今だけは
※R15です※
段々と意識が浮いてくる中で、自分がいる場所がいつものベッドの中だと感知する。
「……ん……」
「! アリアッ」
ぴくり、と睫毛を揺らしたアリアにかけられる低い声。
「……ん……?」
慣れた匂いと気配を感じ、アリアはゆっくりと目を開けていく。
「アリア……?」
「……。……シ、オン……」
いつもと変わらぬ無表情。けれど確かに自分を心配しているシオンの空気に、アリアの瞳は不安定に揺らめいた。
「……っ、……どうした。なにが……、あった?」
今すぐ問い詰めたいほどに、聞きたいことはたくさんあるに違いない。だが、アリアのことを一番に思って耐えてくれているのであろうその姿に、アリアは力なく首を横に振る。
「……ううん」
「っアリア……ッ」
意識を手放すように深い眠りについてしまったアリアに、なにもないわけがないという、焦りと苛立ちが混じった、シオンの責めるような声が飛ぶ。
「……ごめんなさい……。ちょっと、混乱してて……」
「っ」
アリア自身、言われたことを理解し切れていないのだ。
どこまでのことを話していいのか、話すべきなのか、全く整理がついていない。
そんなアリアの、ほんの少しだけ泣き出しそうな表情に、シオンもさすがにそれ以上問いただすようなことはできないと判断したらしい。
「……シオン……?」
自分のことを大切に思ってくれているシオンに付け込むような真似は卑怯だとは思いつつ、アリアはそっとシオンの方へと手を伸ばす。
「……っ、なんだ」
ほどよい筋肉のついた腕に触れれば、シオンの顔が苦しげに顰められる。
アリアに全てを話させたくて、それでもできずにいる苦悩の表情。
それをわかりながら、アリアは弱々しく顔を上げると小さく口を開いていた。
「……抱いて?」
「!?」
誘うように触れた腕を軽く引けば、シオンの瞳は驚いたように見開かれる。
「……なにを言ってる」
少しだけ掠れた声色はあまりの驚きからだろう。
アリアの様子がおかしいことは明白だ。それが精神的なものから来ているものだとしても、身体に負担をかけるべきではない。
それでも。
「抱いてほしいの」
「…………っ」
縋るようなアリアの懇願に、シオンの瞳は迷うように揺れた。
「…………」
そんなシオンをじっと見つめ、数秒たっても動く気配が見えないことを察すると、アリアは自らシオンの首の後ろへと手を回す。
「アリ……」
珍しくも動揺を見せるシオンに構わず、アリアは目の前にある首筋へと顔を寄せる。
ちゅ……っ、と。
軽いリップ音が響く。
「っ、アリア……ッ!」
「ん……っ」
咎めるような声が上がり、アリアを引き離そうと肩に伸びた手は、シオンの首筋にキスマークを付けようとするかのようなアリアの動きを前にぴくりと止まった。
「……っ」
シオンが息を呑む気配がして、アリアはぎゅ、と安心できるその身体に縋りつく。
今は、なにもかも、考えたくなくて。
今だけは、全てを忘れてしまいたくて。
シオンのことだけを……、シオンだけを感じ、その熱さに溺れてしまいたかった。
「……シオ……、っ、んんん……っ!?」
気を緩めてしまえばそのまま泣きそうになってしまう瞳でシオンを見上げれば、性急に唇を塞がれる。
「ん……っ、んんぅ……っ!」
それに抗うことなく、互いの熱を交換し合う。
「んん……っ、ん、ぅ……」
少しだけ唇を離しては角度を変え、深い口づけを繰り返す。
「ん……っ、は、ぁ……っ」
唇を離せば、すっかり息が上がってしまったアリアは、くたりとシオンに身を寄せる。
「……あまり優しくできないぞ」
その低音から少しだけ苛立ちが見え隠れするのは、仕方がないことだと思う。
「うん……。大丈夫……」
そんなシオンに柔らかな笑みを見せ、アリアはベッドへ誘うかのようにシオンの身体を引き寄せる。
「酷くしてもいいから」
なにも語ることなく、身体で誤魔化そうとしているわけではない。
ただ、今は、アリア自身がなにも考えたくなかった。
一時的だけでも全てを忘れてしまいたかった。
そしてそれができるのは、他でもないシオンだけだから。
「っ」
シオンの身体に力が入り、少しだけ乱暴な動きで背後のベッドへと押し倒される。
「……そんなことを言って、どうなっても知らないぞ」
「っ!」
アリアを見つめ下ろしてくる瞳の奥に、獰猛な肉食獣のような光を見つけてゾクリとする。
「あ……っ!」
そうしてそのまま首筋へと噛みつくように吸い付かれ、アリアは歓喜に身を震わせていた。
次回はR18版を更新予定です。