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世界の真理 ①

「……来たか」

「レイモンド様……」

 光に満たされた扉を抜けると、その先にはアリアとシオンを出迎えるレイモンドの姿があった。

「……神様に、呼ばれていると聞いて」

 神様、と。お遣いでやってきた妖精は、確かにそう言っていた。

 ここは、“ゲーム”の世界。魔王や魔族、精霊王や妖精たちが存在するのだから、神なる者がいたとしても不思議はない。だが、アリア自身ももう一つの記憶の中でも、神なる存在を聞いたことはなかった。

「あぁ……、妖精たちはそう呼んでいるが正しくは違うな」

 そんなアリアの疑問を察したのかは知らないが、光の聖域までアリアたちを導きながら、レイモンドはあっさりそれを否定した。

「違う?」

 きょとん、と向けられるアリアの顔に、レイモンドは目だけで頷く。

「“生命の神”だ」

「生命の神?」

「そうだ。天界に在る存在。だが、誰もその姿を見ることはできない」

 “生命の神”という名前は、以前レイモンドから聞かされた記憶がある。だが、天界、というのは初耳だった。

 アリアも……、そして、もう一つの記憶の中でも、魔界や魔族と相対する位置にいるものは、妖精界と精霊王たちだ。

 光に属するでも闇に属するでもない、人間のようにその中間に位置するものでもない、また別の存在とは。

「天界は、死んだ者の魂が逝く場所だと言われているからな」

「……死後の、世界……?」

 レイモンドの説明に、アリアは小さな声を洩らす。

 つまりは、あちらの世界で言うところの“天国”のようなものだろうか。

 器を捨て、魂とならなければ生命の神に会うことは叶わず、生者は天界に行くことができないのだと告げられて、さすがに動揺してしまう。

「そんな方が、私を……?」

 そんな、生命の神なる存在が、一体アリアになんの話があるというのだろう。

「それは私にもわからない。ただ、前々から言われていたことだ」

「……え?」

 以前からアリアを呼んでいたというレイモンドの話に、ますます困惑させられる。

 ――『……あとでレイモンドからも話があると思うわ』

 そういえば、パーティーの時にネロがそんなことを言っていたことを思い出す。

 それは、このことを言っていたのだろう。

 とはいえ、前々から話が出ていたのなら、なぜわざわざこのタイミングなのだろう。

「……その光の元に進むがいい」

 示された先は、光の指環を手に入れた時の祈りの場(チャペル)のような場所。

 そこには、天から降り注ぐ光によって、一箇所だけ真白に輝く場所があった。

「呼ばれているのはそなた一人だけだ」

「っ」

 そこに行くとどうなるのだろうと身構えるアリアと同時に、隣に立つシオンからもアリアを一人では行かせないという空気が滲み出る。

 だが、そんなシオンにレイモンドは淡々とした様子で口を開く。

「特段すぐ傍にいる分には構わない。どちらにせよ、生命の神の声は、選ばれし者にしか聞こえない」

「……え……?」

「声は、心に直接語りかけてくるものだからな」

 思わず目を見張るアリアに、レイモンドは相変わらずの態度を崩すことがない。

「そなたも口には出さず、そのようにするがいい」



 頭上から聖なる光が降り注ぐ。

 だが、それだけで、そのままどこか別の空間に飛ばされるなどというような、シオンが危惧していたようなことはなかった。

(……私に、なにか、ご用ですか……?)

 レイモンドは、心に直接語りかけてくると言っていた。

 なにごとも形から、というわけではないものの、アリアはその場で祈るように手を組むと、目を閉じて心の中で語りかける。

 と。

(……よく来たな)

 頭の中へ直接響く、男性のようでもあり女性のようでもありそうな不思議で穏やかな声。

(……はい)

 心の中でそっと頷いたアリアに、その声はほんの一瞬だけ沈黙した。

 そして。

(――……この世界の、“異質分子(イレギュラー)”)

(――っ!)

 その言葉に、アリアの肩がびくりと揺れる。

「アリア?」

 すぐ傍から不審そうなシオンの声がかけられるが、それに答えている余裕はない。

(……あ、の……)

(そんなふうに警戒しなくていい。私はただ知っているだけ(・・・・・・・)だ。私にできることはなにもない)

 こうして語ることはできても、直接世界に干渉することはできないと告げる声に、アリアはおずおずと確認する。

(……貴方は、“神様”、ではないのですよね……?)

