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悪夢からの夜明け

 シオンをリヒト(凌辱者)と重ねて本気で抵抗するアリアを抑えつけ……、まさに強引に身体を開かれた。

 頭では違うとわかっていても、身体が勝手に拒否をする。

 リヒトに首を締められた時には、本気で死ぬかと思った。リヒトとの時間は、それほどの恐怖をアリアに植え付けた。

 けれど。

 わかっては……、いるのだ。

 自分に触れる手がシオンのものだということは。

 どんなに強引だとしても、痛いことも苦しいことも絶対にしないということは。

 そして……、シオンが……。いくら怒りを感じていても、本当はシオンもこんなことをしたいと思っているわけではないということも。

「……っ」

 朝、目が覚めて、じわりと眦に涙が浮かんだ。

「アリア……?」

「ひ、どい……」

 こんなこと、言いたくなんてないのに。

 そっと顔を覗き込んでくるシオンに、顔を覆ってふるふると首を振る。

「……悪かった」

 その声色だけで、シオンが苦しげな表情をしていることが手に取るようにわかった。

 遠慮がちに伸ばされた手が、アリアの髪を優しく撫でてくる。

 それを恐ろしいことだとは……、もう、“誰か”と重ねたりなんてしない。

 全部、全部。本気で塗り替えられてしまった。

「……シオンのことが、嫌なわけないのに」

「!」

 涙の溢れる瞳で見上げれば、シオンの目が僅かに見開いた。

「……抵抗なんて……、無理矢理なんて……」

 シオンのことを嫌がっているわけでも、拒否をしていたわけでもない。

 アリアはシオンを“誰か”と重ねたくなくて。

 シオンはその“誰か”さえ自分との記憶で塗り潰したかった。……恐らくそれが、アリアを救う一番の手段だから。

 けれど、そのために。

「……シオンを、傷つけるようなこと……」

 アリアに凌辱者扱いされるなど、シオンの方が傷ついたに違いない。

 だから、そんな状態でシオンに抱かれたくなかった。それなのに。

「……わかってる」

 くす、と。ほんの少しだけ困った色を滲ませて、それでもシオンは可笑しそうに口の端を引き上げた。

「わかってるからこそ、無理矢理抱いた」

「……っ」

 不敵なその笑みは自信に満ちたもの。

「嫌がっていても、本当は嫌だとは思っていないと絶対の自負があったからな」

「っな……っ?」

 思い返してみれば、アリアが自分の気持ちを自覚する前からシオンはそうだった。

 最後の一線を越えることはなかったけれど、悪びれることもなくアリアに好き勝手手を出していた。

 もちろん抵抗の度合いも、嫌がる理由も、今回とは比べようにならないけれど。

「悪いが、それくらいの自信はある」

 ちゅ、とアリアの額に口づけ、シオンはニヤリと笑う。

「お前に愛されてる、な」

「!」

 嫌がるアリアを無理矢理抱いても、決して嫌われない自信。

 その大胆不敵さに、思わずアリアの顔には熱が昇る。

 改めて、シオンのこういうところが好きだと思ってしまう自分は本当に終わっている。

 場合によっては腹を立ててもおかしくはないはずなのに。

「……だが、悪かったとは思っている。お前を傷つけたことは間違いない」

「……っ傷なんて……っ」

 髪を撫でながらそう申し訳なさそうに謝罪してくるシオンに、アリアは咄嗟に身を起こす。

「シオンに傷つけられてなんてない……!」

 心も。身体も。

 シオンに抱かれて傷がつくなんてことはない。

 今だって、ほんの少しの気だるさは残るけれど、身体中を満たして胸の奥から湧き上がるものは、シオンに愛されているという温もりばかりだ。

「アリア……」

 僅かに驚いたように見上げられ、アリアの口からはくすりという笑みが零れ落ちる。

「……本気でそう思うなら、今度は思い切り気持ちよくして?」

「……っ」

 シオンの腕の中で甘く溶かしてほしいと、昨夜の“やり直し”を求めるアリアに、シオンは小さく息を呑む。

「……きちんとシオンに(・・・・)抱かれたいの」

 そうして自らシオンに口づけて誘いかければ、すぐにその願いは叶えられ、アリアは幸せで甘い時間に溶けていくのだった。

次回はこちらのR18版を更新予定です。

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