運命の相手
結局そのままウェントゥス家で夕食を貰うことになってしまったアリアは、シオンの家族と食卓を共にした後、少しだけシオンの部屋へとお邪魔していた。
――はずだったのだが。
「シオ……ッ、私……っ、そんなつもりじゃ……っ」
特にそんな雰囲気ではなかった為に油断していた、というのはただの言い訳かもしれないけれど、シオンの広い胸の中へと抱きすくめられ、アリアは慌ててその胸元を押し返す。
「そうやって抵抗するのはお前のスタンスか?」
「なに言っ……、ん……っ」
益々強くアリアを抱き込みながら、耳元近くで低い囁きを落とされて、反射的にふるりと身体が震えた。
「……なにが、そんなに不安だ?」
「……ぁ……」
「全部、忘れさせてやる」
例えそれが一時のことだとしても、なにもかも、全てを忘れさせてやりたくて。
自分のこと以外、なにも考えられなくしてやりたくて。
「シオ……、んん……っ」
強引に上向かせ、愛しい少女の唇を奪い取る。
「愛してる」
そうして真正面から真摯な想いを告げれば、アリアの瞳は迷うようにゆらりと揺れていた。
*****
眠っているアリアの髪へと優しく触れながら、シオンは小さな呟きを洩らす。
「"運命"、か……」
運命、なんてそんなもの、シオンは信じてはいないけれど。
無理をさせてしまった少女へと、愛おしげに優しい口付けを落としながらも、その一方でシオンは苦々しい表情を浮かばせる。
"運命"を口にする、アリアのその言い分をそのまま受け止めるとするならば。
「……お前の"運命の相手"はオレじゃないのか?」
穿った見方をしてしまえば、"逆らっている"というその言葉は、この少女には"別の運命の相手"がいるとも受け取れてしまう。
「アリア……」
例えこの少女に自分以外の"運命の相手"がいるのだとしても、手離す気も、ましてや譲ってやるつもりもさらさらない。
「なにがそんなに不安だ?」
今だシオンの気持ちを受け止め切れずにいるのは、それが原因なのかと思ってしまう。
「なにがお前をそんなに追い詰めている?」
応えが返らぬことなどわかっていて、シオンは眠る少女へと静かに問いかける。
どうか、と、願うことは一つだけ。
「全てを敵に回しても、お前だけは守るから」
この少女を怯えさせる、その全てを取り払ってやりたいと思う。
自分の全てを賭けて、守り抜いてみせるから。
「……何処にも行くな」
眦を伝った一雫の涙に、シオンは誓いを立てるかのように静かにその唇へと口付けた。
R18版は明日更新予定です。