 自分がこの世界にとって異質な存在であることは自覚している。

 “ゲーム”の中でさえ結末は一つではないのだから、未来は必ずしも決まっているとは言えない。それでもアリアが“あるべき未来”を変えてしまったことは間違いないだろう。

 それを知る声の主は、この世界にとってどんな存在なのだろう。

(……そなたにとって、“神”とはどんな存在を言う?)

 ある意味質問の内容が漠然としすぎていたのか、問い返されてふと考え込む。

 確かに“神”の定義は難しい。“神”、イコール“この世界の創造主”、かと問われれば、それも必ずしもそうであるとも言い難い。

(もし、そなたの言う“神”なる者が、世界の創造主のことを示しているのであれば、創造主は別にいる)

(!?)

 そんなアリアの思考を読んだわけではないだろうが、先回りするように返された答えにはドキリとした鼓動が鳴る。

 ――“この世界の創造主”。

 つまりそれは、“ゲーム”を作った“制作会社”……。

 だが。

(この世界と……、そして、そなたの知るもう一つの世界を作った、な)

(――っ!?)

 想像だにしていなかった言葉を聞き、アリアは驚愕に身体を震わせていた。

(……二つの世界を……、作っ(・・)()……?)

 ここは、“ゲーム”の世界。つまりこの世界を作ったのは“あちらの世界”の“ゲーム制作会社”ではないのか。

(……さて、なにから話せばいいものか)

 特に困ったふうでもなくそう前置きし、声は先を続ける。

(私はただ知っているだけ(・・・・・・・)だ。そなたの質問を理解して答えることができるかどうかはまた別問題になる)

 先ほども声の主は言っていた。知っているだけで理解しているわけではないと。

(まず、始めにこれを言っておこう)

 二つの世界を作ったという“創造主”の存在に混乱するアリアに構わず、声はさらなる衝撃の真実を落としてくる。

(この世界はそなたが思っているような、“ゲーム”の世界などではない)

(……っ!?)

 声の主には、その“ゲーム”というものもなにかわからないのだと、苦笑じみた声が届く。

(人間界と妖精界が姉妹世界だとしたならば、そなたの知るもう一つの世界とこちらの世界は、表裏一体に在る世界だ)

 頭の中に、あくまでイメージとしての映像が浮かび上がる。

 “地球”という“星”の外側に在るもう一つの世界と。内部に在るこちらの世界。そして、こちらの世界には、天に妖精界が広がり、地には魔界が横たわっている。

(創造主は気まぐれで残酷な存在だ。ある時、表裏一体となる、魔法の存在する世界とない世界を作り……、観察し、遊んでいた(・・・・・))

 淡々と真実を告げるだけの声からは、感情というものが感じられずに怖くなる。

 これから自分は……、とんでもない世界の成り立ちを知ることになりそうで。

(……あ、そび……?)

(そうだ。そなたたちだって物語を作るだろう。それと同じようなものだと考えればいい)

 なにやら不穏な言葉を聞いた気がしてそれを反芻したアリアに、声はただ肯定する。

 アリアたち人間が想像を膨らませて物語を作り、絵を描くように。“この世界の創造主”も、そうやって二つの世界を生み出したという。

 けれど、問題は、その後のこと。

(そして、ある時、それに飽き……、二つの世界を壊した(・・・))

(!)

 一冊の本を作りかけた人間が、途中まで書いた物語に飽き、紙を丸めて捨ててしまうかの如く。

(そうやって何度も作っては壊し……。壊しては作り直し……。それが我々の……、そして、そなたが知る世界だ)

 二つの世界は、何度も破壊と再生を繰り返し、その度に歴史を作り直してきたという。

 つまりは。

(そなたの知る“ゲーム”の世界とは、その中で生まれた一つの可能性に過ぎない)

 幾度も幾度も繰り返される歴史の中で。ありえたかもしれない可能性(・・・)

 そもそもそれは“ゲーム”の結末にも同じことが言える。

 根本的なものは変わらないとはいえ、選択肢次第で紡がれる未来は異なるものになるのだから。

(神は飽きると二つの世界をぶつけて壊し……、前回、その衝撃でそなたたち(・・・・・)飛ばされた(・・・・・))

(――っ!?)

 声の言う“そなたたち(・・・・・)”というのは……。

(……()とリヒトが、あちらの世界から飛ばされた人間……!?)

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