エピローグ
イーサンとユーリに見送られ、アリアはリオたちから少し遅れて名残惜しげにその地を振り返っていた。
「……アリア……様?」
「アリアで構わないわ」
おずおずと伺ってきたイーサンへと、アリアはくすりと可笑しげな笑みを漏らす。
今さらそんな改められても気恥ずかしくなるだけだ。
だからそのままでと伝えれば、イーサンはぐっと拳を握り締めて己の気持ちを吐露していた。
「オレは……っ、アリアのおかげで助けられま……助けられたからっ。だからっ、この恩をどう返したらいいのか……!」
絶望の淵にいた人々へと、助けるからと優しい微笑みを向けて。
楽しそうに病人食を作るアリアは、それだけでみんなの心を和ませた。
そしてイーサンに至っては。
「……オレ、医者になるから」
アリアの目を真正面から見つめて誓うように言葉を紡ぐ。
「今度なにかあった時は、オレも最前線で闘えるようになるから」
「イーサン……」
「親父や、他のみんなを代表して、オレからアリアに感謝の気持ちを伝えさせてくれ」
そうして真っ直ぐ見つめられ、アリアは戸惑いに瞳を揺らめかせる。
「……だから、私はなにも……」
自分はなにもしていない。
ルークやシオンや、他の誰かに助けて貰わなければなにもできない小さな存在だ。
けれど、もし。もし、感謝の気持ちを貰えるというならば。
「……もしも貴方の知り得る範囲内で、どんな些細なことでもいいから、"なにか"不審を感じるようなことがあったなら」
この先起こり得る未来を思って、アリアは静かに口を開く。
「その時は、すぐに報告してくれないかしら?」
「! わかりました!」
――間もなく、"ゲーム"が開始する。
その前に、アリアに出来得る限りのことを。
そうしてその場から背を向けて、アリアは最後に嬉しそうにユーリの方へと振り返る。
「ユーリ! また学校でねっ!」
「えっ?」
「楽しみにしてるから!」
「! うんっ、オレも……!」
――ゲームへと、カウントダウンが始まった。