表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/399

take your heart

「……え……」

 今、自分はなにを言われたのだろうかと、ギルバートの言葉が頭の中で反芻する。

(……好、き……?……ギルバートが、私、を……?)

 確かにギルバートはそう言った。

 アリアの反応を楽しむように笑ってはいるけれど、その瞳はとても冗談とは思えない。

「……な、んで……」

 シャノンを好きになるはずではなかったのかと、誰か(・・)の時と同じ問答が頭の中で繰り広げられる。

 これからシャノンがギルバートを絶望の淵から救い上げるようなことを、アリアは一切した覚えがない。

 ただ、自分は、傍にいてギルバートがこれ以上アルカナに傷つけられることがないように見守っていただけだ。

「……アンタはホント、自分のことをなにもわかってないんだな」

 完全に混乱しているアリアへと苦笑を洩らし、ギルバートはチラリと部屋の中央へと視線を投げるとその華奢な身体を抱き上げる。

「な、にを……!?」

 不安定なバランスに、咄嗟に目の前の肩へと縋った少女へとくすりと楽しそうな笑みを洩らし、ギルバートはそのままアリアの身体をベッドの上まで運んでいた。

「ギルバー……ッ」

 とさ……っ、と白いシーツの上へと押し倒され、アリアは反射的にその胸へと腕を突っぱねる。

 アリアを欲しい(・・・)と言ったその意味が、子供が玩具をねだるようなものではないことくらい理解できる。

「ギルバー……、ギル……ッ!」

「なんだ?」

 愛称呼びの方が話を聞いてくれるかもしれないと考えたアリアの思惑は正しかったらしく、嬉しそうにくすりと笑われて、アリアは楽しそうに自分の髪へと指先を絡めてくるギルバートの顔を見上げる。

「なに、って……」

 そうは言っても、自分でもなにが言いたいのかわからない。

 そうしてアリアが困惑を極めている間にも、顎を取ったギルバートが唇を寄せてきて、アリアは反射的に思い切り首を捻っていた。

「ゃ……っ、ダメ……ッ!」

「……オレにはキスされたくないのかよ?」

 拒絶に、少しだけ傷ついたような声色を洩らすギルバートに、思わずツキリと胸が痛むのを感じてしまう。

 それでも、この行為を許すわけにはいかないことも事実だから。

「ギ、ル……ッ」

「……好きな女に触れるって、こんなに気持ちいいものなんだな」

「……っ」

 柔らかな仕草で頬へと触れ、嬉しそうに洩らされた感嘆の吐息に、アリアは思わず息を呑む。

「アンタ、いい匂いするな」

「――っ!」

 楽しそうな笑みを洩らし、ギルバートは腕の中の存在を堪能する。女の子らしい柔らかな感触に、どこか甘やかな薫り。

 甘い、と、そう思ってしまうのは、相手が愛しいと思える存在だからだ。

 今まで情報収集と独り寝の恐さからいろんな女と遊んできたというのに、こんな風に思えるのは本当に初めてだった。

 欲しい、と。そんなことを思ったのも。

「やめ……っ」

 数多の女性と遊んできたという"設定"だけあって、ギルバートはとても慣れた仕草でアリアへと触れてくる。

「ギル……ッ!」

 シャラ……ッ、と、胸元のペンダントの鎖が小さく鳴った。

 両手首を拘束され、魔法も封印されたアリアには、そこから逃れられる術はない。

「…………シ、オン……ッ」

(……え……)

 無意識に口から突いて出た言葉に、ギルバートはもちろんのこと、アリア本人もハッとする。

(……な、んで……)

