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count.2-4 闇の指環

 洞窟を抜けてきたことを考えると、ここは地下だったりするのだろうか。

 外からの光が一切差し込むことのない空間は、その代わり夜光石の放つ淡い光によって、幻想的な輝きを見せていた。

 松明などを照明代わりにすることもできるのかもしれないが、強制的な明るさを生み出すことが勿体ないと思ってしまうほどに、美しい夜の世界が広がっていた。

「……綺麗……」

 夜光石の蒼い光の中に、まるで宝石のように輝く色とりどりの光も見えて、アリアの口から自然と感嘆の吐息が洩れる。

 蒼く光る天然のクリスタルの中に混じる、ルビーやサファイア、アメジストを思わせるような美しい輝き。天空にも、星のような小さな光が瞬きを繰り返している。

「気に入ってくれたかしら?」

「……はい。とても」

 言葉を失くして辺りを見回しているアリアへと、自慢気なネロの声がかけられて、幻想的な光を映し込んでいた瞳が柔らかく微笑んだ。

「……すごく、素敵です」

 虚無の(みち)を抜けた先。闇の聖域とは一体どんな場所だろうと思っていたが、まさかこれほどまでに美しい世界だとは思っていなかった。

 外からの光が届かない世界だからこそ生み出すことのできる、幻想的な闇の世界。

 恋人同士で来たならば、盛り上がること間違いなしの、ロマンチックな光景だ。

「そう……。それはよかったわ」

 素直な感想を口にしたアリアへと柔らかな眼差しを向け、それからネロはギルバートを中心とした男性陣の方へと向き直る。

「これまたアタシ好みの美形がいっぱいねぇ?」

 客人一人一人の顔を吟味するかのように上から下まで眺めながら、ネロは愉しそうに口元へと手をやると赤い唇を引き上げる。

「選び放題で悩んじゃうわ」

 なにを"悩む"というのか、悩ましい声色で呟くネロへ、アリアとレイモンドを除くその場の面々の間には、なんとも言えない微妙な空気が流れていく。

「…………」

 中でも、顕著な反応を見せたのは。

(……あ。固まってる)

 ぴしり、と、石のように硬直したシャノンに気づき、アリアは冷静にその姿を観察する。

 妖精界での出来事を一通り説明され、彼らの特徴を聞いてはいても、シャノンがレイモンド以外の精霊王と会うのはこれが初めてだ。

 元々とても常識人で真面目なシャノンは、"不意打ちに弱い"という"公式設定"があるほど。

「……おーい? シャノーン?」

 その横で、アラスターが楽しそうに目の前で手を振ったりツンツンと腕を突ついたりしている様子が、なんともほのぼのしてしまう。

 そんなシャノンに、一瞬目を丸くしたネロはぱちぱちと瞳を瞬かせ、次ににっこりとした微笑みを浮かべていた。

「こっちの彼もいいけど、やっぱり貴方も素敵ね。あら、ニューフェイスのいいオトコ」

 まず改めてシオンへと顔を向け、セオドアへ笑いかけてから、アラスターの頬へと手を伸ばす。

 ルークは逃げるように一歩後方へと足を下げ、深く顰められたレイモンドの顔が苦々しげにネロへと向けられる。

「……こんな美人な方に見初めて頂けて嬉しいですけど、俺、ずっと片想いしてる本命が」

 いるんです。と、瞬時にネロへと笑顔を返したアラスターに、それを告げられたネロではなく、アリアの方が一瞬固まった。

(っ! えぇぇ――!?)

 もちろんそれは、遊び慣れしたアラスターが女性(・・)を躱す為の嘘も方便に違いない。

(やっぱりシャノン!?)

 だが、何処かでそれは理解していても、アリアの脳内では「ずっと幼馴染み(シャノン)に片想いしていた"メインヒーロー(アラスター)"」の妄想――、否、"ゲーム"の"アラスタールート"が繰り広げられていく。

 悪友となるはずのギルバートと同族で、気障で軟派で女好き、が"公式設定"のアラスターだが、こんな場面でも卒なく女性(・・)を躱せてしまうところが少しだけ二人の違うところだ。

「……あら? そうなの?」

 あっさりと振られても、長い睫毛をぱちぱちと瞬かせる程度には、ネロもまた遊んでいる。

「残念ねぇ……」

 わざとらしく肩を落とし、ネロは最終的にギルバートの元へと近づいていく。

「もちろんギルバートが一番だけど」

「断固として辞退する……っ」

 そっと腕に触れ、ハートマーク付きのウィンクを投げられたギルバートは、すぐにネロから距離を取る。

「アタシと貴方の仲でしょう? 冷たいわねぇ~」

「どんな仲だよ……っ!」

 頬に手をやり、大袈裟な仕草と口調で吐息を吐き出すネロに向かい、ギルバートが一歩身を引いた。

 それを面白そうに眺めつつ、ネロはにっこりと意味深な笑みを浮かべていた。

「闇魔法で繋がった深ぁい仲」

「……っ」

 未だギルバートが闇魔法を使うことのできている理由がネロにあるという話を聞いてしまえば、二人の間に見えない絆があると言われても瞬時には反論できなくなる。

 悔しげに唇を噛み締めたギルバートへと、ネロはさすがに苦笑する。

「冗談よ、冗談。……まぁ、嘘でもないけど」

 闇の魔力(ちから)を与えている以上、全てを否定するわけにはいかないが、それでもそういった意味(・・・・・・・)においては白い関係だとからかうように笑い、だが、最後にはやはり余計な一言を残すことは忘れない。

「……ネロ。いい加減にしろ」

 そこで、さすがに見て見ぬふりができなくなったらしいレイモンドが、眉間に皺を寄せてネロを見た。

「いやぁねぇ~。交流を深めてるだけなのに」

 それも大切なことでしょ? と首を傾けるネロからは、「ホント堅物なんだから」とでも言いたげな表情が窺える。

 確かに指環に認めて貰うためには、闇の精霊王であるネロからの好感度(・・・)も大切なものかもしれないけれど。

「だからといって時間は惜しい」

 こちらもさすがに焦れたようにシオンが鋭い瞳をネロへと向けるのに、ギルバートも目だけでそれに同意すると口を開く。

「さっさと案内して貰えるか?」

 そんな会話を繰り広げていると、アリアの視界の端で、シャノンがようやっと我に返った様子が見て取れた。

「せっかちねぇ~」

 ネロはやれやれと吐息を(こぼ)し、くるりと服の裾を翻す。

「こっちよ」

 付いてきて。と振り向くネロに、ギルバートは密かに緊張の息を呑んでいた。

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