表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/399

運命の出逢い?

 "ゲーム"の最終目的は、魔王復活を阻止すること。

 ここ最近活発化する魔物たちの動きは、本能でそれを感じ取っているからかもしれない。

 中位魔族が姿を見せたことも、高位魔族が魔王復活に動き出したことに起因する。

 魔王には、直属の部下が四人いる。大昔の大戦でそのうちの半分は消滅したという逸話が残されているが、その残ったうちの一人が最終的な目標だ。

 そして、すでにこの時、ラスボスとなる"少年"の側近が、主をこの世に蘇らせるべく水面下で動いているのだが。


 それが明らかになるのは、まだ先の話――……。





 *****





 本来であれば、行方を(くら)ませた男の消息をまだ全力で追っているはずの時間軸。

 だから、少し気が緩んでいた、というのはただの言い訳にしかならない。

 "ゲーム"が始まった時点で、全てはエンディングへと向けて動き出しているのだから。

 ……とは言っても。

「……えっと……、……ユー、リ……?」

 なにしてるの?とは、きっと聞いてはいけないのかもしれない。

 理由など聞かなくとも、アリアはすでに知っている(・・・・・・・・)

「ア、リア……」

 顔を真っ赤にし、恐る恐るアリアの方へと振り返ったユーリは。


 ひらひらとしたレースがふんだんにあしらわれた、白いドレスを身に付けていた。


(か、可愛い……っ!)

 あまりの羞恥から瞳は潤み、どこからどう見てもか弱そうな美少女にしか見えないユーリの姿に、思わずアリアの方が赤面してしまう。

「ち、違……っ!これは……っ!」

 頼まれ、断り切れずに着てしまったのだと、しどろもどろに説明するユーリに、くすりという笑みが漏れる。

「これを着るはずの子が今日、休んでて……っ!体格が同じくらいだからって、代わりに試着を……っ!」

 どうしても今日中にサイズ合わせをしなければならなかったらしく、数人がかりで頼み込まれてはユーリの性格上嫌だと拒否し続けることはできないだろう。

 自分は男であるという意志の強いユーリだが、集団の女の子からの頼みには弱い。

 その時の様子を思い出し(・・・・)、アリアは苦笑いをする他ない。

(……このイベント、「ノー」の選択肢はないのよね……)

 一応、拒否の選択肢自体は存在する。けれど、どんなに断っても、承諾するまで話が進まないようになっているのだ。

(……現物は迫力が違うわね……)

 "ゲーム"で見たユーリはもちろん可愛かった。けれど実際目の前で生で動いて話す美少女(ユーリ)の迫力は桁違いだと思う。

 この学園にも、学生らしく、参加自由な部活動というものが存在する。

 ユーリは、演劇部のクラスメイトに頼まれて、欠席している同じくらいの背格好の女の子の代わりに衣装合わせを引き受けることになる。だが、衣装合わせはユーリだけではなく、他の女の子たちの分まである為、思わず逃げ出してしまうのだ。

(……まぁ、他の女の子たちと同じ部屋で着替える勇気はユーリにはないわよね……)

 一応、薄いカーテン一枚程度の目隠しはあったかもしれないが、それでもユーリには同じ空間にいること自体が耐えられなかった。

 近くに隠れていればいいものを、つい全力疾走でその場から逃げ出してしまうあたりが、ユーリがユーリたる所以だろう。

 そして、どうしていいかわからずにおろおろと隠れていたところを偶然アリアに発見されて今に至る――、というものなのだが。

(……これって、ルークとの初対面イベントよね……?)

「とにかく、戻りましょう?」

 一緒に付いていってあげるから、と優しく微笑(わら)い、恥ずかしそうにコクンと小さく頷いたユーリの手を引きながら、アリアはこの後の展開へ思いを寄せる。

 二十日病の折、ユーリとルークは何度かニアミスこそあったものの、実際にはまだ会ったことがない。お互い存在と名前は知っているものの、顔を合わせてはいないのだ。

(……となると、この辺りでルークが……)

 などと思っていたまさにその時。

「……あ……っ!アリア嬢!」

(ビンゴ!)

