葉を、シオンは覚えているだろうか。

 きっと、本当にそういうことなのだ。

「……わかった」

「シオン」

 深々と肩を落としたシオンの顔を、アリアは切なげな瞳で見上げた。

 なんだ? と、無言で返される瞳の中に、当たり前のように映り込む自分の姿に泣きたくなる。

「……ありがとう」

 シオンは、アリアが願えばなんでも叶えてくれる。

 ――秘密事ばかりのアリアは、その気持ちに応えられないのに。

「……」

 再度落とされる諦めたような溜め息に、逞しい胸へと擦り寄った。

「大好き。愛してる」

 トクトクトク……、と、シオンの心臓が音を刻んでいて。

 触れ合う素肌の感触はとても心地がいい。

「シオンに愛されて……。本当に幸せだわ」

 それだけは、嘘偽り一つないアリアの想い。

 シオンを愛して。シオンに愛されて。自分は世界で一番幸せな人間だと思えた。

 シオンの胸元に顔を寄せながら見上げれば、アリアの身体を包み込む腕にぎゅ、と力がこもった。

 離さない、とでも言うかのように抱き締められる強い抱擁はとても気持ちがよくて。

「……愛してる」

 触れ合った肌から全身に響く甘い低音がアリアを満たしていく。

「うん……」

 どちらからともなく目を閉じて、少しだけ伸び上がったアリアの唇に、シオンの唇が落ちてくる。

「ん……」

 重なる唇の感覚に、多幸感が広がった。

「ん……っ、ん……」

 身体の奥に小さな火が灯ったのは、アリアだけではないだろう。

 段々と深まっていく口づけに、アリアは自らもその先を強請るように口を開いてシオンの舌を受け入れる。

「……ぁ……」

 言葉を交わさずとも、このままもう一度……、という想いが重り、甘く切ない夜は更けていった。

短くて申し訳ありません。

この後23時にR18版を更新予定ですので、大丈夫な方はそちらもお楽しみ下さればと思いますm(_ _)m

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