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夜闇に迷う

(……せっかくの校内デートだったのに……)

 後夜祭も終え、日も変わろうかという時間帯。昼間の出来事を思い出し、アリアは自室の机に向かって大きな溜め息を吐き出していた。

 リヒトとの会話で思い出した、「2」の続編と「3」の存在で頭がいっぱいになり、シオンとのデートを楽しむどころではなくなってしまっていたのだ。心ここにあらず状態で隣を歩く少女へと、シオンからは始終訝しげな瞳が向けられていて、その度にアリアは誤魔化し笑いを返すことしかできずにいた。そんなアリアにまたなにを考えているのかと諦めたような溜め息を吐き出していたシオンだが、そのうちきっちりと追及されるに違いない。その時はどうしたらいいのだろうと思えば、隠し事が苦手な自分に頭を抱えたくなるアリアだった。

(……本当に、続編が始まるの……?)

「1」も「2」も、各々(それぞれ)の"ルート"において、結末こそアリアの知るものとは変わったものの、基本的な話の流れはそのままだった。

 つまり、このままいくと、「2」の続編が展開されることになる。

(妖精界と、魔王復活……?)

 "プレイ"した記憶はない。だが、すでに配信されていた続編の内容そのものはチェックした記憶があった。

(……確か、六人の精霊王から指輪を貰い受ける話とかなんとか……)

 いわゆる続編の"攻略対象者"に該当してくるのは六人の精霊王。ただし、そのうちの二名は女性だったように記憶する。

「1」も「2」も、最初から攻略可能な"メイン対象者"は5人。"男女ノーマルエンド"や"隠し攻略対象者"がいるかもしれないことを考えると、続編はこの辺りで落ち着いたということだろうか。

(っ! そうよ……! 違うわ! そうじゃない……!)

 集中して考え込んでいるうちに少しずつ記憶が甦ってきて、アリアはハッと顔を上げる。

(続編は恋愛要素がないからファンの間で揺れたんじゃない……!)

 続編は、「2」の流れを汲んで、"主人公"はシャノンのはずだった。

 だが、続編はこれまた「1」から見た「2」の時の世界観と同じで、あくまで「if」の物語だとされていた。

 なぜなら続編は、「1」と「2」のメインキャラクターたちが共闘するのだ。

 各々(それぞれ)の"ゲーム"で誰かしらの"攻略対象者"と結ばれたはずの"主人公"が、また他の誰かと恋に堕ちるというのは波紋を呼ぶ。

 その為、恋愛要素は全てリセットされた上で、誰とも恋愛的発展をすることなく、ただ「1」と「2」の話を補完するだけ、という"ゲーム"内容だったのだ。

(だから、ファンの間では賛否両論で……)

 アリアのように「1」も「2」も両方好きだというファンは、このコラボレーションに歓喜した。だが、その為に登場人物が多くなり、さらには新たに六人の精霊王まで加わることになる。

 "限定版"ということで、続編は前二作品に比べてプレイ時間は半分以下。にも関わらず主要人物は約3倍で、なんとなくごちゃごちゃするイメージが拭えない。その上艶めいた"イベント"を売りにしてた「禁プリ」の続編のくせに"18禁BL恋愛要素"なし。

 これにはファンの間で評価が完全に割れて当たり前だ。

 製作者側からしてみれば、「1」の魔王復活に対する匂わせと、「2」の精霊王たちの話を補完する為の苦肉の策だったのかもしれない。各々(それぞれ)の"主人公"を出しながら、精霊王を含む"メインキャラクター"たちと恋愛させることは無理がある。「if」を銘打つならばいっそ開き直ってしまえばいいとも思うのだが、そこは二作品のファン心を考慮しての結論だろうか。

 とはいえ、評判に反して売り上げは悪いものではなく、"ゲーム"で"18禁イベント"がなかった分、"腐女子"のタフな妄想力によって"同人界"に火が付いているというような噂を"ネット"で目にした記憶もある。

(……まぁ、確かに、ファンからしてみれば"主人公"が2人がいて、恋愛対象者が三作品に渡るともなれば混乱するわよね……)

 新たに加わった精霊王たちと"主人公"のどちらかのカップリングを脳内妄想するファンもいるだろう。中には、これ幸いと「1」も「2」も関係なく入り乱れたカップリングを作る腐女子もいる。だが、大体のファンはアリアのように、「1」は「1」、「2」は「2」の中で恋愛して欲しいと思う者がほとんどだ。

 続編の存在は、そんな風にかなりの物議を醸し出していた。

 だからだろうか。次回作である「3」が、異世界ファンタジーものからがらりと変わって現代編になったのは。製作者側も「1」と「2」の世界観はここまでだと思ったのかもしれない。

(なのにどうして「3」の"メインヒーロー"がこの世界に登場するの……!?)

