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いつだって悪夢を解かすのは。

「……アリアッ!」

 シオンの両手がアリアの細い首に伸びたのに、セオドアから焦ったような声が上げられた。

 そのまま、くっ、と軽く首を締め上げられて、アリアは細い吐息を洩らす。

 けれど、ゆっくりその腕を外させる動作をすれば、なんの抵抗もなくその拘束はほどかれていた。

 そうして。

「……シオン……」

 その腕に手を添えて、背伸びするように口づけた。

 そっと重ねた唇は冷たくて、なんだか悲しくなってしまう。

 なんの感情も見えないシオンの瞳に。

「シオ……ッ、んぅ……っ!?」

 唇を離そうとした瞬間、力強く身体を掻き抱かれ、その息苦しさに口が開いた。

「んん……っ、シオ、ン……ッ」

 すぐに潜り込んできた舌先に、口腔内を貪られる。

 呼吸の仕方もわからなくなるほど性急な口づけは、それでも確かにシオンの熱を感じて、じんわりとアリアの身体を満たしていく。

 やんわりと身体に触れてくる掌は、アリアがよく知るいつものもの。

 上がった吐息で微かに身体を震わせながら、アリアは先ほどから気になっていたことを口にする。

「……あの……、シオン? その格好、どうしたの?」

 シオンがなにをしようとしているのかも。

 操られている、などということも関係なくて。

 ただ、シオンはシオンだということだけで。

「凄く似合っていてカッコいいけど……」

 再び唇へと落ちてくる熱を受け止めながら、口づけの合間にアリアはシオンの顔を覗き込む。

 リデラの嗜好は完璧で。

 軍服のようなそれはシオンに似合いすぎていて。

 こんな時でなければ、腐女子のアリアが歓喜の悲鳴を上げて喜んでしまうほどのものだけれど。

 けれど、どうしても。

 どうして(・・・・)着替えたのか、だとか。

 どうやって(・・・・・)、などと考えてしまうと、なんとももやりとした気持ちになる。

「……もし私が他の(ひと)に貰った服を着ていたら怒るでしょう?」

 考えるまでもなくわかる。

 アリアがそんなことをした日には、一瞬で服を剥ぎ取られるに違いない。

「……私もちょっと、嫌なんだけど」

 妖艶すぎるリデラとの間でなにがあったのか、なんて。

 聞きたいとは思わないけれど、勝手に頭があらぬことを想像してしまってなんとも言えない気持ちになってしまうことは拭えない。

 とはいえ、このまま脱がせるわけにもいかないけれど。

「……ぁ……、シ、オン……ッ」

 服の上から身体をまさぐられて息が上がる。

 すっかり覚えたその掌の感触に身体がびくりと波打った。

 そんな二人の遣り取りを、愉しそうに笑う女が冷たい瞳に映し込む。

「……ね……っ? シオン……。やっぱり、ちょっと待って……」

 操られている、なんてことはどうでもいいことで。

 極々自然に、アリアはシオンの動きを制止する。

「こんなところじゃ恥ずかしい……」

 ここには、リデラ以外の目もあって。

 その姿を見まいと視線を逸らしてくれているみんなの気遣いを感じてしまって恥ずかしくて堪らない。

 どうしていいかわからずに、ただアリアのしたいようにさせてくれる、それはみんなの優しさだとわかっている。

「……オレの好きにしていいと言っただろう」

「……ん……っ、でも……っ」

 極普通に返ってきた耳元への囁きに、アリアはふるりと身体を震わせる。

「ぁ……っ、シ、オン……ッ」

 腰をまさぐってくる掌と、首筋へと落とされた唇に、ぞくりとした甘い痺れが背筋を伝った。

 と。


「……みせつけてやりたいのは山々だが、他のヤツの目に触れさせたくもないな」


(……え……?)

 しっかりとした意思の込められたその低い声色に、アリアは一瞬理解が追いつかずに目を見開いた。

「……アリア」

 耳元へと落とされる確かな声。


「今夜は離さないからな?」


 覚悟しとけ。とニヤリと笑われて。

「……え?」



「ユーリッ!」



 顔を上げたシオンが、瞬時にユーリと意思を通わせた。

「……はいよっと」

 なんだか呆れたようにも思える吐息が聞こえた気もしたが、それと同時にユーリの真剣な瞳がリデラを射抜く。

(……な……、に、が……?)

 わけがわからず困惑を極めるアリアを置いて、シオンの指示の元で指を組んだユーリの身体から、凄まじい量の光の魔力が立ち上った。

 直後、リデラの足元へと浮かび上がった魔方陣。

「――っ!?」

 突然現れた紋様に、リデラの瞳が驚愕に見開かれた。

「なに……っ!?」

 逃げる間もなく光の檻に包囲され、今度はその瞳に恐怖の色が浮かぶ。

「――――――っ!!」

 声にならない悲鳴が上がる中、アリアを抱き上げたシオンが風魔法を纏ってユーリの横まで移動する。

 いつの間にそんな紋様を描いていたのか、シオンがひっそりと組み上げていた魔方陣に、ユーリが光魔法を展開したらしかった。

「……お前、いい加減にしろよ?」

「敵を騙すにはまず味方から、だろ?」

 益々強い光魔法を魔方陣へと込めながら、呆れたような瞳を向けるユーリに、シオンは悪びれる様子もなくくすりと笑う。

「だからって、ここまでする必要ないだろーが」

「ずっとあの女の言いなりになって忠実な(しもべ)を演じてたんだ。少しくらい役得があってもいいだろう」

「それは自業自得って言うんだよっ!」

 とにかく不快で堪らない時間だったと、本気で嫌そうに告げるシオンに、ユーリの説教じみた声が上がる。

「……ぇ……? ……ぁ……? ……ど……、ぃう……?」

 なにがなんだかわからずに、アリアはシオンの腕に抱かれたまま、困惑に揺れる瞳を二人の間で彷徨わせる。

(……操ら……、れて……? ……たん、じゃ……?)

 ――ない、らしい。ということだけは、交わされる二人の言葉から読み取れる。

 とはいえ、それを演じていたのだとしても、リデラに気づかせずにそんなことが可能なのかとも思ってしまう。

「……あ。ダメだ、悪い。破られるっぽい」

 ぐるぐると思考を回すアリアを置いて、なんとも呑気なユーリの謝罪が向けられる。

 の、直後。

 光の檻を力付くで破ったリデラが、息を切らせて忌々しげに口許を歪めていた。

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