閑話休題3 ~人物紹介~
毎週末妖精界へと行っていた為か、"仮初めの指環"の魔力が枯渇気味となり、今週は"充電"ならぬ"充魔期間"となっていた。今までであれば次の週末までレイモンドへと戻しておけばなんとかなっていたのだが、やはり少しずつ効能が薄れてきてしまっていたらしい。
すでに4つの指環は手元にある。次へとどうしても焦ってしまう気持ちが沸き、もう"仮初めの指環"などなくてもなんとかなるかと思いかけたものの、次なる目標は厄介で御しにくいとされる"闇の指環"だ。戦力は少しでも多い方がいいと言われれば、万全の体勢を整えざるを得なくなる。アリアとて、万が一にも失敗して二度手間になるようなことは避けたかった。
「アリア」
友人への誕生日プレゼントを購入する為に、珍しくも一人で王都の街中を歩いていたアリアは、背後からふいにかけられたその声に振り返り、驚いたように目を見開いた。
「! リヒト……!」
「久しぶり」
そこには、片手をポケットに突っ込んだまま、ひらひらと手を振ってくるリヒトの姿。
その歩き方は、リオのように洗練された優雅さはないというのに、それでも何処か"モデルウォーク"のような綺麗な空気を滲み出す。
気づけば遠巻きに若い女性たちがリヒトをみつめて頬を染めているのに、さすがは「3」の"メインヒーロー"だと感心してしまう。
だが。
(! 誰かに見られたら……!)
はっとして慌てて辺りを見回したアリアのその反応に、リヒトは一瞬不思議そうに目を丸くすると、次にはくすりと可笑しそうな笑みを刻む。
「大丈夫だ」
「え?」
一体なにが大丈夫なのかと、きょとんと見上げられる大きな瞳に、リヒトは飄々と口を開く。
「見張りの人間なら撒いたから」
「…………。……っえぇ!?」
告げられた言葉の意味を呑み込めずに、沈黙すること約五秒。理解して、リヒトの顔をみつめたまま、アリアは驚きの声を上げる。
「今のうちだ」
こっちだ。と軽く手を取られ、アリアは引っ張られるようにしてそのままリヒトに付いていってしまう。
アリアも見張りの存在を知ってはいても、その気配までは感じられていないというのに、どうやってリヒトがそれに気づいたのか。そして、気づいたとしても、"撒く"とはどうやったのか。
"トップアイドル"設定のリヒトだから、"ファン"から身を隠したり"スクープ記者"を撒いたりは得意分野なのかと、ぐるぐると取り留めのないことを考えているアリアへと、唇の端を引き上げたリヒトが振り返ってくる。
「あれからどうなったのか教えろよ」
その姿は、やはり"ドラマのワンシーン"のように様になっていた。
*****
アリアがリヒトにこれまでに得た情報を説明している頃。シオンは、相変わらず押しかけてきていたユーリと共に自室にいた。
「シオン! アリアの居場所がわかる!?」
と。瞬間移動で突然現れたリオの姿にユーリが目を丸くして、シオンは一瞬にして険しい表情になる。
「なにかあったのか」
わざわざ瞬間移動を使ってまで性急に確かめに来るなど、尋常なことではない。リオは親しい間柄の者であれば、直接その人物の元に行くことができるが、それはある意味相手のプライバシーを欠く行為にも繋がっている。その時、相手がどのような状態でなにをしているのかわからないのだから。その為、リオが直接シオンを訪ねてくるということは、それ相応の非常事態が起こっているということだった。
「アリアがいなくなった」
「"いなくなった"?」
それは一体どういう意味かと、ユーリの眉根が顰められる。
今、アリアの行動には常に監視の目が光っている。プライベートの深いところまで見張られているわけではないが、"いなくなる"などということはありえない、
「……今は普通に街中にいるみたいだが」
額へと意識を集中させたシオンは、特段なんの不審も感じられない"アリアの持つペンダントの位置情報"に、訝し気にリオを見る。
監視の人間がうっかり目を離した隙にアリアの姿を見失った失態を、大きな騒ぎにしないで貰いたい。だが、そんなうっかりミスが起こるとも思えない。
「大体、わざわざオレに聞かなくても直接跳べばいいだろう」
「……それができればわざわざ君のところへ来たりしないよ」
男性であるシオンよりも女性であるアリアのプライバシーを配慮したのかとも思ったが、それが緊急事態ならばそんなことを言っている場合でもない。
だが、きゅっと唇を噛み締めたリオへと、シオンは益々不審そうな目を向ける。
「……どういうことだ?」
「それがわからないから焦ってる」
リオが受けた報告によれば、なぜかほんの数秒アリアの行動から意識を離した隙に見失い、その後すぐに追跡魔法のようなものを使ったというのに発動しなかったという。
引き続きアリアの姿を探すとの連絡も一緒に受けてはいるが、その後発見の報告はまだ来ていない。
ほんの一瞬でアリアを拐うことなど、それこそ瞬間移動でもない限り不可能だ。そこにはリオ以外に2人の顔が浮かんだが、さすがに彼らがそんなことをするとも思えない。
「じゃあ、別に不審な動きはなにもないんだね?」
シオンの言葉に、ならば単純にこちらのミスということになるのかと、リオはほんの少しだけ安堵した様子で吐息をつく。だが、それならば直接アリアの元まで行こうとしたリオの魔法はなぜ阻まれたのか。
「……アリアのところに行く。場所を指定するから近くに跳ばしてくれ」
どことなく煮え切らない思いに捕らわれるリオへと、シオンもまた嫌な予感を覚えたらしく、アリアの姿を確認してくると席を立っていた。
*****
今回の主要人物は。
光の精霊王、レイモンド。♂
金髪碧眼の長い髪。見た目だけであれば20代後半。
寡黙で気難しそうな雰囲気を醸し出す。
精霊王たちを纏める役目も担っている。
水の精霊王、ラナ。♀
蒼い髪、蒼い瞳。
実年齢は人間界に換算して数千歳だろうが、その見た目はまだ幼い少女。"合法ロリ"担当?(需要は何処に?)
肌に鱗のような紋様があるのが特徴的。"女王"というよりは"巫女"や"人魚姫"を思わせる。
風の精霊王、ゼフィロス。♂
少し長めの銀の髪。見た目だけで言えば同じか少し上くらい。
体つきは細いながら、服の下には筋肉を窺わせる。
片耳にピアス。胸元にはネックレス。両の手にも指輪が光る。
ナルシストなところあり?
俺様なところが垣間見える嫌味キャラ。
火の精霊王、イシュム。♂
燃えるような赤髪。褐色の肌の精悍な美青年。
胸元はしっかりと腹筋の割れた、見た目は20代前半程の男気溢れるタイプ。と思いきや、性格は"気さくなお兄ちゃん"風。
地の精霊王、ティエラ。♀
鳶色の長い癖っ毛を一つに纏めている、スタイル抜群の"大人の女性"。
頼りがいのありそうなその雰囲気は、まさに"姐御キャラ"。
茶色の瞳は"母"を思わせる慈しみに満ちている。
闇の精霊王、ネロ。性別不詳?
恐らくは元は黒髪だろう虹色の髪。
体は♂、心は♀、の"オネェ"キャラ。
恋愛対象は男性らしいので、複雑ながらも期待大。
光と闇の関係だからなのかはわからないが、レイモンドと確執あり?