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婚約者 vs 怪盗

「……アリア」

 また(・・)一人で抱え込もうとしている少女へと苛立ちが募って、シオンは強引にその顔を上向かせる。

 誰かのために動くことを止めろ、と言うつもりはない。

 ただ、その身を危険に晒すなと、それだけは譲れない。

 なぜ、いつも、勝手に一人で動くのか。

「シオ……、ん……っ」

 噛みつくようにその唇を奪い取り、抵抗されるより前にその口を開かせるとすぐに舌を潜り込ませる。

「んん……っ!?」

 性急に口腔内を貪られ、反射的に目を閉ざしたアリアは、喉の奥を震わせる。

 ギルバートの前だという羞恥心は、強引なシオンの口づけの前にすぐに何処かへと追いやられてしまう。

 執拗に絡む舌先に、呼吸の仕方がわからなくなってくる。

 逃げようとする舌を絡み取られ、二人分の唾液が溢れ出す。

 それを、シオンの舌先が器用にアリアの喉の奥へと流し込んできて、促されるままにそれをこくりと飲み込んだアリアは、小さく喉を鳴らしていた。

「ふ……っ、んぅ……っ」

 息が上がる。

 篭った熱が頭まで上っていって、思考がぼんやりと溶けていく。


 ――『あの婚約者以外じゃ感じないのか?』


 不意にギルバートのその言葉が頭の中へと甦り、恥ずかしさのあまり身体中に熱が広がった。

 いつになく身体の奥へと熱が籠って、ふるりと腰が揺れる。

「……は……っ、ん……」

 散々貪られ、唇が離された頃には完全に身体から力が抜けてしまい、アリアは自分を抱き締めてくるシオンになされるままに身体を委ねてしまっていた。

「……アンタ、マジで腹立つな」

 完全に自分の婚約者(モノ)だと見せつけてきたその行為に、ギルバートはぎりりと歯を食い縛る。

 ただ、婚約者だというそれだけの理由で、少女に触れる権利が与えられていることが腹立たしくて堪らない。

「シオ……ッ」

消毒(・・)は必要だろう?」

 仄かに目元を羞恥で赤く染めながら咎めるように声を上げたアリアへと、シオンは全く悪びる様子もなくニヤリと笑い、その言葉の意味にアリアは益々顔を桜色に染め上げる。

 だが、不意にこんなこと(・・・・・)をしている場合ではなかったことを思い出し、アリアはギルバートの方へと顔を上げていた。

「ギルは逃げて……!」

 アリアが連れ戻されるのはいい。

 元よりアリアは逃げるつもりなどなかったのだから。

 けれど、ギルバートまで一緒に連行されるわけにはいかない。

 シオンの優秀な推測によって、怪盗団の正体は見破られてしまった。例え逃げることしか選択肢が残されていないとしても、その道を選んで貰うしかない。

 なんとしてでも、"2のゲーム"の主要人物である彼らには、宝玉を集めて貰わなければ困るのだから。

「……この男をどこまで庇う」

 ギル、と。それが愛称であるとわかる親しげな呼び名にぴくりと蟀谷(こめかみ)を反応させ、シオンは低く責めるような声色をアリアに向ける。

 だが、そんなシオンの憤りに、今は構っている場合ではない。

「ギル……ッ!」

 早く、と焦るようにかけられる少女の叫びに、ギルバートの肩がぴくりと震えた。

「……もう、アンタを置いて行きたくない」

「ギル……ッ!!」

 それでは困るのだと首を振るアリアから目を逸らし、ギルバートはぐっと拳を握り締める。

 少女の望みを叶えてやりたいと思うならば、ここはすぐにでも転移してこの場を離れるべきだとはわかっている。

 ただ、どうしてもそれを拒む自分がいる。

 わかっていても、どうしてもできない。

 この温もりを、もう二度と手離すことなどできない。

「惚れた女をここで置いて逃げるのならば最悪だな」

 もっとも、逃がすつもりはないがな。と、くっ、と口元を歪ませるシオンへと、アリアは反射的に口を開ける。

「……違……っ」

 自分のことは捨て置いて、それでも宝玉を集めて欲しいと願っているのはアリアだ。

 ここまで来て、中途半端で終わらせることなどできるはずもない。

 これは"ゲーム"ではなく、"現実"。

 一度妖精界が滅びてしまったら――、"バッドエンド"を迎えてしまったら、もう二度とやり直せない。

「シオン……ッ、お願い……っ。ギルのことは見逃して……っ」

 思わず縋るようにシオンへと手を伸ばし、アリアは泣きそうな瞳をシオンへ向ける。

「できるわけがないだろう」

「……お願い……。なんでもするから……」

 シオンが連れ戻しに来たのはアリアのはずだ。

 だからアリア一人で許して欲しいと乞い願うアリアへと、シオンはくすりと冷笑を洩らす。

「……"なんでも"?」

 そこまでしてギルバートを逃がそうとすることには純粋に腹が立つが、この少女であれば誰に対してでも(・・・・・・・)同じことをするだろう。そう思えば、"なんでも"というその言葉の響きは酷く魅惑的に聞こえた。

