act.8-1 Jewel of the soil ~土の宝玉~
サイラスはもちろん、シャノンの特殊能力のことは知らない。
だから、リデラをソルム家に誘き出して討伐するという情報は、シャノンが視まなければわからなかったこと。
アリアも、リデラ討伐についての詳細を、リオから聞かされてはいない。
リデラに顔が割れているアリアは動くなと、シオンから厳命を受けている。だから不必要な情報をアリアに与えるつもりはないと。……そのくせ、シオン本人はルークとユーリの頭脳として暗躍している気配がするのだけれど。
討伐は、ソルム家に協力を仰ぐ形でリオやルーカスを中心に着々と話が進められているらしい。なにやらそこにはルークとユーリの活躍があったらしいのだが、それを問うと二人からはなぜか苦笑いが返された。
ヘイスティングズの時もそうだったように、本来、魔族の討伐にアリアたち"子供"が出る幕はない。だから恐らくは、実際の討伐に動くのは、ルーカスたち魔法師団の精鋭部隊なのだろうと、アリアが推測できるのはそこまでだ。
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"ゲーム"と"現実"はもちろん違う。
"ゲーム"はやはり、非現実的な"ゲーム"の世界でしかなくて。
"2"は俗に言う"無双型ゲーム"だったけれど、この現実では数多くいた"敵"を倒したりしていない。
"ゲーム"では、公爵家の敷地内を探索しながらシャノンの能力を借りて秘宝へと繋がる隠し場所を見つけていたが、"記憶"のあるアリアがいる今、探索時間は大幅に縮小できている。
大地を司どるソルム家の庭園は、公爵家の中で――、否、国内随一の美しさを誇っている。
水を司るアクア家の庭園もかなりのものだが、ソルム家は軽くその上を行っている。
広大な敷地には季節折々の多数の花が咲き乱れ、小さいながらも森のような場所もある。
何度かお邪魔したことのあるソルム家だが、敷地のこんな深部にまで入り込んだのはもちろん初めてだ。
ソルム家の敷地内の構造はよくわからないけれど、隠し場所の特徴だけは知っている。それをシャノンに伝えれば、その場に残された残留思念から、「恐らく」と思われる場所へとシャノンが誘導してくれた為、ほとんど時間を費やすことなく目的地を探り当てることができていた。
そしてその、邸から離れた森の中に。なぜかガゼボが一つ建てられているのだが、翠の蔓が絡む綺麗なその休憩所が、土の宝玉へと続く隠し場所になっていた。
「……始まったな」
邸の方へと目を細め、ギルバートが呟いた。
結界展開の気配はアリアにも感じられたから、リデラ討伐の闘いが始まったのだろう。
リデラには宝玉奪取の嫌疑もかけられているはずだから、ほんの少しだけでもこれは時間稼ぎになる。
「……オレも行きたかったんだけど」
「不満なら抜けて貰っていいんだが?」
不服気に不貞腐れるノアへと、「それについては説明したはずだ」とギルバートが冷たい目を向ける。
今回、ノアとアルカナは外からの中継要員だ。
中でなにか起こればギルバートがアルカナへと。外でなにかが起こった時にはアルカナがギルバートへとすぐに連絡が取れるようになっている。
高位魔族であるリデラと戦っている以上、みんなの意識はそちらに向いてはいるだろうが、今までと違い、敷地内にいないだとか眠らされているというわけではない。
「はいはい。いってらっしゃい」
「時間との勝負だ」
パタパタとやる気なさ気に手を振ってくるノアへと、ギルバートは「行くぞ」と、シャノンとアラスター、そしてアリアへと目を向ける。
ここの結界を解除すれば、さすがにそれはすぐに気づかれてしまうだろう。この場にあからさまな警備体制が敷かれていないのは、そんなことをすればここが隠し場所だと教えてしまうことになるから、ということもあるだろうが、そもそも不審があればすぐに当主が気づくようになっているから、という理由が大きいだろう。
公爵家当主を出し抜ける人間など、普通に考えればまずいない。それこそ、リデラのような魔族でもない限り。
"ゲーム"では"使い捨てキャラ"であったはずのリデラが前面に出てきたことにより、みんなの注意はリデラへと向いている。この展開にはアリアは複雑な気持ちを抱くばかりだ。おかげでこうして上層部を騙すことができているなど、なんという皮肉だろう。
「……すぐ戻るわね」
不満そうな目を向けてくるノアへと、アリアは柔らかく微笑んだ。
本当によくできたもので、あちらとこちらでは時間の流れが違う。急いで戻ってくれば、不審に気づいた誰かがここへと辿り着く前に撤退することができるだろう。
(……お願い……!上手くいって……!)
アリアのその願いに応えるように、ガゼボに小さな花々が咲き乱れ、そこから眩い光が降り注いだ。