運命(さだめ)られたもの
ギルバートがアリア救出の為に姿を消した後、潜伏先にと聞いていた場所へとアラスターが引き止めることも聞かずに急ぎ向かっていたシャノンは、そこへ着いて早々、壊された扉に溜め息を洩らすホテルの従業員の姿を見つけていた。
すぐにその場の残留思念を拾えば、捕獲されたギルバートが連行される姿が浮かび上がり、こうしてはいられないと頼ったのはサイラスだった。
だが、そのサイラスも、学園内であればまだしも、王宮にいる皇太子へと直接謁見を願える立場にない。
そして、そのサイラスが皇太子への伝手を得るために連絡を取ったのが、最近いろいろあって接触の多かったルーク。
そして、今に至っている。
「アリアがそんなことするはずない……!」
ルークから呼ばれて慌ててやってきたユーリは、シャノンから聞いたという話を再度ルークから話されて、間髪入れることなくそう断言していた。
けれど。
「……なにか理由があるはずだ」
すぐにそれを受け入れ、逆にアリアならばやるだろうと唇を噛み締める。
ここ最近、否、随分前から、アリアの様子はおかしかった。
時々、今にも消え入りそうな、酷く追い詰められた空気を隠せずにいた。
それをわかっていながら、今までなにもできずにいた自分に悔しさが込み上げる。
――アリアがそういう人間だと、誰よりもわかっていたはずなのに。
「……みんな、そう言うんだな」
「……え?」
ルークも同じようなことを言ったことを示唆して、くすりと小さく苦笑したサイラスへと、ユーリはむすりと不貞腐れた顔になる。
「そんなの、当たり前だ」
ユーリはまだ目の前のサイラスに気を許していない。
アリアの為にシャノンと共に急いでルークを頼って来てくれたことは評価するが、まだ複雑な思いは拭えない。
それでもユーリは、全く疑うことのない強い瞳をサイラスに向けていた。
アリアが国に背き、公爵家に牙を向け、大罪人になることなどありえない。
ただ、なにか大きな理由があるのなら。そんなことさえやってしまうであろうという確信も同時に存在する。
「……俺をアイツのところに連れていってくれ」
必要最低限以外の言葉は少なく、ぐっと拳を握り締めて必死な様子をみせるシャノンへと、サイラスはチラリとルークを窺う。
「オレには無理でも、公爵家子息様ならば謁見は可能だろう?」
「……まぁ……、多分……」
なんとなく嫌味混じりな気もするが、気にしてなどいられない。
自分では無理だと判断したサイラスが、すぐにルークを頼ってくれたことだけは純粋に嬉しいと思う。
曲がりなりにもルークは、サイラスの言う通り公爵家の人間だ。
だからと言って。
「オレも行く!」
不安そうに頷いたルークへと、すぐに名乗りを上げてきたユーリのせがむような表情が、不謹慎にもとても可愛い。
サイラスから相談を受けたルークがすぐに連絡をした人物は二人――、シオンとユーリだ。そして、シオンの不在を聞けば、なんとなくそうなんだろうな、という予測はつくような気はしたけれど。
「……王宮自体には行けても、アリア嬢に会わせて貰えるかはわからない。……それに……」
ルークの身分であれば、なんらかの理由をつけて王宮の中までお邪魔することは可能だろう。ただ、この状況でアリアへの面会を願ったとしても、それが叶うかはわからない。
今、王宮がどんな状態になっているのか、ルークはまだ知らない。
公爵家の封印を嘲笑うかのように次々と宝玉を奪っていった盗人逮捕に右往左往とごった返しているのか、そこに公爵令嬢が関わっていたと知って衝撃が走っているのか。
――それとも、もし、アリアがリオの元にいるのだとしたら……?
「……行って、どうするつもりなんだ?」
どちらにせよあまり期待はしない方がいいと覚悟を決めながら、ルークは真っ直ぐ自分をみつめてくる、今日が初対面な綺麗な少年へと疑問を投げ掛ける。
話を聞くに、この「シャノン」と名乗った少年も"共犯者"だという。だとしたならば、のこのこ行った先で待つものは、牢獄行きの切符だけかもしれない。
本来であればこの少年を連行していかなければならない立場にいるルークは、その危険性を思ってすぐに行動に移せずにいた。
ルークだって、なにか理由があるのであろうアリアを助けたい。助けたいと、本気で思うけれど。
「……俺は、アイツを助けたい」
きゅっと唇を噛み締めるシャノンへと、ルークは苦々しげに首を振る。
「さすがにそれは無理だ」
助けたい、などと。
連れて逃げ出すことなど不可能だ。
だが。
「そういう意味じゃない」
シャノンは小さく首を振り、再度決意の込められた強い瞳でルークを見上げた。
「きっと、これは、俺にしかできないことだから」
初レビューを頂きました!
記念に活動報告にSSを掲載させて頂きました。
「現代高校生だったら?」のifストーリー、リオ編となっております。
もしよろしければ覗いて下さいますと光栄です。