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プロローグ 2

「禁断のプリンス」、略して「禁プリ」は、"腐女子"向け18禁ゲーム……


 ――いわゆるBL中心ゲームである。


「禁プリ」――どこかのアイドルみたいな名前だけれど、私の記憶が正しければ、確か彼らがデビューするより前には発売していたはずだ――は、一般家庭の主人公が魔法学園へと編入してくるところから始まる。

 この世界では、貴族は15歳までは自宅で家庭教師などをつけて勉強し、その後、いわゆる高等学校へと入学する。

 一方、平民は普通に初等部、中等部を経てその後は職に就くのが一般的だが、中等部卒業時にある適正試験で「魔力あり」と認定されると、ほぼ強制的に高等学校へと進学することになる。

 ちなみに、「貴族」と名のつく者――というより、貴族の血を引く者は、多かれ少なかれみな魔力を身に宿している、という設定がある。

 平民でも魔力を持つ者は少なくない。

 基本的にこの世界は、魔法が身近にあって当たり前の、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界である。


 ――と、ここまではゲームでも小説でもファンタジーものとしてはよくある設定。

 が。

 繰り返すが、このゲームは"腐女子"向けゲーム!

 よくある乙女ゲームでもギャルゲーでもない。

 しかも、18禁。

 主人公が触手やら魔物やら魔の手の者からあんなめやこんなめに遭わされるのは当たり前。メインキャラクターにすら無理矢理……というような――まさに腐女子からすると悶絶以外のなにものでもないのだけれども!――なものもある。

 さらにこのゲーム。よくある乙女ゲームのように、好感度などのパラメーターを上げてメインキャラクターを攻略するようなゲームではない。

 そもそもの前提として、ゲーム開始時、主人公は幼馴染みの女の子へ淡い恋心を抱いている。見た目は美少女と言っても過言のない主人公は、完全男女恋愛思考のノーマル設定。

 言い寄ってくるのはむしろ対象者たちの方で、プレイヤーである腐女子たちは、その口説き文句や少し強引なあれこれに悶絶させられる。

 そして、なかなか(なび)かない主人公へと、「なんでそこで抵抗するの!」「さっさと身を委ねちゃえばいいのに!」と悶々とするという……、ちょっと異色なゲームである。

 一部のルートを除けば最初からハーレム状態。誰を選ぶかはプレイヤー次第。

 さらには、乙女ゲームや男性向けプレイヤーの中でもこのゲームに手を出そうか悩む者が少なからずいる理由として、普通の男女ノーマルルートも存在したりする。

 全メインキャラクターを攻略し、その後に現れる隠れキャラクターと、その全ストーリーを制覇した暁には、選択肢によっては開始後すぐに主人公とその幼馴染みの濡れ場へと持ち込むことも可能。

 とはいえ、その幼馴染み。ストーリー上、すぐに殺されてしまうのだけれども。


 ……と、ここまで考えてふと我に返る。


 ――私、主人公じゃなくて良かった……!


 ……否、本気で。

 ゲームだから萌え萌え悶絶できたけれど、あんなことやこんなこと、現実で起こったら堪らない。普通に精神崩壊して病院行きだ。

 ここは、"私"が寝る間も惜しんでやっていたゲームに酷似した世界だけれど、"アリア・フルール"として生きてきた12年間は、確かに本物で現実だ。


 そういえば、"私"はどうなっているのだろう。

 私がこのゲームをやっていたのはつい最近。――最近、と言っても、ゲームを思い出した"今の私"の時間感覚であって、アリア・フルールとして生きてきた過去の記憶も確かなもの。

 いろいろな転生ファンタジーものも好きでよく読んでいた。まさか自分が本当にそんなことに巻き込まれることになるとは思いもよらなかったけれど……。

 こんな時、大体元の世界でその"転生者"は死んでいた。死んで転生するわけだけれど、"私"にその記憶はない。"私"にある最後の記憶は、普通に子供たちとおやすみなさいをして"テレビ"を見て就寝したところまで。

 記憶にないだけで実は死んでしまったのだろうか……。

 もしそうだとしたら、中学生と高校生の子供たちはどうなったのだろう。ほとんど家事などしたことのない主人では不安しかない。

 ……どうしよう。ごめんなさい。

 子供たちにはまだまだ母親が必要だと思う。

 "私"の身に一体なにが起こったのだろう……。

 段々と混乱して訳がわからなくなってくる。

 長男も次男も、それぞれ大学と高校受験が控えていたはずだ。

 お兄ちゃんはあまり心配ないけれど、下の子はどうなっているだろう。一番下の長女だって、中学生になったばかりだった。

 ……元気にしてる?お母さんがいなくても大丈夫……?

 ……。

 …………。

 ………………。





 *****




「……アリア!」


 ……誰かの、声が聞こえる。


「……アリア!」


 ……どこかで、聞いたことのある声。


「アリア!」


 …………"私"を呼ぶのは誰……?


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