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運命までのカウントダウン

 妖精界へと繋がる扉の近くには、最近、ドーム状の白いガゼボが建てられていた。

 リオに誘われるようにしてその中に入ったアリアは、リオの隣でギルバートと向かい合うようにして座っていた。

「それで? レイモンド王とはどんな話を?」

 今日この場に集まったのは、前回アーエール家のパーティーに呼ばれた面々だ。

 リオがギルバートへとそう問いかけるのに、各々(おのおの)ガゼボを囲むようにして耳を傾ける。

「具体的な話まではまだできていない」

「できていない……?」

 魔王封印に関してレイモンドはどんな見解を出していたのだろうと緊張感を滲ませていたリオは、ギルバートのその言葉に思わず眉を顰めてしまう。

 協力の約束を取り付けてきた以上、ある程度魔王封印への道筋が見えているのかと思っていたが、これでは期待外れだ。

「あっちとこっちの世界じゃ時間の流れが違う。あっちであまり長話をするべきじゃない」

 だが、至極真面目にその理由を返されて、リオは表情を変えないまま頷いた。

「……まぁ、確かに」

 あちらの世界で過ごす1時間は、こちらでは数時間にもなってしまう。

 少しの時間も惜しいという時に、妖精界にあまり留まるべきではない。ゆっくりと話をするのなら、人間界(こちら)でするべきだろう。

「だから、わざわざこの場所を指定したんだ」

 妖精界へと繋がる扉の程近く。今日の集合場所を指示したのは、リオではなくギルバートだった。

「向こうから来てくれるという約束は取り付けてある。今から迎えに行っ……」


「その必要はない」


 瞬間、扉が光ったかと思うと長身の影が現れて、全員の視線が集中する。

「……レイモンド王」

「お前たちの行動は妖精たちから報告を受けているからな」

 王宮に姿を現す妖精たちは、常に妖精界と人間界を行ったり来たりしているらしい。どうやらギルバートたちがここに集まっているという話を聞いて、わざわざ足を運んでくれたらしかった。

「……アリア……、といったか」

「っはい」

 ガゼボの方へと歩いてきたレイモンドから窺うような目を向けられて、アリアは反射的に姿勢を正す。

「……」

 じ……っ、と自分をみつめるその双眸は、なにを考えているのか、表情の変わらないその顔からは読み取れない。

「……?」

「……いや、なんでもない」

 ぱちぱちと瞳を瞬かせるアリアから、ふ……っ、と視線を逸らしたレイモンドは、譲るように腰を上げたギルバートに促され、空いたその席へと腰を下ろしていた。

「ギルバートから簡単に話は聞いてある。そなたを助けたいと……」

 リオとは反対側の、アリアの隣に座り直したギルバートへとちらりと視線を投げ、レイモンドは真剣な眼差しを向けてくる。

「……そなたには、妖精界を救って貰った恩義がある。我々にできる限りの協力はしたいと思っているが……」

「なにか問題が?」

 そこでふと言葉を濁したレイモンドに、リオが眉を顰めさせる。

 ギルバートがアリアの隣にいることを、さすがに口に出すことはなくとも内心快く思っていないシオンもまた、ガゼボに背中を預けながらぴくりと蟀谷(こめかみ)を反応させていた。

「我々の世界はやっと復興を始めたばかりで、本来の姿を取り戻すにはまだまだ時間がかかる。こちらの世界の時間に換算すればそれはなおのこと」

「っ」

「妖精界に本来の魔力(ちから)が満ちるまでは永い時間(とき)を必要とする。魔王復活までにとても間に合わないだろう」

 目を伏せ、小さく肩を落としたレイモンドへと、辺りへ緊張感が広がっていく。

 協力は惜しまないという気持ちに嘘はないが、現状、妖精界の魔力(ちから)はまだまだ微弱だった。妖精界と人間界が共にあった頃のように力を合わせて魔王に立ち向かうことは、今の状態ではとても難しい。

「……だが、我々六精霊の魔力(ちから)を得ることは可能かもしれない」

 そこでレイモンドは再度顔を上げ、前に座るリオを真っ直ぐ見据えていた。

「あくまで可能性の問題だが……」

 過去とは違う形で共闘することはできるかもしれないと難しそうな表情(かお)を浮かべるレイモンドへと、リオは窺うような目を向ける。

「それは、どのように……?」


「指環に、魔力(ちから)を与えて貰いたい」


(――――っ!)

