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悪夢の始まり 1

 アリアとリヒトの会話が盛り上がりをみせていたその頃。ルイスの実家であるアーエール家では、定期的に開催されるパーティーが幕を上げていた。

 将来の皇太子妃であるマリーベルの生家であり、伝統と格式を重んじるアーエール家が主催するパーティーは、常に音楽家たちが格調高い生演奏を奏で、品格のある雰囲気を醸し出していた。

 毎回必ず招かれる上位貴族に、その時々によって入れ替わる招待客と、その顔ぶれは常に一緒というわけではないものの、今回に限ってはいつもと少しだけ様子が違っていた。

 アーエール家の次期当主であるルイスが魔法学校を卒業したということで、いつもより少しだけ緩い形式となったパーティーに、その友人たちが招かれていたからだ。

 ルイスの顔の広さを表すかのように、その友人たちは高位貴族だけに留まらず、子爵家の令息から一般人にまで及ぶ。五大公爵家からは、シオン、セオドア、ルーク。魔法学園での後輩であり、シオンの婚約者であるアクア家の令嬢が呼ばれなかったのは、一応異性であるからだろうかと推測されていた。そして、ピアノの独奏者として呼ばれていたのは、将来を期待されているノア。子爵家からは、シャノンとアラスター、そしてギルバートまでが招待を受け、もちろんユーリも顔を揃えていた。

 だが、それらはみな、なるべく不自然ではない形でアリア以外の近しい人間を集める為の偽装工作であることを、シオンを始めとしたメンバー全員が薄々と勘づいていた。アリアは、五大公爵家からシオンたち男性陣が招待されていることや、アーエール家お抱えの演奏家仲間であるノアが呼ばれていることは知っているが、他の面子がこの場に顔を揃えていることまでは知らされていない。

 ルイスからの招待の裏に在るのはリオの存在だ。わざわざ直接招待状を渡してきたルイスから、内密で話したいことがあると耳打ちされれば不審を覚えて当然だ。しかも、「異性だから」という理由があるにしても、アリアだけが呼ばれずに、ギルバートたちに限っては招待を受けていること自体の箝口令が敷かれているともなれば、益々(ますます)何事かと思ってしまう。

 マリーベルの婚約者として参加しているリオが、いつも通りの柔和な微笑みを浮かべているように見えて、よくよく見れば何処か顔色が悪いように感じられるのも、妙な胸騒ぎを覚えさせられていた。

「……解散になったら、一度帰った振りをして戻ってきてくれ」

 挨拶をしに来たと見せかけて、ルイスがそっと指示を出してきたのに、シオンの顔はしかめられ、ユーリも事情が飲み込めずに目を見張る。

「人目があって難しいようであれば、リオ様が直接迎えに行ってもいいと言っている。この件は先にギルバートに話を通してあるから、彼に協力を仰ぐことも可能だ」

 後は個人個人で判断してくれ。というルイスの潜めた声は、今回呼び出された面子全員に言って回っている内容なのだろう。

 そこまで周りの目を気にして一体なんの話があるのだろうと、ユーリはごくりと息を呑んでいた。





 *****





 アーエール家の客間の一室。人目を忍ぶようにして集まった顔ぶれへ、リオは何処か疲れた微笑みを向けていた。

「今日は集まってくれてありがとう」

 ぐるりと全体へと顔を向け、それから傍に仕えるルイスの方へと振り返る。

「ルイスも、いろいろと根回しをさせてしまって申し訳なかったね」

 今回、このメンバーを集める段取りを組んだのは全てルイスだった。背後にリオの存在があることには薄々気づいてはいても、これまでのようにリオから直接求められた集まりではない。

 ルイスを隠れ蓑にした招致には、みな妙な緊張感を覚えていた。

「いえ……。それよりも、一体どうなさったのです」

「……?」

 ルイスのその質問に、他の面々は顔をしかめたり軽く目を見張ったりの反応をし、驚いたような様を見せる。

 いつだってリオは、側近であるルイスにだけは先行して事情を話していた。それが、今回に限ってはルイスさえなにも聞かされていないとなれば、益々(ますます)嫌な予感に襲われていく。

「最近の貴方はずっと思い詰めた様子でいらっしゃいましたから、とても心配しておりました」

 ルイスのその言葉からは、これでやっとリオの隠し事を聞くことができるのだという多少の安堵が見え隠れしていた。

「なにがあったのですか」

「…………」

「リオ様」

 それでもまだなにか悩むように沈黙したリオに向かい、少しだけ焦れたようなルイスの声がかけられる。

 仕える(あるじ)第一のルイスにとっては、ここ数日のリオの様子は、それだけ焦燥を感じるものだったのだろう。

「……わかってる。君たちに全て話す為にわざわざルイスに段取りを組んで貰ったんだ。ボクがただ、言葉にするのが怖いだけで」

 話さなければならないことだとわかっていても、言葉にするとそれが現実のものになってしまいそうで。

 言葉(くち)にすることで形になる、言霊(ことだま)の力は恐ろしい。

 それでも。

「……一体なにが……」

 一体なにが起こっているのかと困惑に瞳を揺らめかすセオドアへ、リオは身体の横でぐっと拳を握り締めていた。

「……これは本来であれば、皇太子であるボクですら知らないはずのことだ」

「――――っ!?」

 であるならば、自分たちが知ってはならないことなのではないかと、ルイスの瞳が珍しく驚いたように見開かれる。

「……リオ様、それは……」

「ボクが将来の王となることを見越して、お祖父様や王が特別な判断を下して話してくれた」

 それはきっと、国の最上層部しか知ってはならないことで、なぜそれをここに集めたメンバーへ話そうとするのかと、ルイスの戸惑いの目が向けられる。

「リオさ……」

 恐らくは、主に語らせてはいけないことなのだと悟ったルイスが制止の声を上げかけるも、すでに話すことを決めていたリオの意思は固かった。

「君たちに話したことが知れれば、ボクは廃太子とされるかもしれない」

「っ! そんなことを……っ!」

「その覚悟の上で、君たちに話すことを決めた」

 咎めるルイスの動揺の声にも迷うことなく、リオはきっぱりと宣言した。

「だから、その時(・・・)が来るまで、できれば君たちも知らない降りをしてくれると有難いんだけど……」

 リオがこのこと(・・・・)を知った直後にこの面子を呼び出したともなれば、情報を洩らしたのではないかと疑われる可能性が高かった。だからアーエール家のパーティーを隠れ蓑にして、王宮ではなくルイスの家で、ひっそりと集まって貰ったのだ。

「もちろんです……!」

その時(・・・)……?」

 約束は守ると即答するルークの一方で、離れた位置ではアラスターが眉を寄せて訝しげな表情(かお)になる。

「……もっとも、時がきたところで公爵家止まりだろうけどね」

 リオの言っていることはよくわからないが、元々リオでさえ知らないはずの情報だ。開示されたとしてもそれは国の上層部に対してのことで、一般人はもちろんのこと、中層以下の貴族の耳にも入ることはないのだろう。

「一体なんなんだよ」

「勿体ぶらずにさっさと話せ」

 なかなか本題を切り出さないリオへと、ギルバートとシオンがその声へと苛立ちを滲ませる。

「…………」

 落ちる沈黙。

 室内へと緊張感が漂う中、リオはきゅっと唇を噛み締めて、誰とも目を合わせることなくゆっくりと口を開いていた。


「……魔王が、復活する」

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