 もう、わけのわからない展開だ。もし本当に制作途中の段階だというのなら、そのせいで応用が効いてしまったということなのか。

 リヒトも言っていたが、アリアの記憶の中でも「3」の"主人公"はまだ公開されていない。発表されたのは、"メインヒーロー"であるリヒトを含む友人3人の"キャラクターデザイン"のみ。

(……"友人"というよりも、確か……)

「今度は現代編!」を銘打っていた"ゲーム"の簡単な紹介文を思い出し、アリアは少しずつ頭が痛くなってくる。

 詳細は全く明らかになってはいないが、その内容は「5人の"アイドル"と恋愛する」というものだった。"主人公"の立ち位置はわからない。ただ、前二作品のことを考えると、やはり美少年であることには間違いないだろう。

(……しかも、「超鬼畜」って書いてあったような気が……!)

「禁プリ」の一作品目が注目を浴びた理由。それは、「1」の"主人公"であるユーリが闇の者に非道の限りを尽くされるという点が、かなり「鬼畜」だと評価された為だ。"メインヒーロー"であるはずのシオンとのアレコレですら、最初は無理矢理・強引だ。

 一方、「2」は、それに対して「王道」な"恋愛ゲーム"となっていた。

「1」でやり過ぎた結果、「2」は路線変更で王道モノにしたのかもしれないが、「1」の本気のファンだという者には、それが物足りないという印象を受ける結果となっていた。

 それが今度は初心に返り、「超鬼畜」路線に戻ったということだろうか。まだ制作段階の"ゲーム"の詳細はわからない。だが、簡単なストーリーだけは公表されていた。

(……確か、いきなり5人の愛玩奴隷になるって……)

 さすがのアリアもひやりとした汗が流れてしまう。

 5人組の"アイドルグループ"である"攻略対象者"から好き勝手にされ、その後、選択肢次第で誰か一人の"ルート"に入っていくという鬼畜仕様。

 その中で"リヒト"は、"アイドルグループ"自体のリーダーではなく、そういうこと(・・・・・・)における中心的人物だという設定だったはずだ。

(……それは、普通の人だったらショックを受けるわよね……)

 自分が「禁プリ」の世界の"メインヒーロー"だと気づいて絶望したというリヒトの言葉を思い出し、さすがのアリアも同情心が芽生えてしまう。

 "腐女子"の合言葉はなんといっても「BLはファンタジー!」だ。現実にはあり得ない夢の世界。だからこそ"萌え"られるわけで、現実世界で"BL"を考える"腐女子"はほとんどいない。……もちろん、中には現実萌えをする"腐女子"もいるけれど。

 "腐女子"だという自覚のあるアリアでさえ"二次元萌え"なのだ。恐らくは普通の成人男性だったのであろうリヒトが、自分に迫る男同士の恋愛を前にして拒絶反応を示すのは当然だろう。

(……しかも、鬼畜仕様だし……)

 アリアが「禁プリ1」でユーリが闇の者に非道の限りを尽くされるのをキャーキャー悶えて見ていられたのは、当たり前だがそれが"ゲーム"の世界だからだ。現実でそんなことが認められるはずもない。

 リヒトも"男性向けゲーム"をしていたとは言っていたものの、現実世界の本人の性癖は普通なのだろうから、自分が"鬼畜キャラ"だと気づいた時には愕然としたに違いない。

 だから、"ストーリー"が変えられることを知って安堵していたのだろう。

(……でも、これからどうなるのかしら……?)

 まずは「2」の続編である「魔王復活編」をどうにかすることが先決で、「3」はその後になるのだろう。とはいえ「3」は世界も違えばまだ制作途中という状態だ。

(……本当に、どうしよう……!)

 続編を"プレイ"した記憶はアリアにない。

 魔王復活という世界の危機的状況が訪れることだけは理解して、アリアは心臓が壊れそうなほどの緊張感に襲われていた。

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