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夢の中の君に恋をする 2

※注意※

直接的な描写はありませんが、この物語はR15作品です。

「――っ」

 “禁プリ”をプレイしようとも、そもそも攻略対象外のアリアには、キスの一つをするどころか登場そのものが多くない。

 しかし、端役でしかないアリアの存在を、リヒトがどう知ったのか。

「前にも言っただろ? “同人界”じゃあ、結構アンタ、人気だったんだぜ?」

 リヒトが“禁プリ”の存在を知ったキッカケ。

 ――『元々オレがこの"ゲーム"を知ったキッカケってそれなんだよな。すげーオレ好みの作品描く人がいて、その人を追ってたら、って』

 最大手の“同人作家”が、アリアをモデルにした“18禁同人誌”を描いていたということ。

「魔王に犯されたり、触手にやられたり」

「っ」

 以前にも聞かされたことがあるが、“二次創作”の世界とはいえ、“アリア・フルール”がそんな風に扱われていたのかと思うと愕然としてしまう。

 もちろんそれはアリアであってアリアではないけれど、自分のそっくりさんが凌辱されているようなものだと思えば、嫌悪感に襲われる。

「マジ、最高」

 くつくつと楽しそうな笑みを洩らし、部屋の奥までアリアを押し込んだリヒトの手が伸びてくる。

「“同人誌”の中には、やけに胸が大きくなってるヤツもあったけど、オレはこれくらいの方が却って萌えるね」

「っ!? っ触らないで……っっ!」

 後ろ手に拘束されたまま身を捻れば、その勢いで後方のベッドへと倒れ込んでしまい、アリアは湧き上がる恐ろしさを押し殺し、キ……ッ! とリヒトを睨みつける。

「……貴方、誰!?」

 ここで、この恐怖に負けたら終わりだと思った。

 物理的な抵抗は無理だとしても、精神的に負けてしまえば、このままリヒトの思惑通りになってしまう。

「……“誰”、って……。“リヒト”だろ? アンタもよく知ってる。“3のゲーム”の“メインヒーロー”」

「っ、そんなはず……っ」

「ない、わけない、だろ?」

「……っ」

 “禁プリ”の作画は全て同じイラストレーターによるものだった。だから、ただ、“3のヒーロー”と同じ顔をした人物が、この世界にいただけなのかもしれない。

 “3のゲーム”は、前作までとは違い、舞台は“異世界ファンタジー”ではなく“現代”だ。いっそ、そう考えた方が自然かもしれないと思ってしまうアリアの願いは、リヒトの可笑しそうな笑みを前に否定される。

 そんなことを思いながら、アリアだってわかってはいる。明らかに他の人々とは異質なオーラを放つ彼が、“ヒーロー”以外の何者でもないはずがない。

 ただ、シオンやギルバート、アラスターといった歴代の“ヒーロー”たちとは明らかに異なる点が一つ。

 ――それは、“リヒト”の中身。

 外見は“3のヒーロー”に間違いなくとも、中身が違えばそれはもう別人だ。……そう、アリアと同じように。

 “3のヒーロー”だから、と。アリアと同じ“記憶”を持つから、と。それだけでリヒトのことを、初めから完全に信用し、まるで無警戒でいた。

 リヒトの中身が誰かなど……、中身の人間が、“あちらの世界”でどんな人物だったかなど、アリアはまるで知らないのに。

「この世界には“カラコン”がないからなー。目の色だけは違うけど」

「……“カラコン”……」

 楽しそうに笑うリヒトの言葉を愕然と反芻する。

 “カラコン”。

 ――“カラーコンタクト”。

 この世界の人間の瞳は、みな同じ色をしていることが特徴だ。その瞳は、魔力を伴うことで己の属性の色に変わる。

 その、瞳の色が。

「そ。“ゲーム”じゃそれぞれのイメージカラーに合わせて全員“カラコン”してる設定だったみたいだぜ?」

「……イメージカラー……」

 その言葉に、先行で発表された“攻略対象者”たちの姿を思い出す。

 五人組“アイドルグループ”のうちの三人。似たような煌びやかな衣装に、各々違う色がアクセントになっていて。その色は、彼らの瞳の色と同じ……、だっただろうか。

 そこまで細かくは覚えていないけれど、それでも、中央で一際目立っていたリヒトが纏っていた色は。

「……赤……?」

「そ。“リヒト”のイメージカラーは赤」

 それほど興味のないはずの“ゲーム”情報について、なぜそこまでリヒトが詳しいのか動揺する。

(……あ、か…………?)

