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count.0-4 ~空の指環~

 アリアの呼びかけに、リオは困ったように苦笑した。

「これでボクは手一杯だ」

 魔王を中心に、その足元にはいつの間にか巨大な魔法陣が光っていた。

 恐らくは、精霊王たちの力を借り、魔王の足元を地面に縫い留めているのだろう。全身を拘束することはできなくとも、リオの全身全霊をかけてその場に留めておくくらいのことならばやってみせると言って、リオは申し訳なさそうな微笑みを浮かばせる。

「ルイス。アリアを頼む」

「っ! っですが……!」

 すぐ横にいる側近へと自分から離れることを命じるリオに、ルイスの瞳が否定の色に見張られる。

 今、足元で展開されている魔法陣を維持することだけでリオが手いっぱいだというのなら、むしろ傍を離れるわけにはいかないだろう。

 だが。

「ボクのことはいいから」

 その瞳は、自分の代わりに、という想いを如実に語っていて、ルイスは身を切る思いでそれ以上の言葉を呑み込み、そっと頭を下げる。

「……畏まりました」

 魔王の動向に気を配りつつ、アリアの元へと走り出す。

 アリアには、シオンがついている。自分までも傍にいる必要はないだろうと本気で思っても、仕える主の命には逆らえない。

「っこの程度の魔力(ちから)で……っ!」

「っ貴方を……っ、そこから一歩も離すつもりはありません」

 睨み合い、魔王は足元に絡みつく光の絨毯へと闇の魔力(ちから)を噴射させ、リオは魔法陣を壊されまいと苦し気に奥歯を噛み締める。

「生意気な……っ」

 目覚めたばかりで完全体からはまだほど遠いとはいえ、ここまでのことをしてやられるとは思ってもなかったのだろう。多少の焦りを滲ませた魔王は、それでも弱点を貫かれながら、かなりの余力をその身に宿しているようだった。

「浅い……! 右の太股……!」

 先ほどの攻撃はそれほどの打撃(ダメージ)にはならなかったと、立て続けに指示を出すシャノンの言葉に、魔王は忌々しげに舌打ちする。

「!? っざけるな……っ!!」

 ユーリからは光の(やいば)投擲(とうてき)され、アリアとルークもまた光の矢を放つ。

 シオンが風を、セオドアが火を操って、ルイスが魔王の頭上から稲妻を光らせる。

 ギルバートとルーカスも、闇色の球体を次から次へと叩き込んでいた。

 刹那。

「「!?」」

 まるで"水風船"が割れる瞬間のように全員の魔力が弾け飛び、闇色の魔力が湯気のように立ち上る。

「動けないからと、そう何度も同じ手が通じるわけがないだろう」

 くす、とその口元は冷酷に歪み――。

「――――っ!」

 音なき咆哮が鼓膜を震わせ、足元が揺れたかと思うと空に向かって闇の塊が放出された。

 それは、まるで闇色の"ロケット花火"が(そら)へと昇っていく時のようで。

「シャノン……ッ! リオ様……っ!」

 ドドドド……ッ! と天から落ちてくる闇の攻撃に、防御魔法を展開してさえシャノンたちは後方へとよろめいて、その場から跳んで衝撃を回避したリオは、途切れかけた集中力に唇を噛み締めていた。

「「こっちは大丈夫(だ)……!」」

 無事を知らせる声にアリアがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間のこと。

「!? アリア……ッ!」

「え……っ?」

 シャノンの叫び声と同時にアリアのすぐ横を闇色の風が吹き抜けていき、

「く……っ!?」

「!? シオン……ッ!?」

 咄嗟に身体の前で展開した光の盾ごと、シオンが遥か後方まで弾き飛ばされていく。

「シオ……ッ」

「違う……!」

 大事はなさそうだが、思わず駆け寄りかけたアリアの背中に、再び厳しい声が上がる。

「え……」

 シャノンの大声に振り向いたアリアは、自分へと迫り来る細い紐のような――、闇の触手に目を見開いた。

「!」

 動けずにいるアリアの傍にいた、ルイスの咄嗟の応戦は間に合わない。

 それは、一瞬の出来事だった。

「!? レイモンド様!?」

 闇の触手が映り込んでいたアリアの瞳に、金色の長い髪を靡かせた背中が割り込んだ。


「二度も、奪わせはしない……!」


 瞬間移動でアリアの前に立ち塞がったレイモンドは、光の魔力(ちから)を纏っていなかった。

 相手を見定めたかのように寸前で鋭利な(きり)と化した闇の触手が、そのままレイモンドへと向かっていく。その攻撃が直撃したならば、例え即死――、消滅に繋がらなかったとしても、瀕死の怪我を負うことは必死だろうと思われた。

「っダメです……!」

 無意識だった。

 咄嗟にレイモンドの身体を横へ押したアリアは、迫り来る闇の攻撃にぎゅ……っ、と固く目を閉じた。

「アリア……ッ!」

 それは、誰の叫びだろうか。

 悲痛の声を聞きながら、アリアは己の身体がズタズタに引き裂かれることを覚悟した。

 犠牲になろうと思ったわけではない。ただ、犠牲になって欲しくなかっただけ。――例え、レイモンド自身がそれでも構わないと思っていたとしても。

 死んでもいい、なんて思っていない。

 ――自分を含め、誰一人として失いたくないから。


『……そうね。もう奪わせないわ』


「――――!?」

 一体なにが起こったのか。

 己の身体になにも襲ってこない気配を感じて目を開けたアリアは、視界いっぱいに広がる空の魔力に大きく目を見開いた。

 さらさらと揺れる髪。宙に映像を投射したかのように不安定な、人の形をした存在。

 すぐ傍で、ルイスの持つ"仮初めの指環"改め"空の指環"が光輝いていた。

 幽霊にも思える、その姿は。

「……マグノリア、様……?」

 見たこともないその人影を、そう認識したのはなぜだろう。

 だが、みるみると見張られたレイモンドの瞳が、その答えを語っていて。

 振り向いた少女は、にこり、と微笑んですぐに消えた。

「待……っ」

 恐らくそれは、魔力の満ちた"空の指環"が作り出した、マグノリアの残留思念の形。

 アリアと……、そして、レイモンドを救って消えた残像に、咄嗟に手を伸ばした時。

「っ! アリア……ッ! 後ろ……!」

 消えたと思った闇の触手がまだ残っていると、シャノンから焦った声が飛んだ。

「――!?」

 くるくる……っ、と身体に巻き付かれ、アリアを絡め取ったまま、長い触手は収縮するように主の元へと戻っていく。

「きゃあ……っ!?」

 勢いよく引き寄せられる衝撃に、アリアの口からは思わず悲鳴が上がる。

 そうしてその衝撃は"誰か"の腕に囚われたことにより終わりを告げ。

「……アリア」

 そっと耳元に落ちた声に、アリアはびくりと肩をすくませた。

「一緒に来るだろう?」

 そう微笑んだ瞳も声色も、酷く甘いものだった。

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