 アリアたちが向かう廊下と交わる別の廊下の向こうから聞こえたその声に、アリアは自分の推測が間違っていなかったことを確信した。

「ルーク」

 どうしてこんなところに、と、本当はもっと驚いて然るべきなのだろうが、少しだけ目を丸くしながらルークの方へと振り返る。

「リオ様に用事があって!でも、もしかしたらアリア嬢にも会えるかもしれないなぁ、なんて……」

 思ってたんスけど…と続くはずの言葉は、アリアのすぐ背後をみつめ、みるみると赤くなっていくルークの顔の前で消えていった。

「……ア、アリア嬢……。そ、その子は……?」

 目が動揺に揺れ動き、真っ赤になって口元を抑えたルークが、おずおずとアリアへと尋ねてくる。

 人が誰かに一目惚れする瞬間など、一生でお目にかかる機会などないだろう。

 そして、一瞬で生まれた恋心は、ある意味また一瞬で色を失ってしまうのだけれど。

(ど、どうしよう……?)

 やはり自分が紹介すべきなのだろうか。

 背後で自分に隠れるように身を小さくしているユーリをチラリと窺えば、全力で否定の方向へと首を振るユーリと目が合った。

 こんな格好でアリアの知り合いに紹介されるなど、穴があったら入りたい気分なのだろう。

「え、えと……、……その……、ルーク……」

 どう答えたものか返答に困ってしどろもどろになるアリアに、けれどそれがどこか聞き覚えのある名前だと気づいたのか、途端、ユーリの目がぱちぱちと瞬く。

「"ルーク"?」

「ユーリ……」

 自分の記憶を探っているのか、小首を傾げて考える素振りを見せるユーリの姿が可愛くて、アリアも困ったように笑ってしまう。

 そうなの、会うのは初めてだけど、知っているでしょう?と言うべきかどうか非常に悩む。

「"ユーリ"?」

 しかし、こちらも聞き覚えのあるらしい名前に首を捻って、虚空へとじーっと視線を留める。

 ややあって。

 二人ともアリアとお互いを交互に見遣り。

「……えぇと……、その……。お互い、名前だけは聞いて知っていると思うのだけれど……」

 おずおずと説明を始めたアリアに、ほぼ同時にパッと視線を交錯させていた。

「"ルーク"か!」

 あの!とユーリが手を打ち、

「えぇ!?"ユーリ"って、女の子だったんスか!?」

 ルークが驚愕したように目を見開く。

 しかし、その直後。

「オレは男だっ!」

 ひらひらとしたドレスの裾を大きく翻しながら堂々と宣言した美少女(ユーリ)の姿を見下ろして。

「………」

 一瞬唖然としたルークの口から。

「……えぇぇぇぇ!?」

 大絶叫が響いていた。





 *****





「それは災難だったね」

 ルークの"言い訳"を少しも気分を害した様子など見せずに聞いていたリオは、くすくすと楽しそうな笑みを洩らしていた。

 約束の時間を少し回ってしまい、ルークは焦った様子で矢継ぎ早にここまで来る過程のことを話していた。

 あの後、しっかりとユーリを演劇部まで送り届け、その採寸に付き合ってから、ついでに話があると言うルークに呼ばれるような形で、アリアとユーリは前に来た貸し切り状態のサロンへと足を運んでいた。