 こうやって話が繋がるのかと、瞬間、アリアは表情に出すことはなく、一人心の中で大きく目を見張る。

 アリアの中にある、数少ない"続編ゲーム"の知識の一つ。

 "ゲーム"の中で、魔王復活に対抗する手段として出てきたのが、妖精界の六つの指環の存在だった。

(……やっぱり、もう続編は始まってる……)

 覚悟をしていたとはいえ、いざその現実を突き付けられると、心臓がドクリと嫌な音を立てて脈動した。

 今までと違い、多少の知識はあったとしても、"未プレイ"の"ゲーム"の流れはなにも知らない。

 この先いくつもある選択肢の中から、"ハッピーエンド"へと繋がる答えを一つずつ見つけていかなければならない。なにもわからないまま一歩足を踏み出すことは、真っ暗闇を手探りで進んでいくような恐ろしさと不安があった。

「妖精界に在る、各々(それぞれ)の属性を持つ指環は、元々は我々精霊王が魔力を使う際の補助的な役割をするもので、これ自体に魔力が備わっているものではない」

 ドクドクと高鳴る心臓の音がうるさかった。

 今までと違い、知らない知識と情報を一つでも聞き逃してはならないと、アリアはレイモンドの説明に真剣に耳を傾ける。

「だが、この指環を通して我々の力を得ることはできるはずだ」

 六つの指環を集め、その力を使って魔王に対抗する。それが、"ゲーム"の大まかな流れになっている。

 だからきっと、レイモンドのその考えは正しいに違いない。が、それだけで話がとんとん拍子に進まないのが"ゲーム"における鉄板だ。


「……彼奴(きゃつ)との闘いで、光を失ってさえいなければ」


 妖精界を滅亡寸前にまで追い込んだ災厄の存在を思い浮かべたのか、苦渋の表情を浮かばせたレイモンドが悔しげに唇を噛み締める。

 「禁プリ2」の"ラスボス"。ギルバートの両親の仇でもあるアルカナとの過去の闘いで、精霊王たちと共に、指環もまたそこに込められた魔力(ちから)を使い果たしてしまっていた。

 ただ指環を得るだけであれば、すでに協力を約束してくれている精霊王たちは、快く指環を渡してくれるだろう。そう上手くいかないようにできているからこそ、"ゲーム"は成り立っているのだ。

「……それは、すぐに取り戻すことができるのか?」

 ギルバートの真剣な問いかけに、レイモンドは相変わらず感情の見えない冷静な顔で口を開く。

「こちらも、本来は時間をかけて少しずつ周りの魔力を吸収していくことによって輝くものだ」

 指環そのものは、自ら魔力を生むものではなく、妖精界に満ちた各々(おのおの)の属する魔力を吸収することによってその力を発揮するものだという。

 一度(ひとたび)輝きを取り戻せば、精霊王たちが己の魔力を増幅する為に使用する分には早々枯渇することはないというが、今はすっかりその光を失ってしまっていた。

「それに強制的に光を与えることは我々には難しい」

「だったら……!」

 力のない指環などなんの意味があるのかと身を乗り出しかけたギルバートをレイモンドは目で制す。

「我々には難しいが、お前たち人間であれば可能になるかもしれない」


 ――『指環に、魔力(ちから)を与えて貰いたい』


 そこで話が始めに戻るのだと、レイモンドは最初の言葉の意味を説明する。

「指環は、各々(おのおの)の聖域の奥に納められている。試練を乗り越えたその先に、きっと光は見えるだろう」

 アリアにしてみればこれは完全に"ゲーム"のご都合主義としか思えないが、妖精界と人間界における魔力の在り方は少し異なるらしい。

 アリアたち人間は、己の中にある魔力を外へと放出する際に、別次元にある妖精界から力を借りることによって"魔法"として形あるものに具現化している。だからこそ、妖精界との関わりが断絶されて以来、人々の魔法力は時と共に弱まっていったのだ。魔力に満たされた妖精界と違い、人間界自体には特殊な場所を除いて魔力そのものはないという。

 一方、妖精たちや精霊王は、世界に満ちた魔力を操ることによって"魔法"を生み出している。

 それらの違いが結局どう関わってくるのかはアリアには理解できないが、ようするに、精霊王たちには無理でも、人間である自分たちであれば指環に力を与えることができるということになるのだろう。

(……つまりは、"ゲーム"のご都合主義よね)

