家族の絆
もうすぐ陽が真上に昇ろうかという次の日。シオンと共に自宅の玄関ホールへと現れたアリアを、パタパタと急いで出迎える姿があった。
「アリアちゃん……っ!」
「アリア……ッ」
切羽詰まった様子で顔を青くしているアレクシスと共に、一度娘の前で足を止めたアリアの母親は、そっとその身体を抱き締める。
「……お話はお父様から聞いたわ。……大変……、だったわね……?」
「……お、母様……」
ぎゅっ、と自分を抱き寄せるその身体から僅かな震えが伝わってきて、父親の口から家族へ全てが伝わっていることを知る。
普段はふわふわとした砂糖菓子のような雰囲気を纏っているものの、それでもこんな時はしっかりと"母"の強さを見せるアリアの母親は、気丈にもシオンへと真っ直ぐな瞳を向けていた。
「……シオン様も……」
アリアから少しだけ身体を離し、丁寧に頭を下げる。
「ありがとう……、ございます……」
「いえ……」
大切な娘を連れ出し、結婚の意思を見せたシオンのそれらの行動の意味を、アリアの母親は正確に理解しているのだろう。
全てを棄ててもアリアを守ろうとしたシオンの姿に感謝の気持ちを口にして、それから娘の腕に触れた指先へとぐっと力を込めていた。
「アリアちゃんは何処にもやらないわ……!」
そう宣言し、強い光を宿すその瞳は、娘であるアリアとよく似ている。
「……お母様……」
そんな、今まで見たことのない母親の姿にアリアは思わず目を見張り、シオンは一歩前へと踏み出していた。
「必ず、守ります」
アリアの肩をそっと抱き、シオンもまた揺るぎない意志の込められた瞳を向ける。
「シオン……」
「信じて……、任せて貰ってもいいですか?」
思わずその横顔を見上げたアリアの隣で、ぐっと腕に力を入れたシオンは、真っ直ぐそう告げていた。
「……シオン様……」
必ず、守る、と。
心の底から。本気で言っていることがわかる真剣なその瞳の色に、僅かに目を見張ったアリアの母親は、次にくすりとした少しだけ曖昧な笑みを溢す。
「……さっきの、訂正しなくちゃね」
「お母様?」
なんのことかと不思議そうに向けられる双眸に。
――『アリアちゃんは何処にもやらないわ……!』
「……アリアちゃんが、お嫁さんに行くまでは、ね?」
せめて、それまでは"親"としての役目を果たしたいと悪戯っぽく笑う母のからかいに、こんな時だというにも関わらず、アリアは思わず顔を赤らめてしまっていた。
「……っ、お母様……っ」
こんな時だからこそ、緊張感の漂う空気を少しは明るくするべきだろう。
娘の反応にくすくすとした笑みを溢せば、穏やかな雰囲気が戻ってくる。
だが、そんな母と娘の可愛らしい姿を黙って見守っていたアレクシスは、妹の婚約者へと厳しい目を向けていた。
「……本気、か?」
信じて、任せて欲しいと言った。
必ず、守ってみせると。
その言葉に縋りたい気持ちはあるが、頭の奥にある冷静な思考回路が、そんなことなどとても無理だと告げてくる。
――王と、五大公爵家と。この国の最上層部が「敵わない」という判断を下した災厄を。
そこからアリアを救い上げることが、いくら"天才"と名高いシオンであっても、まだ成人すらしていないただの一公爵家子息に、できるとは思えなかった。
「アリアのいない世界など、オレにはなんの意味もない」
誰もが諦めてしまうであろう絶望的な現実で、一点の曇りもない瞳できっぱりと言い切ったシオンへと、アレクシスは思わず息を呑む。
「守り抜いてみせます」
力強いその宣言に、希望を見出だしてしまう。
「…………任せて……、いいのか……?」
無言で返された強い瞳は、一切の迷いも恐怖もない。
思わず身体を震わせて、アレクシスはぐっと拳を握り込む。
「……アリアを、頼んだ」
その強さは、一体どこから来るというのだろう。
それが愛だというのなら、認めざるを得ないと感じながら、アレクシスは憎らしい妹の婚約者へと真っ直ぐな向ける。
「言われなくても」
そこには、ただ、誓いしかなかった。
突然ですが、シリアス続きに溜まって溜まって仕方のない、ストレス発散の呟きです。
(微かなネタバレが入るので、お付き合い下さる心優しい方のみ)↓↓
早くアリアが精霊王に押し倒されるシーンが書きたぁぁーい!!(ちゃんとR15です)
以上!(笑)