 シオンのことなど、全く考えていなかったのに。

「……こんな場面で他の男の名前を呼ぶなよ」

「……ごめ……」

 呆れたように笑われて、反射的に謝まりかけたアリアは、なぜ謝らなければならないのかと動揺する。

「……やっぱり、あの男のことが好きなのか?」

 苦笑しながら問いかけられ、アリアの瞳が動揺に揺らめいた。

「……そんな、ことは……」

「だったら、オレを選べ」

 強くアリアへ願ったギルバートは、けれど、蒼色の宝石が零れ出た少女の首筋辺りにふと目に留めて、舌打ちを響かせる。

「……あの男、本当(マジ)で腹立たしいな」

 アリアの服の下から現れた蒼色のペンダントと、ギルバートが落とした視線の先――。

「コレ、あの男の痕だろう?」

 薄くなりつつはあるものの、それでも見る者が見ればわかってしまう鬱血に触れながら口にされた問いかけに、アリアは小さく喉を鳴らす。

 視線の先で輝く魔石(いし)も、その所有印も。この場にはいないというにも関わらず、いちいちその存在を誇張する。

 思わずその上から噛み付いてでもやりたい気持ちに襲われるほど。

「……ギル……」

 ギルバートのことは嫌いじゃない。

 ZEROに関して言えば"かなり好み"で、もちろんギルバートのことも好きには違いない。……それは、"ファン"的心理かもしれないけれど。

 愛おしげに自分を見下ろしてくるギルバートの瞳がシオンのものと重なった。

 とても甘く優しい眼差し。

 その瞳にみつめられ、甘い囁きを落とされると、いつも抵抗できなくなってしまう。

 シオンにはいつも……。

「……?」

「? どうした」

 何処か心ここにあらずのアリアの様子に気づいたのか、顔を上げたギルバートがアリアへと疑問の声を投げかける。

 どうしたのか、と聞かれると……。

「……シオンと違う」

 どう答えたらいいのかわからずに、けれど感じた違和感をそのまま正直に口にしたアリアの無邪気さに、ギルバートはいっそ呆れたように肩を落とす。

「……そりゃ違うに決まってるだろ」

 こんな状況で他の男と比べるのかと苦々しい表情(かお)を貼り付けたギルバートは、至極もっともなことを口にする。

 シオンとギルバートが違う人間である以上、アリアが"いつもと違う"ことに違和感を感じてしまうのは当然だ。

 けれど。

「そうじゃなくて……」

 と、考え込むような素振りまで見せ始めた少女へと、思わず苛立ちが募ってしまう。

 他の男と――、しかも、あの婚約者と比べられるなど腹立たしいことこの上ない。

 さらには、まだ深いところまではいっていない二人の関係(・・)を知ってはいても、アリアのその物言いは、他の男に肌を許してきた事実を如実に語るだけのもの。

「……もしかしてアンタ……」

 こんな状況下にも関わらず、無防備に考え事をしているアリアへと、ギルバートは違和感を覚えて愕然とする。

 その、違和感の正体は。

「……体は正直、ってよく言うけど……」

 まさか、と思いながら口を開く。


「……あの婚約者以外じゃ感じなかったりする?」


「……なっ……?」

 本人もなんとなく気付いてはいたのだろう。

 ギルバートの問いかけに途端赤くなった少女に、ギルバートもまたそのあまりの内容の衝撃に目を見張る。

 確かに女性は、好きでもない男に無理矢理コトを進められても感じないとは聞いていたけれど。

 それでも、今までギルバートが関係してきた女性たちは、いつだって歓喜に身を震わせるような人間ばかりだったから。

 それでも。

「……アンタ、オレのことわりと好きなんじゃないかと思ってたんだけど」

「――ッ」

 時折自分を見る目に歓喜の色が混じっていたことには気づいていたと告げれば、途端アリアは慌てたように頬を染める。

 どうやら図星だったらしいその反応は、確かにギルバートに見惚れてしまう瞬間があったことを認めている。

「……アンタ、前にあの婚約者が見せつけてきた時には超感じてたよな?」

「な……っ?」

 それは、裏賭博の現場でシオンがその場にいる者へとこの少女は自分のモノだと牽制してきた時のこと。あの時この少女は、ほんの少し触れられただけで過敏なほどの甘い反応を見せていた。

 それならば、と、少しだけ考え込んだギルバートは、数度咳払いをすると何度か耳にしたことのある恋敵(・・)の声を思い出す。

 さすがに女性の高い声は無理だけれど、人の声色を真似することは得意分野だ。

「……アリア」

「……ぁ……っ」

 確か、こんな声だったかと思いながら少女の耳元で情欲の洩れる声色で囁けば、その華奢な肩は驚くほど素直にぴくりと反応した。

「……アリア……、愛してる……」

「……ゃ……っ」

 ギルバートが人の声色を真似できるというのは、"ゲーム"での"公式設定"だ。

 まるで本当にシオンに囁かれているかのような錯覚に陥って、ぞくりとした甘い感覚が背筋を流れていくことに、アリアは反射的に恐れを抱いて身を震わせる。

 声だけだというにも関わらず、身体は勝手にそれを錯覚させておかしくなる。

 シオンの欲に濡れたその囁きに、この身体は酷く弱い。

 そしてそんなアリアのその反応に、ギルバートは「なるほどね」と複雑そうな感嘆の吐息を洩らしていた。

「あの婚約者のことを考えれば感じるんだ?」

「――っ!」

 気づかされてしまった事実に、これ以上なく大きく瞳を見開きながら、アリアの身体がみるみると羞恥に染まっていく。

「……な、んで……」

 自分の身体のことだというにも関わらず、指摘された事実に愕然としてしまう。

「すごいね、アンタ。男冥利につきる」

 自分以外には反応しない身体。

 それが、どれだけ男の暗い欲望と支配欲を満たすことか。

「……つってもなぁ……」

 頭を掻き、ギルバートは「はぁ……」と大きな吐息をつく。

「ずっとあの男の声を借りっぱなし、っつーのも、なぁ……?」

「――っ!」

「……そんなにあの男がいいか?」

「だから、違……っ」

「……説得力ないけどな」

 本人に自覚がないだけで、すっかり堕とされてしまっている少女へ呆れたように呟いて、ギルバートはもう何度目かの吐息を洩らす。

 本人に自覚がないというならば、わざわざそれを教えてやる必要などどこにもない。むしろ、本人が気づかぬうちに、自分の手の内へと収めてしまいたいと思うけれど。

「自分にしか反応しない女なんて、な」

 自嘲めいた呟きは、少しだけ苛立たし気な色が滲む。

「自分専用の高級娼婦にでもするつもりかよ」


 ――の瞬間、室内だというにも関わらず、風が吹き荒れた。


「……そいつはオレのものだ。自分の色に染めてなにが悪い?」

R15に抑える為に、かなり省略修正しました。(だ、大丈夫でしたでしょうか……?アウトでしたらこっそりご指摘下さいませ……)

これだけだと後の話に繋がらない恐れもあるかもしれませんが、これが私にできる精一杯でした……。大変申し訳ありません。

元々の正式なR18版を同時更新しようと思ったのですが、もう少し攻めてみようと手直し中な為、もう少しだけお待ち頂ければと思います。今日中には更新するつもりですので、年齢的に大丈夫な方は夜中頃覗いて下さいますと幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] またまたお邪魔します! 私的には全然OK!!どんとこいR15!!(イミフ) 月の光のほうでまた楽しみますね、この先を… ふふ、沙羅様がギルバート推しなのがわかりました、 私も…攻め大好物…(…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