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カウントゼロ、一歩手前

 アリアを贄にと求められた期限はとうに過ぎ、季節は冬になっていた。

 この世界の冬は雪が降ることは滅多にないくらいの気候だが、それでも冷え込んだ室内には暖炉に火が灯されている。暖を取る為の炎が揺らぐ中、その部屋――王宮内の一室には、重苦しい空気が流れていた。

「……いよいよ、か……」

 そう声にしたのは、セオドアかギルバートか。

「……大分抑え込んだように思うが」

「1」と「2」のメンバー、そして精霊王たちを前にして、苦し気に告げられたリオのタイムリミットに、レイモンドもまた重々しく口を開いていた。

「……そう……、ですね……。そうであれば、と思いますが……」

「そなたは充分やっている」

 封印の強化をし、時間稼ぎをすることは可能でも、眠っている魔王をそのままもう一度封じ込めることはできないという。

 そもそも"封印"とは名ばかりで、今の魔王は深い眠りについているような状態であり、正式な"封印"とは種類が異なる。新たに封印魔法を施す為には、一度古い魔法を解除する必要があるという時点で、もはやその時(・・・)を迎えてしまうことは時間の問題だった。

「……魔王が……、復活、する……」

 リオとレイモンドの重苦しい会話に、とうとうその時がやってきたのかとぽつりと洩らしたのはシャノンだった。

「……3日後か、1週間後か。それはわからないけれど。もう、いつ目覚めてもおかしくない」

 実際にそれを目にしていないアリアにはわからないが、脆弱な封印魔法を日々修復していても、その綻びは急速に広がっているらしい。

「ギリギリまで抑え込むつもりではあるけれど……。もう限界だ」

 一度(ひとたび)(ひび)が入ってしまえば、どんなに修復しても元に戻ることはない。完全に壊れるまで多少の時間を引き伸ばすことができたとしても、限界はすぐに見えてくる。

「みんな、いつでも王宮に集まれるようにしておいてくれ」

 その時(・・・)が来たならば。迅速に動いて欲しいと言って、リオは静かに全員の顔を見回した。

「扉も、全て開いておくことになっている。その時がきたら……。ギルバート、君は、シャノンたちを連れてきてくれ」

「……あぁ」

 向けられた真剣な双眸に、ギルバートは重く頷いていた。

 千年に一度の危機を前にして、転移装置である王家の扉は、いつでも使えるような状態となっている。有事の際には、騎士たちが民を誘導し、安全な場所まで避難させる手筈だ。

 公爵家や学校にも王家の扉は存在する為、アリアたちはそれを使えばすぐに駆けつけることは可能だろう。レイモンドたちは、魔王が目覚めればすぐにわかるという。

 魔王復活を前にして、王宮に留まるのではなく、直前まで普通の生活を送って欲しいというのがせめてものリオの願いだった。

「……アリア」

「っはい……っ」

 と、ふいにリオから静かに声をかけられて、アリアは思わず居ずまいを正して返事をする。

「……本当に、君も来るつもりかい?」

 本意ではないことを垣間みせる真摯な瞳。

「……え……?」

 今さらすぎるその問いかけに、アリアの瞳は揺らめいた。

 魔王が、大人しく眠りにつくために求めたのはアリアだ。そして、アリアの指には、今日再び託された水の指環が光っている。

 魔王との対峙の際に、自分だけが外されるなど、アリアは予想もしていない。

「ボクとしては……、いや、ボクたち(・・・・)としては、君には大人しく閉じ込められていて欲しいくらいなんだけど」

「……そ、れは……」

 一人安全な場所にいることを求められ、アリアは愕然とリオの顔を見た。

 全ては、アリアが魔王の元へ行くことを拒んだことが始まりなのに、ただ守られるだけなんて。

「……私、は……」

 返す言葉が見つからず、アリアはきゅっと唇を噛み締める。

 共に闘いたいと思うのは、アリアの我が儘だ。それが迷惑だというのなら、これ以上みんなに迷惑をかけるわけにもいかないと思う。

 それでも。

 チラリ、と隣に立つシオンへと視線を投げる。するとそれに気づいたらしいリオは、小さな吐息を洩らした後にシオンへと顔を向けていた。

「シオン」

 呼びかけに、無言のままシオンの顔が上げられる。

「アリアを頼んだよ?」

「……あぁ」

 恐らくは、シオンもアリアを安全な場所に閉じ込めておきたいと思っているに違いない。と、同時に、自分の目が届く範囲内から手離すことも許容し難く、それは苦渋の決断だったのかもしれない。

 一瞬の間があってから了承の言葉を口にしたシオンへとリオが静かに頷けば、レイモンドが強い意思のこもった目を向ける。

「……我々は、魔王を拘束する」

「……はい。全てはそこにかかっています。よろしくお願いします」

 魔王の復活とほぼ同時に、精霊王たちがその身を拘束する。それが、魔王封印へと繋がる第一歩となる。

「任せて下さい」

 ラナの透き通った声が聞こえ、他の精霊王たちも神妙な面持ちで頷いた。

「……アタシも、そろそろ本気を出さなくちゃ、ね」

 いつものふざけた気配を消し、アリアへとネロの真面目な表情(かお)が向けられる。

「アンタの笑顔を、奪わせたりしないわ」

 改めて、全員の意思が団結した瞬間だった。

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