 ついでとばかりに呼び出されたシオンとセオドアも同席し、今はルイスが淹れたばかりの紅茶を前にしたところだった。

「……それで、例の話についてだけれど」

 ふいにリオの顔へと翳りが差し、その場の空気に緊張感が漂った。

「……なにかあったんですか?」

 その不穏な空気を感じとり、セオドアもまた顔を潜めると眼鏡のブリッジ部分を押し上げる。

 それにルークが「ちょっと時間貰って説明いいっスか」とリオに伺いを立てれば、「どうぞ」というリオの優しい同意が返ってきて、ルークはアリアへと顔を向けていた。

「……アリア嬢。前に頼まれた、例の魔物(・・・・)から採取した液体についてなんスけど」

 これについてはまた別に会う機会を作って話そうと思っていたのだと前置きし、ルークは話の先を続ける。

「アリア嬢の推測通り、アレ(・・)は、少なくともこの国には存在しない物質からできてました」

 恐らくは、闇の世界独特のもの。

「この世界にも、いわゆる"媚薬"のようなものは存在しますが、その依存性の高さと副作用のこともあり、使用は法で禁じられています」

 時偶、裏ルートで取り引きされることもあるというが、こちらの世界の"媚薬"は、"あちらの世界"でいうところの麻薬のような立ち位置だ。

「なんスけど……」

 そこでルークは一度言葉を止め、神妙な顔を益々深く曇らせる。

「……恐らく、アレ(・・)にはそれがない」

 アリアが手に入れてきた誘淫作用をもたらす液体は、依存性や副作用のようなものがないようだと推測され、ルークは難しそうな顔をする。

 人体実験をするわけにもいかない為、実際のところはわからないものの、液体を分析した分にはそう考えられるとルークは口にする。

「アリア嬢は言ってましたよね?アレ(・・)を応用して、医療用の、末期患者に投与する薬は作れないものかと。その為には、アレ(・・)は最適な活用方法だと思います」

 あの魔物と出会(でくわ)した際、アリアが考えたことは二つあった。

 一つはもちろん、今後の"ゲーム"展開の中で、コレ(・・)を元にしたと思われる"クスリ"が存在するということ。

 そしてもう一つは。

 病による痛みを訴える末期患者に対して、"モルヒネ"のような鎮痛剤を作ることができないだろうか、というものだった。

 劇薬は、良薬にも毒にもなる。

 だからこそ。

アレ(・・)には副作用も依存性もない。それでいて効能は高い。もし、これを悪用しようとしたら……」

 その先は、わざわざ言葉にされなくとも安易に想像できるもの。

「そもそも、入手自体が困難なシロモノです。ですが……」

 ここからが本題だと言外で言い含み、ルークは一度確かめるようにリオの顔を見た。それに許可を出すようにリオが小さく頷いたのを確認し、ルークは再び口を開いていた。


「最近、似たような"クスリ"が出回っている気配がします」


 瞬間、その場の空気がピリリと凍てついたのが感じ取れた。

 出所のわからないそれを、ルークの研究室が手に入れたのは本当に偶然だった。

 しかし、どんなに調べても、ソレ(・・)の出所は掴めない。

 普通には手に入らないはずのソレ(・・)

 つまり、それは――。

「……魔族が暗躍しているとでもいうのか?」

「……あくまで、憶測ですけど」

 重い口を開いたルイスに、ルークは口元を引き締める。

「……もし、ソレ(・・)を悪用するとすれば」

「闇パーティー的なもの……、……っスかね……?」

 重苦しい空気の中で交わされる二人の会話に、それを耳にしたアリアは一人心の中で叫び声を上げる。

 実は、アリアが危惧していた"媚薬"に関するイベントはまた別の話。

 今回二人の推測から出た、妖しげな闇パーティー。

 それは……。

(セオドアイベントー!)

 "シナリオ"の内容を軽く思い起こし、アリアは思わずセオドアの方へと振り返る。目と目が合い、なぜ自分が見られたのか不思議そうな顔をするセオドアの表情を確認する。

 つまりそれは。

(……まだ、危機は迫っていない、ってことよね……?)

 そもそも、今の時間軸。本来はまだ前の"mission"が続いているはずの時間帯だ。

 だとしたならば、全て間に合う。

 事件が始まるその前に、その根本から終わらせることができるかもしれなかった。

「……だが、そんな噂は聞いたことがない」

 しばらく考えた込んだ後、ルイスは今までずっと沈黙を守っていた相手へと目を向ける。

「シオン、お前はどうだ?」

 この中で一番の情報量を持つのはウェントゥス家だろう。

 導き出した推測を気のせいだと消し去ることはできないが、それでもあまりにも突飛な憶測を肯定することもできずに、ルイスは第三者の意見を伺う。

「いや、オレの耳にも届いていない」

 けれど、返ってきた答えは全てを推測へと留めるもので、ルイスは滅多に変えることのない無表情へと苛立たし気な色を浮かばせていた。

(……どうしたら……っ)

 アリアはその"答え"を知っている。

 "ゲーム"の記憶を思い出し、この悲劇を回避するために、前々から"ゲーム"の情報を頼りに集めていた多数のその他の情報がある。そして、それらを総合して導き出される、恐らくコレであろうという答えへと辿り着いている。

 けれど、それをどう不自然ではなく、誰もが納得するものとしてその過程を説明したらいいのかわからない。

(でも……っ!)

 思い出すのは、不気味に輝く赤い月。

 あの日のように、あの時の少女のように。もう、手遅れとなって哀しい結末を迎えるようなことだけはしたくない。

「……あの……っ、それなんですけど……っ」

 全員の視線が自分へと注がれるのを感じながら、アリアはきゅっ、と唇を引き結ぶ。

「一つだけ、思い当たることが……っ!」

 そうして心を決めると、意を決して口を開いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