作戦会議
ユーリがセオドアと仲良くなってしばらくたった頃。
ここ数日セオドアの様子がおかしいことに気づいたユーリは、不審な動きをするセオドアの後をつけることにする。
そして辿り着いたのが、妖しげなパーティー会場。
中に入ることができずに近くをうろうろしていたユーリは、主催者の一人と思われる人物に浚われてしまう。
浚われて……、それこそ王道中も王道パターンで、人身売買の競りにかけられてしまう。
王道パターンがなぜ王道かと言えば、それだけ間違いなく誰もが大好きなネタだからだ。それゆえ、この"ゲーム"ももちろん、そんな腐女子の萌えをしっかりと叶えているわけで。
競りにかけられたユーリは、もちろん王道通り、パーティーに潜り込んでいたシオンによって競り落とされる。
『その倍だ』
好色な男に競り落とされそうになった直後に響いたシオンの声。
『お前は、オレに買われたんだ』
あっさりと男の提示した額の倍の金額を払うとユーリを連れ出し。
『なにをされても文句は言えないな……?』
(……あのっ!シオンが……っ!すっっっごくカッコいいのよ……!!)
その"イベント"風景を思い出し、アリアは胸が高鳴るのを抑えられない。
"ゲーム"の中でもその場面は、ファンの間でベスト1、2を争うシオンの見せ場"イベント"だ。
(あの!ユーリに迫る、なんとも言えない妖艶さが……っ!)
ついつい興奮して拳を握りしめながら、アリアは遠い世界へと思いを巡らせていた。
*****
「……で?どうやって潜入するんスか?」
妖しげな仮面パーティーが行われている可能性があることを示唆された面々は、その実態を探るべく、その会場へと潜り込む作戦を立て始めていた。
「それはもちろん、招待客の一人に成り済ますしか」
「……普通に正規ルートで入ればいいだろう」
ルークの問いかけに眼鏡を押し上げながら顔を潜めるセオドアに向かい、シオンの淡々とした意見が差し込まれる。
「え?」
「そこまでの情報があるのなら、詳細な内容を調べることはそれほど難しくはない」
出てこない情報から全容を把握することは至難の技だが、僅かでも残された情報から詳細を調べることはそう難しいことではないと言って、シオンは普通に招待状を手に入れてみせると断言する。
「さすがだな」
そして、そんなシオンに、ルイスの感心したかのような吐息が漏らされると。
「そしたら、オレとシオン先輩と……」
ルークが潜入メンバーの名を指折り数えながら口に出しかけたところで、
「私も行くわ」
アリアもまた、真剣な顔つきでルークへと名乗りを上げていた。
「アリアっ!」
お前はまたなにを考えているんだという目を向けてくるセオドアへと、アリアは絶対に譲らないという態度で真っ直ぐな視線を送る。
「アリア……、今度こそ君は大人しくしているんだ」
けれどそんなアリアへと、珍しくも真剣な面持ちになったリオの強い眼差しが向けられていた。
「ボクはもう、これ以上君を危険な目に合わせるつもりはない」
「リオ様……っ」
優しいリオからどんなに諭されようと、アリアは折れるつもりはない。
「でもっ、そういったパーティーなら、エスコートされる女性役がいた方がいいと思うんですっ」
男性数人が参加するよりも、そこに女性を連れていた方が警戒心は薄まるだろうと提案すれば、リオの瞳が迷うように小さく揺らぐ。
「……それは、そうかもしれないけど……」
それでも大切な従兄妹をそんな妖しげなパーティーに潜入させるわけにはいかないと動揺の色を見せるリオへと、もう一人名乗り出る声があった。
「だったらオレも行く」
「ユーリ!?」
「オレだってアリアが心配だ」
そう真っ直ぐ見つめてくる瞳は、"ゲーム"の中で迫り来る危機に翻弄されていたものとはまるで違うもの。けれど、だいぶ話の流れは変わっているとはいえ、アリアにしてみれば一番危険に晒される可能性があるのは他でもないユーリだ。
「でも、ユーリ……」
ユーリは魔法が使えない上、その魔力の魅力を隠すこともできない。
だから賛同しかねると言いかけたアリアの言葉を遮るように、ルイスの低い声が放たれていた。
「……でしたら、ユーリには女性役で潜入して貰いましょう」
「え……」
冗談でもなんでもなく、至極真顔で告げられたその提案に、ユーリは一瞬硬直する。
「男性三人に女性二人。バランスはいいかと」
シオン、セオドア、ルークの男性三人に、エスコートされる女性役、アリアとユーリ。
先ほどのユーリの超美少女への変身ぶりを耳にして、丁度いいとばかりにリオへと伺いを立てながら、それが嫌なら留守番で、という脅しさえかけてくるルイスに、もはやユーリも押し黙るしかない。
「~~っ!わかった!」
やればいいんだろっ、やればっ!とムキになって開き直るユーリの姿を目に留めながら、ルークの顔が少しだけ期待に赤く染まっていくのをアリアは感じていた。
「決まりだな」
その瞬間、ニヤリと確認的な笑みを口元へと浮かべた策略家のルイスへと、物申すことができる者は存在しなかった。