 そして、なにかが引っかかる。

 とても重要ななにかを、自分は見落としている気がしてならないのだ。

(……赤い、カラーコンタクト……?)

 “ゲーム”のリヒトは“コンタクト”をしていて。瞳の色が変わっていた。

 ――赤い、瞳。

「それじゃあ、そろそろ“ゲーム”開始といくか?」

「っっ!」

 なにかを思い出しかけた思考回路は、獰猛な瞳で己の唇を舐め取ったリヒトの仕草を前にして、すぐに現実の危機へと引き戻される。

「ただし、キャストはアンタとオレの二人きりだけだからな。趣向はだいぶ違うけど」

 本来の“BLゲーム”とは違い、主人公役はアリア。唯一のヒーロー役はリヒト。

 身動きの取れない身体でそれでも後方へと逃れようとするアリアに、楽しそうに口元を歪めたリヒトが、ギシリとベッドの上へ乗り上げてくる。

「“ゲーム”、って……!」

 ゲームが始まる、とリヒトは言っていた。

 それは、こうしてリヒト自身が“ゲーム”を開始させるという意味だったのか。

「知らないわけないよなぁ? “禁プリ3”は“超鬼畜ゲーム”だって」

「!」

 知らないわけがない。充分“鬼畜”だと言われた“1”よりも、“3”はさらに鬼畜になったと宣伝されていた。

 その内容を、彼女(・・)はまだ詳しくは知らない状態だったけれど。

「“3”は、主人公が5人組アイドルグループに襲われるところから始まる」

「――っっ!」

 まじで男性向けより鬼畜じゃねぇ? とくつくつと愉しそうに喉を鳴らすリヒトの説明に、さすがのアリアも凍りつく。

 彼女(・・)はあの頃、まだ“2”の続編すら手つかずだったから、“3”の情報までは全く入っていなかった。

 だが、多少の情報が解禁されているにしても、なぜリヒトがたいして興味がないはずの“女性向けゲーム”の情報に、そこまで精通しているのだろう。

「オレ、前世は一応そっちの業界で働いてたからな」

 そんなアリアの疑問を感じ取ったのか、壁際まで逃げようとするアリアに近づきながらリヒトはくすりと口の端を引き上げる。

「!」

「趣味もあって、その手の情報は誰よりも早く手に入る立場だったんだ」

 吐息がかかるほど近くまで寄った、造形だけは綺麗なリヒトの顔。けれど今は、その瞳の奥にある狂気を感じて唇が震える。

「……だ、から……」

「そ。まだ公表されてない情報も一部、な」

「……ゃ……っ」

 嬉しそうに、愛おしそうに顔の輪郭をなぞられてぞくりと寒気が走る。

 先ほどから懸命に魔力を操ろうとしているが、魔法が構築される気配はまるでない。

 全ての魔法を無効化させるというリヒトの前では、アリアなどただのか弱い少女に過ぎなかった。

「あー……、でも、マジで感動でおかしくなりそうだ……」

「――っ」

「ずっとこの時を待ってた」

 至近距離からうっとりと見つめられ、悲しいやら情けないやらで涙が溢れそうになってくる。

 リヒトのことをなんの疑いもなく全面的に信頼してしまっていた自分が悔しくて堪らない。

 ――シオンに、あれほど大人しくしていろと言われていたのに。

(……シ、オン……ッ)

 今頃シオンは、アリアのことを必死になって探しているだろうか。

(……ごめんなさい……)