「……なんでも、する、から……」

 思わず口にしてしまった言葉だが、さすがに少しだけ怖さを覚えて唇を震わせたアリアへと、シオンは愉しそうな色を瞳に浮かばせる。

 そして、そんなシオンがアリアへとなにを言おうと思ったのか。


「逃がすわけがないだろう」


 お前もなにをしようとしているんだ。と、シオンへと憤りを滲ませた声色が響いて、アリアは鍵の壊れた扉の方へと振り返っていた。

「! ルイス、様……。……ルーカス、も……」

 アリアがアーエール邸から逃れてきて、そう時間はたっていない。それを考えれば少なくともシオンがルーカスの瞬間移動を使って近くまでは転移してきたということで。また、ルイスがシオンの単独行動を許すはずもない。

「風魔法でさっさと行っちゃうから」

 もう少しで見失うところだったよ。と呆れたように肩を落とすルーカスは、言葉に反して全く焦った様子がない。なんなら先行はシオンに任せてのんびり歩いて来たとでも言いそうなその横顔に、ルイスがジロリと恨みでも篭っていそうな目を向けていた。

「……万事休す、だな」

「ギ……ッ、ZERO……ッ!」

 なぜかくすりと笑って逃走を諦めたようなギルバートへと、アリアはなにを言っているのかと声を上げる。

 だが。

「悪いけど、君は拘束させて貰うよ?」

「ルーカス……ッ! 待っ……」

 言うが早いが魔法の術式を展開させるルーカスに、アリアが制止の声を上げるより早く、ギルバートの身体へと天才魔道師の風魔法が纏わりつき、あっという間にその手首には拘束具が嵌められていた。

「ごめんね? アリア。僕も()には逆らえなくて」

 アリアのものと同じく魔力を奪う魔具だろうそれは、ブレスレットのような一見お洒落なものとは違い、本当に手錠のようなもの。

 そのままギルバートを連行するべく室内へと足を踏み入れながらルーカスが申し訳なさそうに謝るのに、アリアは瞳を揺らめかせる。

 ルーカスの言う"上"とは、国王や公爵家のことだろうか。それとも……。

 と、優しい従兄の微笑みが目に浮かび、アリアはズキリと胸を痛ませる。

 怪盗確保の連絡を受けて、リオはなにを思っただろうか。

「……シオン。アリアも連れて来い」

 手首に嵌められた拘束具に目を落とし、ギルバートはなにを思っているのか、ふぅ、と一つだけ大きな溜め息を吐き出した。

 特に抵抗するでもなくルーカスに促されながらルイスの元へと歩いていくギルバートを眺めながら、ルイスがシオンへとアリアを引き渡すことを要求すれば、シオンはそれを強い口調で拒否していた。

「責任持って後から連れていく」

「……その言葉を信用しろとでも?」

 途端底冷えするような声色でシオンを睨み付けたルイスへと、けれどシオンは臆する様子もなくその鋭い視線を受け止める。

「疑うなら扉の外にでもいればいい。見学(・・)したいというのなら話は別だが」

「シオン」

「逃避行なんて考えていないから安心しろ。……少なくとも今は(・・)、だがな」

 犯罪者を捕らえた褒美(・・)くらいは貰ってもいいだろう?と挑発的な笑みを浮かべてみせるシオンへと、ぴくりと眉根を反応させていたルイスは苦々しげな表情を浮かばせる。

「……一時間だ」

 今のシオンになにを言っても無駄だと悟ったのだろう。下手をすればそれこそ全力で逃避行されそうなシオンの本気に、ルイスは仕方なく許可を下ろす。

「……逃げられないようにしろ」

「わかっている」

 一時間という時間を充分だと感じたのか短いと思ったのか。渋々と了承したシオンへと最後にもう一度鋭い視線を投げ、ルイスはルーカスと共にギルバートを連れて扉の外へと姿を消していた。

……あれ……?

ギルバート、当て馬感……??

なんでこうなった……???(涙)

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