 指環を集めることに、"ゲーム"性を持たせる為に作られた、都合のいい理由付け。

 心の中で嘆息し、アリアはレイモンドの話に耳を傾ける。

「とはいえ、我々の世界とこちらとでは流れる時間の在り方もまた違う。我々の世界に居ても、人間(ひと)の身体は人間界の時間に縛られたままだ」

 指環に力を与える為に妖精界へと長居すれば、その(かん)人間界の時間は進んでいき、身体へは疲労が溜まっていく。妖精界で1日を過ごすということは、人間界で何日も眠らずに動いているようなもの。

 それを正確に理解しているからこそ、ギルバートはレイモンドと最低限の話をしただけで、人間界(こちら)へと戻ってきていたのだ。

 指環を得る為に使える時間はかなり少ない。完全に時間との闘いだ。

「……かなり厳しい条件だ。魔力で抗うとしても、寿命を縮めることにもなりかねない」

 倍速で溜まる疲労を誤魔化すことは、生命力を削ることにも繋がると告げてくるレイモンドへと、それでもこの場で躊躇う者などいなかった。

「そんなことは構わない」

 強い意志を讃えた瞳を返すギルバートに、各々が無言で同意する。

 と。

「だったら、それは僕の役目だね」

 不意に地面が輝いたかと思えば、聞き覚えのある声が聞こえ、アリアは驚いたようにそちらへと振り返っていた。

「っ! ルーカス!?」

「仲間外れは寂しいなぁ……? 僕も仲間に入れてくれる?」

 くす、と意味もなく意味ありげな笑みを口元に浮かばせながら現れたのは、ここ最近師団長として多忙を極めていたルーカスだ。

「先生……」

 シオンの隣でユーリは大きな目を瞬かせ、こちらに向かって歩いてくるその姿を眺め遣る。

「君たちはまだ未成年で学生で。本来であれば守られるべき立場の存在だ」

 ガゼボの出入口手前で立ち止まったルーカスは、ぐるりとその場にいる面々を見回すと、最後にリオへと目を向ける。

「危険が伴うのなら、それは魔法師団長の僕が務めるのが当然だろう?」

 この国を守り、危険な場面で第一線に立つのは本来自分の役目だと言って、ルーカスはくすりと愉しげな笑みを溢す。

「まだまだ君たちには負けないよ?」

 ルーカスは"天才魔道士"だ。元々の才能はもちろんのこと、積み重ねてきた経験値は、ここにいる誰よりも上を行く。誰か一人を選ばなくてはならない状況が訪れたなら、確かに一番の適任者はルーカスになるだろう。

「……ですが、師団長には歪曲空間(ワームホール)の消滅と、魔物討伐の任務が……」

 リオの後方。全面的に承諾することは難しいと眉を顰めたルイスは、向けられた意味深な微笑みにそのまま言葉を飲み込んだ。

「だから、せめて最初の様子見だけでもね? その間は部下たちに頑張って貰うか、難しいようなら手を貸してやってくれると有難いんだけど」

 指環に魔力(ちから)を与える為に、なにを求められることになるのかわからない。つまりは、どんなことが起ころうが臨機応変に対処できるだけの能力(ちから)が必要だ。

 一つ目の指環を手にすることさえできれば、なんとなくの勝手はわかる。

 だからこそ、最初の対応は重要で、その責務は自分が負うと告げてくるルーカスに、誰からの反論の声も上がる様子は見えなかった。

「師団長として、君たちを未知の世界の最前線に向かわせるわけにはいかない」

 きっぱりとそう言い切ったルーカスに、全員の意識がリオの方へと向けられる。

「……そうですね」

 いろいろと考えを巡らせているのであろうリオは、少しの逡巡(しゅんじゅん)の後、決断を下すべく顔を上げる。

「お願いできますか?」

 経験値、魔力量、技術の他にも咄嗟の時の判断能力。どれをとってもルーカスは"天才"の名に相応しいだけの実力を兼ね備えている。

「もちろん」

 それを受け、ルーカスは不敵な笑みを浮かべていた。

呟きという名の悩み事。


レイモンド→アリアの「そなた」呼びに頭を悩ませております。……私の中ではレイモンドはプライドの高い人だからいいかしら……?とも思ったり。

「貴方」の使い方も同様に常に悩んでいます(苦笑)。リオ→レイモンドはあり(対等?)、だと思いつつ、リオだしなぁ……(悩)、と。

ルイス→リオは、ちょっと本性覗いている(てい)で……?(苦しい……?)

日本語って難しい……!(涙)

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