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見えない答え

 明け方にぼんやりと目を覚ましたアリアは、身体の疲労に反して眠れなくなってしまっていた。

 素肌には、アリアを抱き込んで眠るシオンの腕と逞しい胸元の感触がする。 

 なによりも安心する腕の中。規則正しい呼吸を繰り返すシオンの寝顔を見つめながら、アリアはぼんやりと思考を彷徨わせる。

 ――『そなたたちが元の世界に戻ることだ』

 一度に与えられた情報量が多すぎて、全く処理ができなかった。

 それでも、時間の経過と共に、少しずつではあるものの、見えてくるものもある。

(……本来、在るべき姿に……)

 元々“アリア”は、この世界にとって異質な存在だ。

 ――『この世界の"イレギュラー"。僕は正そうとしているだけだ』

 ――『オレに与えられた使命を教えてやろーか』

 魔王も、リヒトも、突き詰めればアリアをこの世界から排除(・・)しようとしていた。

(リヒト、は……)

 声は、世界の真理までは知らないと言っていた。

 ――『アンタが変えちまった運命を正すこと。その褒美として、オレは生身のアリアを手に入れられるんだ……』

 ならば、あの言葉は。

 やはりリヒトは、アリアとは違う情報を持っている。

(……でも、もう、リヒトには……)

 リヒトに話を聞いてみたいと思うけれど、リヒトの正体(・・)を知った今、のこのこ会いに行けるはずもない。

 それだけでなく、リヒトと会うことを考えただけで、無意識に身体が震えた。さすがにあんな目に遭ってまで平常を保てるほどアリアも強くはない。

(……だからって、このまま黙っているわけにはいかないし……)

 リヒトのことを、今日の午後にはリオに話さなくてはいけない。

 けれど、この世界のリヒトのことを、実際アリアはなにも知らないのだ。リヒトのことで、アリアが知っていることと言えば。

(……どう、話せば……)

 アリアの中にあるもう一つの記憶のこと。いつまでも黙っているわけにはいかないことはわかっていても、どう説明したらいいのかわからない。

 信じてもらえないかもしれない、などという後ろ向きの考えは全くなかった。きっと、誰もが驚きながらもアリアの話を信じてくれるだろう。

 そう素直に思えるほどアリアはみんなのことを信頼しているし、信頼してもらえているという自信がある。

 それでも、昨日聞いたばかりの世界の真理を、どこまで話したらいいものか、そして話すべきなのかわからない。

 天の声は、裁量は全てアリアに任せるようなことを言っていたけれど。

(……そんなの……、私には重すぎる……)

 天の声から聞かされた真実を思い出すだけで身体が凍りつきそうになる。

 二つの世界の関係性を話すところまではいい。けれど、その先は。

(……世界が消滅するなんて……!)

 それを話してどうするのか。明らかな“敵”がいた今までとは違い、今回はシオンやリオたちがどんなに足掻こうが、絶対に抗えない“世界の創造主”が相手だ。

 神の気分と指先一つで、世界は一瞬にして消滅する。

(……それを、どうやって……)

 アリアとリヒトが元の世界に戻るエネルギーを使うと言われても、そもそも具体的になにをすれば元の世界に戻れるのかすらわからない。

 それに。

(シオン……)

 眠るシオンの顔をそっと見上げ、アリアは泣きそうに顔を歪ませる。

 アリアが“元の世界に戻る”という事象は、リヒトと違い、アリア自身が消えてなくなることを意味しているわけではない。

 ただ、アリアが、“本来の在るべき姿”に――、もう一つの世界の記憶を得ることなく成長した姿に戻るだけ。

 それは単純な記憶喪失とは違うけれど、周りから見れば似たようなものだろう。

 とはいえ、今のアリアにとって、それはシオンたちとの決別を意味していた。“アリア”の中の魂が元の身体に戻った時。きっと彼女はこの世界のことを覚えてはいないだろうと、漠然としたそんな予感があった。

 ――それは、“消滅”と、なにが違うのだろう。

(……マグノリア様……)

 そこで、ふいに、マグノリアの姿が頭に浮かんだ。

 なにがあったのかは知らないが、別々の道を歩むことを決めた二人。

 愛する人との別れを決意した時、マグノリアは……、そしてレイモンドも……、なにを思ったのか。

 マグノリアは天寿を全うし、レイモンドは愛する女性との思い出を胸に生きている。

 そんな二人の姿が、アリアとシオン、自分たちと重なった。

(……どちらにしても、もう一度話を聞きにいかなくちゃ……)

 頭の中を整理して、許されるならば、もう一度天の声の元へ。

 叶うならば、マグノリアと話ができたらいいのにと思ってしまう。

 “生命の神”なるものが死後の世界に在る存在だというのなら、恐らくは魂となってそこにいるかもしれないマグノリアの話を聞くことができたりしないだろうか。

 けれど、その前に。

(……考えなくちゃ……)

 リオを前になにを話したらいいのかと、ふいに現実へと戻ってきたアリアは、きゅ、と唇を噛み締めていた。

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