 きっとシオンは、こうなってしまうことを危惧していたに違いないのに。

「オレは別に処女性なんて重視してないから、アンタがすでにあの男のモノだろうがどーでもいいし。むしろ横から奪うとか超燃えるし?」

 もはや、リヒトがなにを言っているのか理解できなかった。

 ただ、リヒトが、アリアの意思などどうでもいいと思っていることだけは理解できる。

「結婚式の最中に奪い取るってのも楽しそうだとは思ったけど、現実問題それは無謀だしな?」

 これでも頭脳派なのだと嗤いながら、リヒトの手がアリアの腕を掴んだ。

「――っ!」

 壁際から完全にベッドの上へと引きずりおろされ、アリアの瞳に恐怖が浮かぶ。

「紙の中でも妄想でもなく、生身のアリアを犯せるなんて……」

 これから自分が行おうとしている妄想に酔い痴れているのか、恍惚とした表情でそっと腕を撫で上げられ、背筋へぞくりとした悪寒が走り抜けていく。

「っ、触らないで……っ!」

「アンタに良く似た偽物(ミガワリ)でもなく、本物のアリア……」

 極上の獲物を狩る前の興奮を噛み締めているかのようなリヒトの呟きに、アリアは一瞬時を止める。

「……ぇ……?」

「……おっと。口が滑ったな」

 くす、と笑うリヒトは、そう言いつつも本当はそんなことなどどうでもよさそうな雰囲気を醸し出していた。だが、それを聞いてしまったアリアにとっては。

「……私の……、身代わ、り……?」

 ――“身代わり”。

 身代わり。それはつまり、アリアの代わり。

 この場合の“代わり”とは、一体なにを意味するのだろう。

 ――リヒトは、ずっとアリアに“こういうこと”がしたかったのだと言っていた。

 その、アリアの代わり。

 とてつもなく恐ろしい結論が導き出されそうな気がして、アリアの身体は急速に冷えていく。指先までが凍りそうな気がするのに、頭の奥だけは酷く熱くて、思考が上手く纏まらない。

「オレに与えられた使命を教えてやろーか」

 ふ……っ、と口元を緩めたリヒトは、その答えを口にすることなく、全く別の話題へ話を逸らす。

「アンタが変えちまった運命を正すこと。その褒美として、オレは生身のアリアを手に入れられるんだ……」

「……それ……って……、どぅ、いう……」

 抵抗を奪われ、完全にリヒトに組み敷かれた状況で。恐怖を感じながらも、次から次へと明かされる事実を前に、アリアの思考は完全に置いていかれてしまう。

「アンタは本当になにも知らないんだな」

「――!」

 耳元で囁くようにしながらそっと唇を落とされて、アリアの瞳は絶望に見開かれる。

「せっかくオレの前世の名前も教えてやったのに」

 以前、一度だけ聞かされたことがあるような“前世の名”。

 その名前にもなにか意味があるのだろうか。

「ここまでも充分楽しい“ゲーム”だったけど」

「……ゃ……っ」

 リヒトの吐息が首筋にかかって身が凍る。

「ここから先はオレのターンだ」

 そうくつくつと嗤うリヒトから醸し出される空気はどこまでもどす黒く、もはや“ヒーロー”というよりも“残忍な悪役”そのものだった。

「ずっとずっと見てた。ずっと触れたくて……、犯したくて堪らなかった……。やっと……、やっと手に入れられる……」

 ずっと、のその意味は。

 この世界に来てからではなく、“二次元のアリア・フルール”を一目見た時から、という意味に違いない。

「ここまで本当に長かった……」

 確実にアリアを手に入れるために。

 アリアの知らないところで、リヒトはどんな罪を犯してきたのだろう。

「愛してる……。オレのアリア……」

「……っ!」

 うっとりとした愛の言葉に虫唾が走る。

 それはきっと、リヒトが囁くその愛が、真心ではないからかもしれない。

 アリアのことを好きだと言いながら、リヒトの瞳はアリアのことを映していない。

 アリアの意思も、中身も、きっとリヒトにとってはどうでもいいのだろう。

 その瞳はあくまでも、“アリア・フルール”という、リヒトの理想を詰め込んだ架空のキャラクターを見つめているのだ。

「絶対に離さない……」

「……っや……!」

 なんとかリヒトから逃れようと身を捻っても、縛り上げられたこの状態では僅かな抵抗にすらなりはしない。

「これでもうオレのものだ……」

 アリアの言葉など届くはずもなく、無残にも胸元へ伸びてくるリヒトの手。

「!? ぃやぁぁあ……っっ!」

 空気を切り裂くような悲鳴が上がり、力任せに上から服を引きちぎられる。

「嫌よ……っ、嫌ぁ……っ!」

 拒絶を示して激しく首を振るアリアを見下ろして、リヒトは陶酔したかのようにうっとりと口を開く。


「アンタが大好きな“鬼畜ゲーム”そのままに、狂うくらいしてやるよ」

R18版とは一部異なっています。

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