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救出へ

「! こっちだ……!」

 そう叫んでみんなを誘導するシャノンの顔色は明らかに悪かった。ここに来るまでずっと、アリアの痕跡を辿るために精神と体力を削り続けていたのだからそれは当然の結果だろう。だが、シャノンが限界まで――、否、例え限界を超えてさえ――、その特殊能力を使い続けることを止める者など、シャノン自身を含め、誰もいなかった。

「その建物……っ! ――っ!?」

「シャノン……ッ!?」

 とある集合住宅らしきものを指し示したシャノンの身体はとうとうぐらりと傾いて、隣にいたアラスターの手が伸びる。

「……だ、いじょうぶ……、だ……」

 なんとかその場に踏み止まり、ギリリと唇を噛み締めたシャノンは、アラスターの手を借りながらその建物を仰ぎ見る。

「っ、な、んだ……っ、この、禍々しい精神(オーラ)……ッ」

 吐きそうなほど気持ちが悪い残留思念が漂っていると言って、シャノンはそれでもまた一歩前へと足を進ませる。

 こんなところで立ち止まっている時間など一秒足りともない。

 なぜなら。

「……この精神(オーラ)の持ち主と、一緒にいるっていうのかよ……!?」

 もし、そうだとしたらと考えるとゾッとする。

 シャノン以外の誰にも理解できない感覚だが、もしこの精神(オーラ)に触れたなら、それだけで精神に異常をきたしかねないほどの歪み切った禍々しいものが、シャノンには()みとれていた。

「く……っ」

「大丈夫か……っ!?」

 狂気に負けじと奥歯を噛み締めるシャノンに、アラスターの苦しげな声がかけられる。

 誰よりもシャノンのことを思うアラスターにしてみれば、もうここまでだと止めたいところに違いない。

「……ここ、だ……。そこを行ったところ……」

 だが、シャノンがその能力(ちから)を使い続けることを止めるはずもなく、ふらふらと階段を上っていく。

 そうして。

「奥の……、その部屋……っ」

「!」

 シャノンが指先で示したその部屋へ、シオンとユーリが先を争うようにして走っていく。

 だが。

「!?」

 そのドアノブに触れた瞬間、シオンの瞳が驚いたように見開かれた。

「……っ魔法が……、発動しない!?」

 ドア一枚の障害など、シオンの魔力をもってすればないも同然のもののはずだった。だが、目の前の扉は、傷の一つもつくことなく堂々とそこに佇んだまま。

 それは、扉が強固な素材から作られているというわけではなく、シオンが驚愕の声を上げたままに、シオンが得意とする風魔法が、そよぐ程度のものさえ発動しなかったことを示していた。

「なに言ってんだよ……!」

 すでに合流していたギルバートが、シオンとユーリを押しのけるように扉の前に立ち、恐らくは空間転移の魔法を展開させようと試みる。

 だが。

「……っ!? 嘘だろ……っ!?」

 こちらも発動の気配さえ感じられない闇魔法に、愕然と己の身体に目を落とす。

「……な、にが……」

「……一体なにが起こってる……!?」

 どこにでもある極々普通の扉を前に、シオンが殺意さえこもった鋭い視線を向け、もう一度ドアノブへと手を伸ばす。

「! だったら力づくで……っ!」

「……さすがにこの頑丈な扉を壊すのは無理だろう」

 体当たりでも始めそうな勢いのシオンへ、ギルバートがギリリと悔しげに顔を歪ませる。

 貴族の邸ほど重厚な扉ではないものの、人間の力だけでどうにかなるほど脆弱にはできていない。力任せで突破しようとしても、扉が壊れる前に人間の身体の方が壊れてしまう。それが、魔法の使えない生身の人間ともなればなおさらだ。

「それじゃあどうしろって……!」

 ユーリの叫びにその場には沈黙が落ち、焦りばかりが募っていく。

 こうしている間にも、アリアの身にどんな危機が迫っているかわからない。

 アリアのためであれば腕の一本や二本犠牲にすることなど厭わないが、今のこの状況では、そんなものを犠牲にしても問題が打破できるとは思えなかった。

 そうしてなんとか扉を破壊できないかと三人がそれぞれ足掻き、永遠とも思える焦燥の時間が流れた時。

「……これ、使うか?」

「! アラスター!」

 いつの間にかシャノンを残して消えていたアラスターが、息を切らしながら戻ってきて、その手に持っているものに全員の目が見開かれた。

「……そんなもの、どこから……」

 アラスターが差し出してきたのは、小振りの斧のような農具。

 余りの驚きで動揺するユーリへと、アラスターは得意気な笑みを見せる。

「あー、さっき、そこの民家で庭いじりしてる御婦人がいたから。もしかして持ってたりしないかなー、って」

 借りてきた。と、ことも無げに笑うアラスターはさすがとしか言いようがない。

 その観察力はもちろんのこと、恐らくはその御婦人相手に、甘いマスクで近づいたのであろうことが見て取れた。

「……貸せっ!」

 すぐさま奪うようにしてそれを手にしたシオンが、扉に向かって勢いよく腕を振り上げる。

 ――ガツ……ッ!

 と、斧の先が扉にめり込み、それをまたギルバートと二人で力づくで引き抜くと、再びそれを振り下ろす。

「……アリア……ッ!」

 昼時ということもあってみな出かけているのか、この騒ぎに誰かが駆けつけてくる様子は今のところは見受けられない。

 そうして何度かその行動を繰り返し……、見るも無惨に損傷した扉を、シオンとギルバートが勢いよく蹴り開けていた。

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